プロ2年目の松田鈴英(まつだ・れい/20歳)が好調だ。 ツアー初勝利こそ手にしていないものの、3度の3位を含めてトップ10入りが7回。獲得賞金は5000万円を超えて、賞金ランキング15位につけている(11月8日現在)。 初の賞金シード…

 プロ2年目の松田鈴英(まつだ・れい/20歳)が好調だ。

 ツアー初勝利こそ手にしていないものの、3度の3位を含めてトップ10入りが7回。獲得賞金は5000万円を超えて、賞金ランキング15位につけている(11月8日現在)。

 初の賞金シードを確定させ、目標としていた最終戦のLPGAツアーチャンピオンシップリコーカップ出場(※)も、ほぼ手中に収めた。
※同大会の出場資格は、今季ツアー優勝者や賞金ランキング上位25名など

 優勝争いを経験して着実に力をつけ、初の栄冠獲得もまもなくと見られる松田。先のNOBUTA GROUP マスターズGCレディース(10月18日~21日/兵庫県)でも最終日、勝ったアン・ソンジュに一時、1打差まで迫った。

 しかし、終盤に崩れて4位タイでフィニッシュ。ホールアウト後は、思わず涙がこぼれた。悔しさで涙するのは、それだけ優勝への思いが強い証拠。これを糧にしてまた一歩、初勝利へと近づいたのではないだろうか。



女子ゴルフ界期待の新鋭、松田鈴英

 松田は2017年、2度目のプロテストでトップ合格を決めた。そのため、昨季は8月の北海道 meijiカップ以降の後半戦にフル出場することができた。

 ただ、いきなりのトップツアー参戦で、当初は初めてプレーするコースに戸惑い、プロツアーの環境に慣れることに精一杯で、予選落ちが続いた。結局、14試合に出場して、予選通過はわずか4試合と、プロの洗礼を浴びた。

 それでも、ファイナルQT(※)を18位で突破して、今季前半戦の出場権を獲得。シーズン開幕後もコンスタントに結果を残し、今年から導入された2度のリランキングでも上位に名を連ね、フルシーズンの試合出場を確定させた。
※クォリファイングトーナメント。ファースト、セカンド、サード、ファイナルという順に行なわれる、ツアーの出場資格を得るためのトーナメント。現在はファイナルQTで40位前後の成績を収めれば、翌年ツアーの『リランキング』までの大半の試合には出場できる。

 好結果を残すきっかけとなったのは、6月のニチレイレディス。同大会で単独4位となって初のトップ10入りを果たすと、そこから頻繁に上位争いに加わるようになって、一気に成績が上向いていった。

 ニチレイレディスからここまでに出場した19試合中、予選落ちは日本女子オープンの1試合のみ。トップ5入りが5度あって、予選落ちが続いた昨年とは見違えるような成績を残している。

「結果が出ることで、自信がつきました」

 そう語る松田の表情からは、充実感が漂っていた。そして、プロテストに合格して以降のことについて、こう振り返った。

「(プロになったばかりの頃は)『プロゴルファーとして、成功しなくちゃいけない』という思いが強すぎて、ずっと空回りしていました。今年に入ってようやく結果を出せるようになりましたが、『プロとして』とか、あまり思い込みすぎないようにしたのがよかったのかもしれません。家族から『そこまで結果は求めていないよ』と言われたこともあって、ゴルフのことをもっと楽に考えるようにしたんです」

 松田が結果にこだわってきたのは、姉・唯里さんの存在もあるのだろう。

 唯里さんは、2014年の日本女子学生ゴルフ選手権のタイトルを獲得したほどのトップアマだった。昨年賞金女王になった鈴木愛や、昨年初優勝を飾ってブレイクした川岸史果らと同世代で、ナショナルチームでも活躍していた。

 才能豊かな姉の背中を見て育った妹は、「姉は当然プロになると思っていた」と語る。だが、事はうまく運ばないもので、福井工大ゴルフ部で活躍していた唯里さんが突然、「ゴルフが楽しくないから、もうやめる」と切り出したという。

 唯里さんの思いがけない告白は、家族にとってはまさに青天の霹靂だった。ゴルフを始めた頃からずっと支えてきた父親とは、かなりもめた。

「父と姉は、1年くらい口をきかなかったと思います……。でも、それを見て『もう、私がやるしかない』と思ったんです」

 そうして、松田はプロゴルファーになる決心を固め、プロとして結果を出すことに執着した。

 そんな彼女も、事がスムーズに運んだわけではなかったが、見事にプロとなって、今季は上々の結果を出せるようになった。松田が笑顔を見せて、こう切り出した。

「(プロとして活躍できる)こういう日が来るといいなって思ってはいたんですが、まさか今年、シードを取れるなんて思ってもいなかったです。正直、ホッとしています。でも、これからが大変。来年以降もシードを取り続けないといけないので、プロゴルファーって本当に大変だな、という思いがあります。

 そうは言っても、これが自分の仕事だと思えば楽しいですし、(好きな)ゴルフでお金を稼いでいるので、幸せだなと思います。それに、姉が私の活躍をすごく喜んでくれていて、『成長したね』と言ってくれました。それが、一番うれしいです」

 こちらが、松田選手の活躍を見て、ゴルフをやめると言ったお姉さんが一番ホッとしているんじゃないですか? と聞くと、松田は「ハハッ! 本音はどうかわかりませんが、それはあるかもしれませんね」と言って笑った。

 7月のセンチュリー21レディスでは、姉の唯里さんがキャディーを務め、その後も技術面やコースマネジメント、トレーニングメニューなど、唯里さんがいろいろなことを教えてくれているという。

「姉が私のキャディーをしてくれたりするのも、たぶん(私に)めっちゃ気を使ってくれているんだろうなって思うんです(笑)。来年も2試合くらい、(姉が)バッグを担いでくれるみたいです」

 家族が、有能な姉に託した”プロゴルファー”という夢は、いつしか”重荷”となって、挙句の果てには、妹の背中に重くのしかかった。だが、その”重荷”も今では家族で分け合って、松田本人は楽しく、充実したプロ生活を送っている。

 その姿が、家族にはとても頼もしく、輝いて見えるのではないだろうか。