全スケーターにとって特別な舞台、全日本選手権の幕が今年も開いた。狭き門となった予選大会を勝ち抜いた選手のみに出場が許される今大会に、早大からは男女計3名が出場権を獲得した。シーズン初めから目標として幾度となくこの大会を口にしていた選手たち…

 全スケーターにとって特別な舞台、全日本選手権の幕が今年も開いた。狭き門となった予選大会を勝ち抜いた選手のみに出場が許される今大会に、早大からは男女計3名が出場権を獲得した。シーズン初めから目標として幾度となくこの大会を口にしていた選手たちが、それぞれの思いを胸に大一番に臨む。

 21日に行われた女子ショートプログラム(SP)、第1グループに登場したのは永井優香(社2=東京・駒場学園)。引き締まった表情で初めのポーズをとると、「リバーダンス」の音楽にのって、繊細な腕の動きで演技をスタートした。果敢に挑んだ冒頭のトリプルルッツが1回転になり、予定していた連続ジャンプに繋げることができなかったが、観客を演技に引き込んでいく。伸びやかなポジションの洗練されたスピンは、レベル4と最高の評価を受けた。見せ場となるステップの前には歓声が上がり、キレの増したはっきりとした踊りで客席を大いに盛り上げる。大きな動きひとつひとつに想いを乗せて、ダイナミックに滑る姿が氷上に輝いた。2つ目以降のジャンプでは調子を取り戻し、ダブルアクセルは美しく着氷。最後となるトリプルループは後ろにダブルトーループを加えて連続ジャンプとし、前半のミスのリカバリーにも成功した。「気持ちが負けていた」と本来の力を発揮できなかった点がある反面、「これから真摯にスケートに向き合っていきたい」という言葉に表れる途切れることのない強い気持ちが目立った今回の演技。演技終了後には涙も見えたが、最後まで美しく滑りきってフリースケーティング(FS)に望みを繋いだ。


引き締まった表情で位置につく永井

(記事 犬飼朋花、写真 尾崎彩)

 続く第3グループに登場した中塩美悠(人通4=広島・ノートルダム清心)は、最後のシーズンとして特別な思いで今大会に臨む。曲は、昨年から連続で使用する「Time to say goodbye」。「さようならだけではなくありがとうの気持ちを込めて」と語るこのプログラムには、しっとり切ない表現の中に中塩らしい爽やかな明るさが表れている。まずは勢いよく入ったトリプルトーループートリプルトーループの連続ジャンプを着氷。セカンドジャンプの方に回転不足を取られたが、それを自覚しながらも強い気持ちで前向きに演技を続けた。「ひとつの作品を観たような、あっという間に終わるようなものを」と以前語ったように、流れるような統一感で瞬く間に観客の心を掴んでいく。ゆったりとした動きの中でもターンで音を細かく使うなど、緩急をつけて曲を表現した。トリプルサルコウ、ダブルアクセルもしっかりと決め、西日本選手権時には叶わなかった目標、「ジャンプ3本」を揃えることを達成。美しいポジションのスピンでは回転の速さが際立ち、曲とともに盛り上がりを見せたステップの柔らかな雰囲気で会場を包み込んだ。優しく語りかけるような丁寧な動きに、磨き上げた美しいスケーティングが魅力を加える。最後のスピンで少しミスが出たが、それも含めて弾けた笑顔で演技を終えた。昨年は自身初となるSP敗退を経験したが、気持ちも表現も「去年と違う」滑りを武器に、FSへの切符を勝ち取った。


満開の笑みで演技を終えた中塩

(記事 犬飼朋花、写真 尾崎彩)

結果

▽女子SP

永井優香 24位 49.59点

中塩美悠 22位 50.86点

コメント

永井優香(社2=東京・駒場学園)※囲み取材より抜粋

――演技を終えていかがですか

単純に悔しい気持ちでいっぱいです。

――練習の成果は出せなかったでしょうか

こっちに来てから気持ちが負けていたと思います。ここに来るまではある程度の練習はできていたつもりだったんですけど、こっちに来て変わってしまったというのはまだ自分の弱いところだと思うので、しっかり向き合っていきたいなと思います。

