2018年の巨人にとって、岡本和真という新たな看板が生まれたことは大きなエポックメイキングだった。 身長185セン…

 2018年の巨人にとって、岡本和真という新たな看板が生まれたことは大きなエポックメイキングだった。

 身長185センチ、体重96キロという巨体。柔らかさと豪快さを併せ持つスイング。マイペースで無骨さを感じさせるキャラクター。これから名門チームの屋台骨を担っていく雰囲気が、この22歳の大器からにじみ出ている。

 岡本が昨季残した成績は、143試合にフル出場して打率.309、33本塁打、100打点。華々しい舞台で岡本が結果を残していた裏で、ファームではもうひとりの右の大砲がめざましい進歩を遂げていた。

 和田恋(れん)、高卒6年目の23歳である。イースタン・リーグ104試合に出場して、打率.296、18本塁打、87打点。本塁打王と打点王のリーグ二冠王に輝いた。



昨年ファームで本塁打王、打点王の二冠を達成した巨人・和田恋

 身長180センチ、体重88キロ。大きな体とインパクトのある名前とは裏腹に、和田の口からは威勢のいいコメントは聞こえてこない。本人は「あまり話すのは得意じゃないんです」と笑う。そんな控え目な人柄も手伝ってか、これまで首脳陣から高い潜在能力を評価されながら、目立った働きを見せられずにいた。

 2013年ドラフト2位で巨人に入団した和田は、プロでの5年間をこう振り返る。

「プロに入る前は、5年目までにはもう少し一軍でやれているイメージだったんです。でも、入ってみると木製バットに慣れるまでに時間がかかったのと、ピッチャーのレベルが一気に上がって対応できませんでした。スピードもキレもぐんと上がった印象でした」

 ファームでもがく和田に1年遅れて入団してきたのが、2014年ドラフト1位の岡本である。岡本もまた、大きな期待を受けながら、泣かず飛ばずの3年間だった。

 和田と岡本はともに長打力を売りにする右打者という、タイプが重なる選手である。互いに口も利かないほど意識し合うライバル……というならドラマ性もあるが、ふたりの間にそのような張り詰めた関係はない。和田は言う。

「まぁ1歳下ということもあって敬語は使ってくれますけど、ほぼ同級生みたいな感じです。和真は普段もあのとおり図太いので、あまり後輩という感じはしないですね」

 オフにはともに自主トレを組み、汗を流す仲でもある。今オフも山本泰寛らとともに慶應義塾大での自主トレに励んだ。だから昨季の岡本の活躍は、和田にとってもうれしいことだった。

 とはいえ、手放しで喜べるはずもない。ただでさえ競争が激しい巨人にあって、同じタイプの後輩が先に結果を残したのだ。和田はこんな本音ものぞかせる。

「和真の活躍はいい刺激になりましたけど、『負けられない』という気持ちもありました。タイプは一緒だけど、僕は僕らしく和真と違ったよさを出していきたいです」

 岡本と違ったよさ。今となってはとてつもなく高いハードルに思える。昨季の岡本のように広角にホームランが打てて確実性も高く、打点も稼げれば、右のスラッガーとしては満点に近い。

 和田が自分の長所として挙げるのは「打点」と「右方向の打球」である。

「ファームでも打点にこだわってやっていました。いかにチャンスで打てるか、ランナーを還せるかを意識しています。あと右方向に打てることも、みんなができるわけではないので、長所として伸ばしていきたいです」

 プロ入り後、高いレベルに圧倒されながらも、「スイングスピードを上げよう」と地道に取り組んできた。5年という時間を費やし、スイングスピードが上がったことで、ボールを手元まで呼び込めるようになった。技術的な進化が昨季のファーム二冠王へとつながった。

 また、チーム内には同じく右方向に強い打球が打てる長野久義という偉大な先輩がおり、生きた見本として大いに参考にしていた。そんな長野は丸佳浩のFA移籍に伴う人的補償として広島に移籍した。

「長野さんにはグアムの自主トレに誘ってもらったり、お世話になったのですごく残念です。でも長野さんがいなくなっても、他にもいい選手がいっぱいいます。そのなかで勝ち抜いていかないと」

 プロ入り後、主にファーストやサードを主戦場にしてきた和田だが、昨季からレフトやライトの外野に本格的に挑戦している。守備力が売りになるようなレベルではないものの、「落ち着いて守れるようになった」と本人は手応えを深めている。

 今季の巨人外野陣は丸のセンターが確定的で、レフトとライトを実績のあるゲレーロ、陽岱鋼、亀井善行、中堅・若手の石川慎吾、立岡宗一郎、重信慎之介、松原聖弥、そして和田が争うことになりそうだ。また、昨季MLBで20本塁打を放った新外国人内野手・ビヤヌエバが外野を守る可能性もある。越えなければならないハードルは依然として高くそびえている。

 4年連続で優勝を逃しているとはいえ、常に優勝を求められるのが巨人という球団の宿命。それゆえ注目を浴びること、競争が激しいことは和田も重々承知している。

「僕は18歳から巨人にいるので、もう慣れました。最初はメディアの数に戸惑いましたけど、もうそういうものだと思っています。でも、FAやトレードでやってきた選手からは『巨人はすごい』とよく聞きますね」

 昨季はわずか5試合、8打席ながら初めて一軍の舞台も経験した。「積極的に振りにいこう」という意識が強過ぎるあまり、ボール球に手を出して8打数1安打。結果は残せなかったが、この経験は和田にとって貴重な糧になった。

「僕は一軍と二軍の差は、実力以上に雰囲気が一番大きいと思っています。お客さんも多い独特な雰囲気のなかで、『1打席、1打席無駄にできない』と強く思い過ぎて空回りしてしまう。でも、今まで二軍の雰囲気しか味わっていなかったなか、去年は初めて経験できたので、今年につなげていきたいです」

 はたして和田恋は岡本和真と中軸を任されるだけの打者になれるのか。勝負の6年目はすでに始まっている。