泣いても笑ってもこれが『LAST』。1年の集大成となる早慶戦が敵地・慶大にて行われた。独特の雰囲気が流れるこの早慶戦。「後ろから見ている後輩から背中を押される気持ちになる」(澤入迅人(スポ4=静岡・常葉学園菊川))というように観客との距離…

 泣いても笑ってもこれが『LAST』。1年の集大成となる早慶戦が敵地・慶大にて行われた。独特の雰囲気が流れるこの早慶戦。「後ろから見ている後輩から背中を押される気持ちになる」(澤入迅人(スポ4=静岡・常葉学園菊川))というように観客との距離や出場する組手のメンバーが公式団体戦の倍の13人と他の試合とは一味違った試合である。昨年慶大に6対7で惜敗した早大だったが、今年は大将戦の前に勝利が確定するなど有終の美を飾った。

  大学自由組手の前に行われる形演武では石川みらい(社4=群馬・前橋工)、猪越優蘭(政経3=埼玉・早大本庄)、永田一紗(スポ3=茨城・水城)が最後の『慈恩』を披露。息のそろった動きで会場の雰囲気を作っていく。その後エール交換などを行い、いよいよ伝統の一戦が幕を開けた。先鋒は吉田翔太(スポ1=埼玉・栄北)。30秒で勝負を決めるなど幸先のよいスタートを切る。三鋒・伊坂夏希(スポ1=鳥取・米子東)も上段裏回し蹴りを相手選手に決められても、焦ることなく2本上段蹴りを決め、13―12で逆転勝利。公式戦では悔しい結果が多かった伊坂にとってこの1勝は格別なものとなっただろう。そしてこれからに期待できる粘り勝ちであった。その後も接戦が続き、早大が勝っては慶大が勝ってと早慶戦は徐々に熱気を帯びていく。そして三将・謝勁文(修士1=台湾・第七)が相手を倒して突きで1本。この開始30秒で勝利を収めた勝利によって残り1勝で早大の優勝が決まり、会場のボルテージは最高潮に。


謝の勝利に歓喜するメンバーたち

 『あと1勝』。これまでつないできた仲間の思いを背負って勝負を決めたのは副将・塚本惇樹(スポ4=千葉・拓大紅陵)。残り1勝ということから、両校緊張が走る。互いを見合い、プレッシャーをかけていく。均衡を破ったのは相手選手。間合いを詰めて、上段突きを奪う。しかし、すぐさま塚本も点を奪い、シーソーゲームに。そしてそのゲームを制したのは塚本であった。残り10秒で上段突きを決め、最後は相手選手からの攻撃を防ぎ切り勝利を手にした。審判の旗が上がり、歓声が上がる。歓喜の渦に包まれて初めて「勝ったんだな」と勝利を塚本はかみしめた。最後は早大の勝利が決まった状態での大将戦。「自分の空手人生の中で最後の試合でもあるので絶対に勝ちたい」(澤入)。澤入は途中上段蹴りを決められ3-3になりながらも残り3秒に上段突きを決めて、あとは相手からの技から避け切るだけであった。だが、最後まで何が起こるかわからないのが早慶戦である。『1秒の戦い』。残り1秒を切ったところで一瞬の隙をつかれ、上段蹴りが決まってしまい試合終了。相手選手の三澤剛輝(慶大)の隙を突いて序盤は作戦通りの「完璧なぐらいうまく決まっている」突きで澤入のペースに持ち込んで勝利が見えていたものであっただけにあと一歩に悔しさをにじませた。逆転負けを喫した澤入だったが「昔から蹴りもらう癖があって最後負けてしまったのですが自分らしかった」と試合後の表情は清々しかった。