――こっちに来て変わってしまった原因は

分からないので、これからよく考えてみようと思います。

――演技終了後、コーチとはどのような話をしましたか

やっぱり1本目は決めたかったね、というような話をしました。

――ここに来るまで調子が良い実感があったのでしょうか

すごく良かった訳ではないんですけど、普通に練習はできていたつもりだったので、ちょっとよく分からない気持ちです。

――東日本選手権の狭き門を突破してきた大舞台ですが

せっかく来させてもらって、出れない選手の分まで頑張らなきゃと思ってたんですけど、それができなかったのが申し訳ない気持ちでいっぱいです。

――中でも良かったことはありますか

正直こっちに来てからジャンプが跳べる跳べないじゃなくて、良い練習ができていなかったので、気持ちで負けているなというのはすごく感じます。

――これからシーズン続いていく上での糧になるのではないでしょうか

悔しい気持ちはいつも忘れないでやってるつもりなんですけど、ショート落ちすると思うんですが、ショート落ちするのは初めてで、やっぱり悔しいです。あと2年スケートやるつもりなんですけど、これもあって良かったなって思える経験になるようにこれから真摯(しんし)にスケートに向き合いたいなと思います。

中塩美悠(人通4=広島・ノートルダム清心)※囲み取材より抜粋

――良いスマイルが見えましたが

やっちゃったっていう笑顔でしたけどね。

――ラストシーズンとして臨んでいるとのことですけど、どんな思いで滑りましたか

やっぱり最後というか、引退があるから競技者として演技できるのはこの一年しか無かったから、それがプレッシャーでもあったけど、原動力にもなっていました。最後だからきょうは朝行こうかなとか、最後だし頑張ってみようかなとか向き合ってみようかなって思えたので、そこはラストというのを上手い方向にまわすことはできたかなと思います。

――普段の練習の時から気持ちが違うシーズンということでしょうか

そうですね。やっぱり私は準備が遅いからギリギリに行って靴履いて滑るみたいな感じだったんですけど、それだと怪我もするし、ちゃんと誰よりも早く行ってちゃんとアップして、そういう細かいところから小さなところから変えなきゃいけないなと思いました。多分周りの人から見たらあまり分からないと思うけど、そういう小さな積み重ねが今年はあったかなと思います。

――SPは2季目ですが、きょねんとことしでは入る気持ちは違いますか

入る気持ちも全然違うし、表現も余裕ができたというか、去年より自分色に染められたかなと思います。

――演技最後はどういう心境だったのでしょうか

アクセル降りて、フライングキャメルだけ!と思いました。そしたらフライングキャメルがぐちゃぐちゃになっちゃったので、あー、中塩したなと思って、さすが私と思って、詰めが甘いなと思いながら。でもその中でも点を取ろうと、何かもがこうとしたんですけど。FSでフライングキャメル頑張ります。

――ちょっとやっちゃったな、っていう方が出たという感じですか

そうですね、だいぶやっちゃった。空気を良いところまで持っていけてたのに、最後ボケみたいになっちゃって、しょうもないって感じでした。

――全日本選手権に向けて調整されてきたことはありますか

やっぱり林先生のチームは男子しか全日本に出場する選手がいなくて、長光先生のチームと合同で、高橋大輔さん(関大KFSC)とかと一緒に貸切を取って練習させていただきました。三宅星南くん(岡山理大付高)と、純也くん(渡邊、関学大)と、太一朗くん(山隈、ひょうご西宮FSC)と刑事くん(田中、倉敷芸術科学大)と、高橋大輔さんと櫛田くん(一樹、関学大)と私だったんですよ。ビュンビュンするし、皆体力あるし一人だけ付いていけなくって必死だったんでした。それでも自分のペースを保とうと思って、休む時にはオフしますって先生に言って休んで、頑張って自分のペースを保つのに必死でした。

――去年の全日本では同じSPでショート落ちという経験をされて今回はそのリベンジにもなったと思います。その点についてはいかがですか

ショート落ちが生まれて初めてだったんですよ。結構トラウマ的なところはちょっとあったけど、そういう弱い気持ちを見せたら負けると思って、最初トーループも詰まったけど、3回転跳ぼうと思いました。多分回ってないけど、強い気持ちでやったのは去年と違うところです。