2020年の東京パラリンピックのメダル獲得に向け、ブラインドサッカー日本代表は連綿とした強化を続けている。今年最後の公式戦となる「チャレンジカップ2018」が、11月4日(日)、町田市立総合体育館で行なわれ、日本(世界ランク9位)は、強豪ア…
2020年の東京パラリンピックのメダル獲得に向け、ブラインドサッカー日本代表は連綿とした強化を続けている。
今年最後の公式戦となる「チャレンジカップ2018」が、11月4日(日)、町田市立総合体育館で行なわれ、日本(世界ランク9位)は、強豪アルゼンチン(世界ランク2位)と対戦した。会場には1858名もの観衆が詰めかけ、同競技における注目度の高まりを感じさせる熱気に満ちた。
試合は前半3分、川村怜(Avanzareつくば)のゴールで先制するも、前半19分と、後半10分、17分に得点を許し1-3と敗れた。それでも川村のゴールは、07年の初対戦以来、5戦目にして初めてアルゼンチン相手に挙げた快挙の1得点だった。
8月の南米遠征で、アルゼンチンに初めて引き分けた結果に続き、ブラインドサッカー日本代表の歴史に確かな足跡を残した。
一度はGKに弾かれながらも、こぼれ球を冷静に射抜いたゴールの瞬間を川村は「ボールの音が聞こえたので、振り抜きました。(「GKの股下を抜いたが?」の問いに)多分、そうだと思います」と振り返った。「多分」としたその言葉の裏に、狙い通りに放ったシュートの実感をそっとしのばせた。川村は今年、日本代表が公式戦で挙げた14得点のうち10得点という結果を残している。
試合の流れが大きくアルゼンチンに傾いたのは、前半終了間際に決められた同点ゴールだった。
残り2分を切り、加藤健人(埼玉T.Wings)が相手陣内深く、右サイドでボールをキープする。緊張感のあるせめぎ合いが10数秒続き、その一連の攻防を会場全体が固唾を飲んで見守った。
主審の笛が吹かれた瞬間、「ファウルを得た」と観衆の安堵のため息が場内を包んだが、プレーはドロップボールで再開。会場全体が微妙な空気に陥った。
結果、直後に許したアルゼンチンのシュートは枠を外れて事なきを得たが、再開後にボールを奪われ、ドリブル突破で3人がかわされると痛恨の失点につながった。
「プレーが1回切れて、ふわふわしていた。ファーストDFの限定がちょっと遅れてしまった。(同じ)セットプレーでも、コーナーキックだと誰がいく、など明確だが、ドロップボールはみんな同じような距離(でのプレー再開)。ブラインドサッカーはとくに見えない状況だから、ドロップボールからの対応は難しかったと思います」(高田敏志監督)。
そのまま後半も変わってしまった流れを取り戻せず、2失点でほろ苦い逆転負けを喫した。
収穫といえば、前半は持ち前の組織力で主導権をほぼ手中に握ったこと、そして一本のドロップボールをきっかけに、ホームの観衆の空気が一変し「心理戦」の要素がより色濃くなったことを体感できたこと。今後は、そうした事態が起きた場合の対策の構築、そして後半のように圧倒的な個の力を前面に出してきた相手にどう対抗するか、貴重な「宿題」を提示された形となった。
今年は、「世界レベル」との対戦にこだわった1年だった。昨年マレーシアで行なわれたアジア選手権で敗退し、今年6月の世界選手権(スペイン・マドリード)への出場が叶わず、世界の強豪相手との対戦機会を失ったからだ。
その意味で、世界ランクトップクラスの強豪を招いて品川で行なった3月の「ワールドグランプリ」は、その後の強化の指針が明確に定まる機会となった。初戦はイングランド(世界ランク12位)を相手にエース黒田智成(たまハッサーズ)の2ゴールの活躍で2-1と勝利。同点以上で決勝進出となるトルコ戦(同6位)は黒田の負傷による途中退場も響き0-2と敗れたものの、5位決定戦のフランス戦(同14位)は川村のゴールで1-0と快勝した。
ここから高田監督は「自ら外に出向き世界と戦う」方向に舵を切り、5月に欧州遠征(ベルギー)、8月に南米遠征(アルゼンチン、ブラジル)が組まれた。
5月の遠征で、ベルギー・シャルルロワの国際大会を選んだのは、過去一度も勝利したことのないイラン(世界ランク5位)との対戦機会が欲しかったからだ。
そのイラン戦では、川村がゴール決めて1-0で勝利。16年リオデジャネイロパラリンピックで銀メダルを獲得している相手に、9度目の対戦で初白星を挙げ、貴重な勝利に自信を深めた。
8月の南米遠征は、リオパラ金メダルのブラジル(世界ランク1位)と、銅メダルのアルゼンチン(世界ランク2位)との試合が組まれた。長時間移動を伴う、日本とは全く異なる環境下での力試しだった。
アルゼンチンを相手に、前述の通り対戦史上初めての引き分けで、無失点という成果を達成すると、世界王者ブラジル相手にも、無失点での引き分けという快挙を成し遂げた。
5月はイランに勝利して、8月にはブラジル、アルゼンチンに無失点での引き分けと、リオパラの金銀銅のチームに対して、合計「勝ち点5」を獲得した。高田監督は謙遜するがホームではない試合ということを考えれば、描いた成長曲線は大きく鮮やかだった。
「(どんな強国相手でも)引き分けで勝ち点1を取って、相手に勝ち点2を渡さないというフェーズにきている。(メダル獲得に向けて)それほど遠くないところまで今年は来れたかな、と思っている」(高田監督)。
2020年、東京パラリンピックでのメダル獲得に向け、さらなる挑戦は続く。11月と12月に二度の代表合宿を組み、ブラインドサッカー日本代表は今年の活動を締めくくる。
*本記事はweb Sportivaの掲載記事バックナンバーを配信したものです。