最後の1秒に逆転負けを喫したが、善戦した澤入主将

 前期の試合では東京六大学大会5位など思うような結果が残せなかった早大空手部。しかし「試合を意識した練習」を行った合宿が功をなし、後期の関東大学選手権では41年ぶりのベスト4とたしかな結果を残した。今回の早慶戦は13対13で本来形の選手も出場した。試合には負けてしまったものの、自分から間合いを詰め、前で勝負をする姿には勝利への執念を感じた。一人一人の地道な努力が今回の勝利に結びついたのである。この試合をもって4年生は引退をする。だが、バトンは次の世代にたしかに託された。来年度の主将は笹野由宇(スポ3=東京・世田谷学園)。「チームを主将だからっていって1人で作るのではなく、チームみんなで1つのチーム」を作りたいと笹野は意気込む。部員との関わり合いを大事にしてきた澤入主将や幹部たち全員が協力して作ってきたものは間違っていなかった。「必ず笑顔で終われるように」(渡邊仁美(社4=東京・雙葉))。先輩の思いを受け継ぎ、新生ワセダが歩み出す。

(記事、写真 江藤華)

※掲載が遅くなり、申し訳ありません

結果

▽大学自由組手

早大 優勝 ○7-6慶大
先鋒 吉田翔太(スポ1=埼玉・栄北)     ○6-0

次鋒 鈴木捷太(スポ3=群馬・太田)     ●5-11

三鋒 伊坂夏希(スポ1=鳥取・米子東)    ○13-12

四鋒 中村朱里(スポ4=愛知・旭丘)     ○3-3(先取)

五鋒 天野陽仁(政経3=東京・早稲田)    ●4-6

六鋒 芝本航矢(スポ2=東京・世田谷学園)  ○9-8

中堅 有尾隆宏(法4=広島・修道)      ●6-12

六将 谷口輝 (スポ3=早稲田佐賀)      ●1-7

五将 笹野由宇(スポ3=東京・世田谷学園)  ○8-2

四将 渡邊仁美(社4=東京・雙葉)      ●0-6

三将 謝勁文 (修士1=台湾・第七)     ○6-0

副将 塚本惇樹(スポ4=千葉・拓大紅陵)   ○5-4

大将 澤入迅人(スポ4=静岡・常葉学園菊川) ●4-6

▽優秀選手賞

塚本、謝、伊坂

コメント

澤入迅人主将(スポ4=静岡・常葉学園菊川)

――優勝おめでとうございます!

自分が回ってくる前で勝ちが決まったので、率直にうれしい気持ちです。

――勝利が決まった上での試合でした。どんな気持ちで試合に臨みましたか

勝ちは決まっていましたけど、自分の空手人生の中で最後の試合でもあるので絶対に勝ちたいなと思いました。

――個人の試合を振り返って

最初、三澤くん(剛輝、慶大)の隙を狙うって決めていて前半完璧なぐらいうまく決まっていると思ったんですが、結局蹴り2本もらってしまって負けてしまいました。昔から蹴りもらう癖があって最後負けてしまったのですが自分らしかったなと思います。

――早慶戦は独特な雰囲気を感じます。実際コートを立っていかがですか

いつも勝とうとか気合い入れて出ているんですけど、早慶戦はそれ以上に熱いものを感じるというか後ろから見ている後輩から背中を押される気持ちになるのでいつもより強い気持ちでできる試合だと思います。

――空手部で過ごした4年間を振り返って

全体的に楽しかったと思います。試合も練習も学生主体でやっているのでチームということを意識しやすい部活だと思うので4年間楽しくできたと思います。

――以前対談で「あと2ヶ月ぐらいを全力でやっていけたら、主将としてやってこれてよかったと思える」と仰っていましたが、振り返っていかがですか

この2ヶ月、前期よりも濃い練習ができたと思うのですが、その関東(大学選手権)で3位になったのもありますし、最後早慶戦でもいい形で勝てたのでいい感じに2ヶ月頑張って飛ばせてきたと思います。

――主将をやってよかったですか

思います!

