球団史上初の3年連続日本一へ挑むソフトバンク。今年のスローガンは「奪Sh!(ダッシュ)」だ。工藤公康監督がその意味…

 球団史上初の3年連続日本一へ挑むソフトバンク。今年のスローガンは「奪Sh!(ダッシュ)」だ。工藤公康監督がその意味を熱弁する。

「昨年はリーグ優勝できずに2位に終わりました。日本一にはなったけど、悔しい思いをした。来年は奪い返して、リーグ優勝、日本一になる。その強い思いを込めてこのスローガンにしました」

 毎年だが、スローガンはまず球団のなかで数十の候補の中から4~5つほどに絞られ、最終的には工藤監督もミーティングに参加をして決定される。今年目指すべき方向、今年やりたい野球がその短い言葉の中に集約されているのだ。

 リーグ優勝を奪いとる、ペナントを奪い返す。そのうえで日本一へ。

 また、スピード感あふれる言葉にもなっている。ここにもう1つの意味が込められている。

「昨シーズンは、ホームランは12球団トップ(202本塁打)でしたが、走塁や盗塁の分が足りていなかったと感じています。全力疾走、塁を盗む、次の塁へ積極的に走るという強い気持ちもこめた『奪Sh!』でもあるのです」(工藤監督)

 今年のホークスは、走る、走る、走る。つまり俊足選手にはかなりチャンスが訪れるというわけだ。



昨年、育成選手ながらウエスタン・リーグの盗塁王に輝いた周東佑京

 その「奪Sh!」の象徴とも言える選手が、まだ背番号3ケタの育成選手にも関わらず、今春のキャンプでA組スタートを果たしている。

 その男の名は、周東佑京(しゅうとう・うきょう)。

 群馬県出身、東農大北海道オホーツク硬式野球部から育成ドラフト2位で入団し2年目になる。「50m5秒7の俊足」とスカウト評。一塁到達もプロトップレベルの3秒8を記録していた。また、大学のリーグ戦では出場70試合ほどで通算40盗塁をマークしたという(本人談)。

 1年目の春先から、ある動画がきっかけで話題の人となった。

 二軍戦中継でのこと。平凡なショートゴロを放ったように見えたのだが、それを内野安打にしてしまったのだ。まさに驚異のスピード。その後も二塁打と思われた当たりを三塁打にしたり、強いゴロでもぎりぎりアウトだったり、周東の”快足”は若鷹ウォッチャーの心を躍らせた。シーズンが終わってみれば、ウエスタン・リーグ盗塁王(27個)に輝いた。

「ファームでしたが、昨年は本多(雄一/現・一軍内野守備走塁コーチ)さんや城所(龍磨/現・球団職員)さんとプレーさせていただく機会があったことで、いろいろ話もしたり教えてもらったりした。本多さんからは、リードの時に自分は帰塁する意識はない、常にスタートすることを考えていると言われました。城所さんからはシーズン終盤に、僕のリードの小ささを指摘されました。それで二軍の最後の3試合では思い切ってリードを大きくとり、計6盗塁を成功。タイトルを獲ることができたのです」

 シーズンオフに入っても、周東に休息はなかった。海外3カ国でプレーするなど、精力的に動いた。10月は「2018 WBSC U-23ワールドカップ」に侍ジャパンの一員として出場した。

「日本代表も初めてだったし、初めての海外がコロンビアでした」

 さらに、11月から年の瀬まではプエルトリコで行なわれたウインターリーグに参戦。26試合に出場して、「打撃が課題」としていたが打率3割4厘と奮闘した。

「プエルトリコでは変な意味ではなくて、気持ちに余裕を持ってプレーすることが出来ました。コロンビアは初海外だったし、なにより代表で戦うというプレッシャーもありました。当然結果が最優先です。ウインターリーグの方が自分のやりたいテーマのなかでできたと思います」

 そして年明け1月の自主トレは、チームの先輩の松田宣浩に帯同してグアムで行なった。

「松田さんにはいろいろな話を聞きました。たとえば打席での待ち方。僕は外に目付をするのですが、松田さんは内角に目付をして、そのなかでスライダーなどの変化球にも対応していると。僕と真逆。いろんなやり方があるんだなと思いました」

 その松田や内川聖一、今宮健太ら名だたるメンバーとともに、2月は宮崎で奮闘中だ。登録は内野手だが、外野を守ることもできる。

「1年目は外野での出場が多かったので、キャンプでは内野守備をしっかり練習する機会が多くなっています」

 ノックではまだミスも目立つ。取材を申し込んだ第2クールの頃は周囲との差を痛感し「ちょっと落ち込んでいます」と暗い目をした。

 その様子を見た古参のスタッフから「ノックを打っている本多コーチだって初めからうまかったわけじゃないし、松田だってそうだよ」と声を掛けられ、必死に前を向こうとしていた。

 現在、ソフトバンクの支配下登録選手は65名。上限まで5つの空き枠がある。

「スローガンの言葉から僕のことを連想してくれるのはうれしいです。でも、まず僕にとっての『奪Sh!』は支配下選手になること。どんどんアピールしていきたい」

 輝かしい光が見える立ち位置にはいるはずだ。駆けろ、周東佑京。