あなたが知らないネイマール(1) ロシアでの熱い戦いからすでに半年が過ぎようとしている。多くの人にとってW杯はもう過…
あなたが知らないネイマール(1)
ロシアでの熱い戦いからすでに半年が過ぎようとしている。多くの人にとってW杯はもう過去のものだろう。日本でもスペインでも、たとえアルゼンチンでも、ロシアW杯が話題に上ることは少ないはずだ。
しかし、ブラジルだけは違う。ブラジル人は、いまだにあの大会のことを消化しきれないでいる。ブラジルはロシアの地で優勝するはずだった。前大会のリベンジを果たすはずだった。それがふたを開けてみるとベスト8敗退。まるでのどに刺さった小骨のように、ことあるごとにチクチクと痛むのだ。
なかでも一番納得できないのはネイマールのことだ。サッカーファンでないブラジル人でさえ、いったいネイマールはどうしてしまったのかと疑問を感じている。この大会で主役となるはずだった彼が、何を間違って世界中の笑い者になってしまったのか……。
それをひと言で説明するのはとても難しい。私は30年近くサッカーを取材し、多くの選手の記事を書いてきた。ペレ、ジーコ、ディエゴ・マラドーナ、マルコ・ファン・バステン、ロベルト・バッジョ、ルイス・フィーゴ、ジネディーヌ・ジダン……。しかしそのなかでもネイマールの記事は、もっとも難しい類のものとなるだろう。

2019年の初戦、フランス杯GSIポンティヴィ戦に出場したネイマール photo by Jean Catuffe/Getty Images
なぜならネイマールを、彼の行動を、どう説明していいかわからないからだ。それはけっして私がネイマールを知らないからではない。私はネイマールが17歳の頃から知っているし、約1年半、彼のごく近くで仕事をしていたこともある。だからこそ私は言えるのだ。ネイマールを説明するのは不可能に近い、と。
貧しい家庭で生まれ育ったネイマールは、5歳の頃から、学校ではなく、ピッチですべてを学んできた。11歳ですでにビッグチームに移籍し、12歳でレアル・マドリードに注目され、16歳でプロ契約をしたネイマールには、いわゆる普通の常識と触れ合う機会がなかった。彼の価値観は、サッカーの世界の持つ混沌そのものだ。普通に学校を出て会社勤めをしている人間とは、見える世界が違う。世間の人にとっての普通は、彼にとっては普通ではない。
私は自分に問いかけた。いったいネイマールのことを、遠い日本の読者にどう説明したらいいだろうか。いったいどこから始めようか。スポルティーバの読者の皆さんに、ネットで簡単に検索できる以上のネイマールをどう伝えようか。
彼を理解する唯一の手段は、ネイマールという人間すべてを知ることだろう。そうでなければ、ネイマールの真意を理解することはできない。ピッチの中の彼だけを見てネイマールを語ることはできない。金、スキャンダル、諍い、サプライズ……。ネイマールに関してのニュースは毎週もたらされ、それらがとても興味深いものであることは確かだ。良くも悪くも、ネイマールは人を惹きつける。
ネイマールすでに9歳にして有名人だった。誰もが彼の後を追った。それは彼にスター選手になるポテンシャルがあったからだ。
14歳ですでにサントスFCのスターだったが、2006年にレアル・マドリードが彼を練習に招待し、”ガラクティコス(銀河系軍団)”のブラジル人選手たち、ロビーニョ、ロナウド、ロベルト・カルロスらとともにプレーさせた。ネイマールの潜在能力を見て、レアルは5700万ドル(当時の為替レートで約68億円)をサントスに提示した。
しかし、ネイマール側にはサントスの育成プランに則って成長するという考えがあったので、彼はブラジルに留まった。そして17歳にしてサントスのトップチームへ。それからの2年間は、ヨーロッパのクラブチームからのオファーが、雨あられのように降り注いだ。そこにはウェスト・ハム、チェルシー、レアル・マドリード、バルセロナ、ラツィオ、ポルト、フェイエノールトといった有名チームが含まれていて、どのチームも彼を獲得するためなら何百万ユーロという金を払う用意があった。
有望な若手であるということが、ネイマールの人生を複雑にした。その混乱はその後も続く。当時のネイマールは、リオネル・メッシの地位をも奪えるもっとも有望な若手とされていた。その才能は彼をブラジル代表へと導き、ほどなくチームのキャプテンを任されるようになる。それも栄光の背番号10、ペレの番号を付けて、だ。
2017年、パリ・サンジェルマン(PSG)が史上最高額で獲得した時も、誰も疑問は持たなかった。彼には世界最強の選手になる能力があるのだから。やがて花咲く能力が、明日にもブレイクする能力があるのだから……。
しかし、ネイマールもすでに26歳だ。いつまでも「能力が……」とは言っていられない。大きな才能を持ちながらも、未だ開花することがない。いつのまにかネイマールは、一流選手と騒がれるだけで、実体のないものになってしまっているのではないか。
ネイマールはわかっていないようだ。いくら金をもうけても、見事なドリブルを見せ、多くのゴールを決めても、笑顔を振りまいても、ダンスを披露しても……今日では、それだけで一流選手とは認められないということを。
ネイマールは傲慢な人間でも尊大な人間でもない。その素顔はシンプルで冗談好きの明るい青年だ。ただ、周囲の評判や悪意を気にせず、自分の行動をあっけらかんと世間に公表してしまうので、それがしばしば非難の的となってしまう。
ここではいくつかのキーワードをもとに、ネイマールの素顔とそのバックグラウンドを紹介したい。
◆タトゥー
ネイマールは全身に36のタトゥーを彫っている。昨年10月末に彫ったものは首から腰にかかるほどの大作で、背中の左側にバットマン(バットマンは彼の大好きなヒーローだ)、右にスーパーマンが配されている。その他にも十字架、タイガー、オリンピックマーク、家族の似顔絵、ハートマーク、ボールの上に座った少年、バルセロナで勝ち取ったタイトルなどだ。
また、彫ってあるフレーズは彼の座右の銘とも取れるもので、彼を知るためにはとても有効だ。「人生はジョーク」「すべては過ぎゆく」「Sray Strong(強くあれ)」「Never ending love(永遠の愛)」……。しかし、もっとも興味深いものは「シー!」「黙ってろ」「あまりしゃべるな」だろう。彼は私にこう言ったことがある。
「皆がグダグダしゃべっている間に僕は行動する。多くのヤツらは口先だけだが、僕は足もとにボールを持ち、黙って行動するのさ」
◆モットー
ネイマールには、自分を表現する最適な言葉があるという。「Ousadia」と「Alegria」だ。このフレーズは彼のキャップにも、シャツにも、「パルカス」と呼ばれるマブダチのグループへの高価なプレゼントにも見られる。「Ousadia」は挑戦という意味。常に大胆で何事も恐れず、誰もやったことのないことに敢えて挑む勇気のことだ。一方。「Alegria」は陽気さという意味だ。
「すごく簡単なことだ」とネイマールは言う。「世界で一番重要な試合を笑顔でプレーすることさ。心からの笑顔を、いつでも、だれにでも向ければ、困難なことも乗り越えられる。皆が僕を非難しようとも、陽気であれば、それで大丈夫だ」
(つづく)