――後輩へのメッセージをお願いします

いつもの練習以上に気持ちが入った試合ができたので、普段からあの熱量を忘れずに練習してほしいです。

――来年度入学してくる長沼俊樹(保善)はどんな印象でしょうか

身長も大きいですし、力もありますし腕力というか、空手が強いっていう上で、競技の上でも力もある選手です。自分や塚本(惇樹、スポ4=千葉・拓大紅陵)という低身長が抜けてチームとしても高身長になってうまい戦い方というのを覚えてどんどん勝ってほしいです。

――最後に共に戦った同期にメッセージをお願いします

後輩の時は先輩に怒られて、上級生になってもOBに怒られる機会が多かった4年間だったのですが、そこがこの代の特徴というかいいところでもあって悪いところでもあって。そういうのもあって楽しくできたので、それぞれ今まで学んだことを生かしてこれから生きていこうと言いたいです。

塚本惇樹副将(スポ4=千葉・拓大紅陵)

――早大が優勝しました!率直な気持ちをお願いします

とにかくうれしいですね。全日本3位になるという目標もあったのですが、自分たちは何だかんだ集大成が早慶戦になるので、去年大将で負けてしまって悔しい思いをしたという経験もあるので今回勝てたのはとてもうれしいですね。

――塚本選手で早大の勝利を決めました

主将に綺麗に決めてもらうというあれも考えたんですけど、ここは確実に勝ちを狙いにいきました笑。最後の技は自分は決まったとは思わなかったのですが、審判の旗が上がっていて会場はすごい湧いていて、勝った瞬間も湧いて勝ったんだなって。自分で決めちゃって良かったのかなという気持ちもあったんですけど笑。とにかくうれしかったですね。

――優秀選手にも選ばれました

それも素直にうれしいです。大学入ってから自分自身、賞状やメダルをもらった経験がなくて。高校の時は県大会とか優勝して全国5位に入って賞状をもらう機会があったのですが、実際大学に入って全くそういう機会がなくて。その中で最後の最後に勝ってそういう賞状がもらえたということは自分にとっても自身にもつながるしすごい良かったことだと思ってます。

――早慶戦へ向けてどのような練習をしてきましたか

慶大の組手が結構ガツガツ手数が多くてとにかく前に前にという組手をしてきたので、自分たちはそれみてカウンターで返すというのが結構今までやられてきたので、相手に打ち負けないように普段から1回の当たりだけだったのを3回にだったりガツガツ相手とやり合うという練習をしてきました。

――試合ではその練習の成果が見えたように思えます

しっかり相手の動きを見れていました。やっぱり、今まで相手のごちゃごちゃしている中で技を見れないで単発で食らってしまうことが多かったのですが、ごちゃごちゃとした中でもしっかりと技を決めることができたので練習が生きた結果が勝利につながったのかなと思います。

――塚本選手にとっての早慶戦とは

とにかく、空手人生の終わりなので。自分は社会人になると土日も休めなくて基本的に今年は空手を見に行くこともできないですし、自分自身も空手をやれることも難しくなってくるので今回の早慶戦は最後というか『LAST』というか。(三役対談の際に)書いた通りですね。

――副将としての1年間を振り返って

副将としての立場としては、前のインタビュー(三役対談)でもそうなのですが、主将、主務にいろいろ仕事をやってもらっちゃって本当は自分が支えないといけないところもあったのかもしれないのですが。結構主将、主務が仕事をして自分は試合で勝つことが仕事だと思っていたので、最後はその仕事ができたので良かったんじゃないかなって思います。

――空手部での4年間を振り返って

環境が違って監督とも口を出して「こうやれ」と強制しなくて。自分たちの空手というのは自分で考えて練習してという形だったので思考力が身についたんじゃないかなと思います。社会に出ても仕事というのは自分から取りにいかないといけないし、そういうことを考えるとそういう力がついたんじゃないかなと思います。

