「ラグビーW杯最前線 桜の下の戦士たち」 ●連載第1回:福岡堅樹(前編) いよいよラグビーワールドカップ(RWC)2019日本大会が、9月20日(金)より始まる。多くの日本人が関心を寄せるなか、日本の選手たちはどのような戦いを見せてくれ…

「ラグビーW杯最前線 桜の下の戦士たち」 ●連載第1回:福岡堅樹(前編)

 いよいよラグビーワールドカップ(RWC)2019日本大会が、9月20日(金)より始まる。多くの日本人が関心を寄せるなか、日本の選手たちはどのような戦いを見せてくれるのか。今回から日本代表候補の中でもチームの中心と期待される選手たちのインタビューを始める。第1回は、日本が世界に誇るスピードスター、WTB(ウイング)の福岡堅樹(パナソニック ワイルドナイツ)。日本が初めて決勝トーナメントに進めるかどうか。躍進のカギを握る26歳だ。



リラックスした表情で丁寧にインタビューに答えてくれた福岡堅樹

 ワールドカップイヤーの1月某日、福岡堅樹は秩父宮ラグビー場そばにあるカフェの階段を軽やかにのぼってきた。上は白いTシャツに紺色のダウンジャケット、下はブルージーンズとラフな格好だ。窓際のイスに座ると、右側からの、やわらかい陽射しが顔を照らす。その表情にはどこか余裕が漂っていた。

 年末年始、ラグビー日本代表の「顔」として、テレビ、新聞の取材にひっぱりだこだった。20才の時に日本代表に初選出されてから6年が経つ。若手選手3人と一緒にテレビ番組に出演した際は、トークの流れをリードしていた。

「もう、メンツ的に僕がしゃべるしかなかったから」と福岡は照れながら説明する。謙虚な言葉にも中心選手としての自覚がのぞく。

「リーダーという意味ではちょっと違うかもしれませんけど、経験値という意味では、多少、メディアとかに出させてもらってきましたから。これまで先輩にひっついてやっていただけなんで、後輩たちの中に入ったら、自分がリードできたらいいなと思っています」

―4年前の福岡堅樹さんと今の福岡堅樹さん、一番変わったのはどこでしょうか。

「う~ん、どうなんですかね。漠然とはしますけど、経験値というところが大きいと思います。具体的には、ワークレート(仕事量)の向上を自分の中では感じています」

―経験値といえば、例えば視野の広さとかでしょうか。

「それも経験値の中に含まれると思うんですけど、ある程度、高いレベルの試合でも多少、余裕を持ってプレーできるようになりました。そういう意味で、プレーの精度というものが上がってきているかなと思います」

―ボールを持っていないところの動きもよくなりましたよね。

「そうですね。それはエディーさん(エディー・ジョーンズ前日本代表ヘッドコーチ)時代から課題として挙げられていたところだったので、それが克服できるぐらいの体力的な部分の向上があったと思います。やっぱり、サンウルブズだったり、代表だったり、高いレベルでやってきたことを、試合で出せるようになったんじゃないかなと思います」

―成長するため、自分が出場した試合をビデオでチェックしますか。

「基本的には、自分が出た試合のビデオは必ず、見ます。とくに自分が関わったところなどの場面は。そこはもっと、こういう動きで入ったほうがよかったかなというのはチェックします」

―トライゲッターとしてのスピード、技術は素晴らしいです。そのほか、ウイングの仕事はディフェンス、キックチェース、キャッチ、いろいろありますね。

「そうですね。WTBは、(仕事を)探せば、やることがたくさんあるので。とくにジェイミー(ジョセフ・ヘッドコーチ)ジャパンになって、テーマとして、キックチェースというところは、自分がチームを引っ張りたいと意識しながら試合に臨んでいます。まあ、スピードが一番、出る部分でもあるので。そこで少しでも相手にプレッシャーをかけたいです」