――早大空手部とは

一言でいうと自主性のある部活だと思います。それも先ほどの質問と同じで、一人一人が自分の弱点を考えて、結構この何週間も練習中の時間の中に自主練という時間を取っていたのですが、その時も一人一人声を出して自分の欠点を直して実際の試合で生かすということが見れて、弱点が改善されたのを見れて、とにかく早稲田大学空手部は自主性のある部活だと思います。

――後輩へ向けて一言

まず早慶戦は勝ってほしいというのがあります。ていうのは自分が練習に行けないので。今まで通り、自主性で動いて行く部活になると思うので一人一人油断することなく強くなるという意思を持ってこれからも全国優勝目指して頑張っていってほしいです。

渡邊仁美主務(社4=東京・雙葉)

――早大が優勝し、昨年の雪辱を果たしました

私が空手部に入ってから基本的にホームでは負けて、アウェーでは勝つという感じで、去年負けてしまったので今年は勝ててうれしいです。

――試合を振り返って

もう少し頑張れたなと思う気持ちが正直ですね。

――初めての早慶戦ということで他の大会と比べて異なることはありますか

やはり緊張感がすごかったです。

――主務としての1年、空手部としての4年間を振り返って

とりあえずこの1年は辛かったです。この4年間は主務でもやることは多かったですし、空手でも得ることは多かったですが、それ以上に空手以外でチームワークでしたり何かをやり遂げる力とか仲間と何かをやり遂げる達成感とか自分で成し遂げる力だったり周りをまとめる力だったり、たくさん怒られたりたくさん経験して、たくさん楽しいことや辛いことなどある中でそういうものを得られて総合的に空手も空手以外でも学べていい4年間でした。

――空手をやってきて誰に感謝したいですか

中村朱里(スポ4=愛知・旭丘)です。

――それはなぜですか

いつも私のこころの支えで、うまくいくときもいかないときもすごく力強かったので、いつも朱里はいつも笑顔で強くて後ろで支えてくれるし、前で引っ張ってくれる、そんな私にとって欠かせない存在だと思います!

――来年は1年女子の組手の選手が入らないと女子団体組手が出場できません。そのことについて

入ってくれる確証はないのですが、今年早実(早稲田実業)から入ってくれたので、そこから呼び水となってどんどん女子も盛り上がってくれるかなと思います。

――後輩に向けて一言お願いします

辛いこともたくさんあると思うんですが、必ず笑顔で終えられる楽しい4年間にしてください!

笹野由宇(スポ3=東京・世田谷学園)

――優勝おめでとうございます

うれしいですね。塚本先輩(惇樹、スポ4=千葉・拓大紅陵))の時点で勝利が決まったので、主将は楽にやれるなと思いました。去年や一昨年は大将で決まったのですが、今年は前で決まったってことがとても良かったと思います。

――4―4で回ってきました

4-4で回ってきたとかはあんまり気にしてなくて。あとの残りを見て、あと誰が勝てるんだろうと計算して自分が1勝取れないとちょっと難しいかなと思ってそれで必ず1勝取ろうという思いで臨みました。

――最後は1本で勝利しました

最初先取して1ポイント目取れたので。そんな点数も気にしていなかったのですがたまたま倒しで倒れたのでそこをうまくつけたなと思います。

――4年生の存在とは

4年生の最後の2人ですね。主将と副将はやっぱり攻め方もうまいですし、これから見習っていかないとなと思っています。

――来年度主将となるということですが、主将としての意気込みをお願いします

主将として、チームを主将だからっていって1人で作るのではなく、チームみんなで1つのチームを作っていきたいと思っていて。その中でも自分が先に立ってリーダーとして、「ここはこうしたらいいんじゃないか」、「ここはこうするとできる」などアドバイスを出しながらチームで1つのいいものを作っていけたらなと思います。

――最後に来年度への意気込みをお願いします

主将となるのでチームをまとめながらも、試合では1つも落とさないで必ず勝つ選手になれるように頑張ります!