―そういえば、昨年11月の日本×ニュージーランド戦の序盤、アニセ・サムエラのチャージ&トライを生んだキックオフからのキックチェースは鋭かったですね。

「簡単に相手にボールを捕らせないプレーを心掛ければ、そこでチームとしての勢いが出るので、自分の中でも意識しています」

―4年前のRWCイングランド大会にはどのような記憶がありますか。

「ほんとうにきつかった思い出が一番強いです。その思いを塗り替える南アフリカ戦の勝利(○34-32)でした。自分が試合に出ていなくても、ほんとうにハードワークをやってきてよかったなという勝利の味を味合わせてもらいました。自分個人のパフォーマンスとしては、負け試合(スコットランド戦●10-45)しか出られなかったということで、多少の不完全燃焼というか、煮え切らない思いもありましたけど、逆にそれこそ、2019年、2020年で結果を出すために、ひとつの挫折ではないですけれど、悔しさというか、それをバネにする、ということにしておけばいいのかなと。自分の中ではそう切り替えて、考えています」

―その悔しい経験があるから、いまの進化があるのですね。

「そこで全部燃え尽きていたら、次ではなかなか切り替えができなかったり、目指せなかったりするので、それはそれでよかったんじゃないかと思っています」

―”ホップ・ステップ・ジャンプ”でいえば、RWCイングランド大会はいわば”ステップ”だったということでしょうか。

「そうですね。ちょっとジャンプするために沈み込むというか、ため込んだ感じでしょうか。今年の日本大会でいい結果が出せれば、それがすべてだと思います」

―ところで、趣味がピアノということですが、テレビの番組内で、試合で走っている時にベートーベンの曲が頭の中で流れるって話されていました。それって、どういう感じですか。

「まあ、曲が流れるというか、番組の流れでつい言ったもので、そんな曲がずっと流れているわけではないんですけど」

―たまに流れるとして、ベートーベンの曲なら「運命」ですか。

「ははは。そこまで深く掘り下げてほしくないです」

―運命でなければ、第九ですか。

「有名どころの曲でいくとそういったところですね。昔、自分が弾いていた曲がいろいろ出てくるくらいということにしておいてください(笑)」

―自宅には白いピアノがあるそうですが、いつも弾いているのですか。

「最近ちょっと時間があるので、久々に触っています。シーズン中はなかなか触れないので…。代表(の合宿や試合)にいって、1カ月くらい家を空けたりすると、指が動かなくなります。だから、ちょっと時間があるときにやっている感じです」

―気分転換になりますか。

「はい。気持ちいいです」

―音楽で培ったリズム感はラグビーに好影響を与えているとお考えですか。

「間違いなく、生きているんじゃないかと思います。音楽はずっとやってきました。それこそ、0歳のときから姉のピアノ教室についていって、そばで音を聞いて、ずっと”ポンポンポンポン”って言っていたらしいです。そういうところから、リズム感が培われたのかなと思います」

 インタビューがリズミカルに流れていく。グラウンドをスピード豊かに駆け回るように。時折、鍵盤をたたいてきた両手の長い指が目の前でひろがる。話が熱を帯びる。

 アイスコーヒーの氷も溶けた。有名なベートーベンの交響曲第五番『運命』。出だしの「ダダダダーン」という音は、いわば、今年のラグビーワールドカップのドアを叩く音のような気がしてきた。

(つづく)

【プロフィール】
名前:福岡堅樹(ふくおか・けんき)
生年月日:1992年9月7日(26歳) 出身地:福岡県古賀市
身長:175cm 体重:83kg 血液型:A型
出身校:福岡高―筑波大 所属:パナソニック ワイルドナイツ
勝負メシ:うどん(関西風の薄いダシが好み)
勝負曲:これといったのはナシ。ただ試合前、いろんなジャンルの曲を聴く
座右の銘:stay hungry, stay foolish.(スティーブ・ジョブズの言葉)
趣味:ピアノ、ゲーム 特技:ピアノ、ボーリング(自己ベスト267点)
リフレッシュ方法:コーヒー(遠征時は自ら豆をひく。マンデリンが好み)
ゲン担ぎ:試合直前の精神統一。ロッカールームで瞑想し、戦闘モードのスイッチを入れる