人気・実力・選手層の厚さで、世界の総合格闘技界の頂点に君臨する「UFC-究極格闘技-」 。 WOWOWで2002年から2016年まで14年間にわたり放送してきたが、11月4日(日)に開催される「UFC230」から2年半ぶりのレギュラー復活…
人気・実力・選手層の厚さで、世界の総合格闘技界の頂点に君臨する「UFC-究極格闘技-」 。 WOWOWで2002年から2016年まで14年間にわたり放送してきたが、11月4日(日)に開催される「UFC230」から2年半ぶりのレギュラー復活放送となる。テレビでリアルタイムに楽しむことができるとあって、日本の格闘技ファンにとって、朗報だ。
今回は、日本人UFCファイターの先駆けであり、現役総合格闘家であるWOWOW解説者の髙阪剛に、あらためて現在のUFCの魅力と、間近に迫った『UFC230』の見どころを語ってもらった。
(c)GettyImages
UFCはこの2年半でさらに進化した
——WOWOWでUFCの放送が2年半ぶりに復活しましたけど、これは格闘技ファンにとって、本当に朗報ですよね。
髙阪:そうですね。総合格闘技の最前線であるUFCで、今起こっていることをテレビでリアルタイムに観られるというのは、すごく大きなことだと思います。WOWOWの放送がなかったこの2年半、UFC自体にも、もちろんいろんな変化があったわけですけど、総合格闘技の強さを最大限に突き詰めていくという、選手たちのその姿勢は変わらないので。常に技術革新が行われ、レベルが上がり続けている状況ですからね。
——MMA(総合格闘技)というのは、1993年にUFCがスタートしたときから事実上始まった比較的新しいスポーツですから、いまだ競技自体が成長過程にあるわけですもんね。
髙阪:その最先端であり、てっぺんがUFCなので。世界中の才能ある格闘家が集まり、そこで世界のトップたちがしのぎを削ることで、さらに進化するという動きが起こっていますよね。これは、UFCやMMAという競技の「土台」を作っていった先人たちの功績が、ものすごく大きいと思うんですよ。要は、あの人たちがいなければ、いまの技術の発展はなかったわけで。UFCがホール・オブ・フェーム(※)、殿堂というものを作ったのも、そういう意識の表れじゃないかなと思いますね。
(※)UFC殿堂(UFC Hall of Fame)とは、総合格闘技において大きな功績を残した選手、および総合格闘技の発展に著しく寄与した関係者に贈られる称号で、UFC創立10周年の2003年から設立されたもの。第1回UFC優勝者のホイス・グレイシーや、ケン・シャムロック、ダン・スバーン、ランディ・クートゥアら初期の名選手、さらにアントニオ・ホドリゴ・ノゲイラや桜庭和志ら、日本のPRIDEで活躍した選手たちも殿堂入りを果たしている。
RIZINなど多様化する総合の頂点がUFC
--またこの2年半、世界のMMAシーンを見渡すと、UFC以外のプロモーションも大きな注目を集め始めていますよね。
髙阪:総合格闘技がこれだけ世界中に広まり多様化してきたので、ファイターが目指すべき道というものも、また多様化してきていますよね。例えば、ベラトールMMAというUFCに次ぐ規模のプロモーションがありますけど、そこには元UFCチャンピオンや、UFCではトップになれなかったけど、自分なりのてっぺんの取り方として、そこを戦場に選ぶ選手が集まってきている。これは、総合格闘技のパイを増やすという意味で、いいことだと思うんですよね。
--日本のRIZINなんかも、異種格闘技戦的なマッチメイクや、軽い階級を中心とした女子選手の活躍などで盛り上がってますけど、これなんかも総合格闘技の多様化のひとつですよね。
髙阪:そうですね。総合格闘家が目指すべきものというのが、全選手必ずしもイコールでなくてもいい時代になっているんですよ。ひと昔前だったら、総合格闘技は「最強を目指す」という道が一本しかない、そういうイメージがあったと思うんです。でも、これだけ選手が増えれば、いろんな考えを持つ選手が出てくるわけで。それぞれ、自分が目指しているものに近い団体を選ぶという、そういう段階に来ている。でも競技として見ると、UFCは間違いなく総合格闘技の頂点なので、世界中のファイターたちが求める究極の道であるという、そこに最大の価値があると思います。
2階級同時制覇の最強王者コーミエ
--日本時間の11月4日(日)にアメリカ・ニューヨークのマディソン・スクエア・ガーデンで開催される『UFC230』では、メインカードでUFC世界ヘビー級タイトルマッチ、王者ダニエル・コーミエvs挑戦者デリック・ルイスの試合が組まれています。総合格闘技の頂点であるUFCの最重量級のタイトルマッチというと、これは事実上の世界最強決定戦ですよね。
髙阪:そうなりますね。とくにチャンピオンのダニエル・コーミエは、UFC史上初めてヘビー級とライトヘビー級の王座を同時に獲得した選手ですから(現在はライトヘビー級王座を返上)、間違いなく世界の頂点のひとりですよね。
--コーミエは端的に言って、何がそこまで強いんでしょうか?
髙阪:一言で言ってしまえば、「ヘビー級らしくないヘビー級」というのが、いちばんの強みだと思うんですよ。一昔前までは、ヘビー級の選手というと、体力や体格がものをいって、技術を超えた部分が大きい選手が多かった。
--ブロック・レスナーをはじめとした、技術を凌駕するパワーを持った「モンスター」ですよね。
髙阪:でも、ダニエル・コーミエというのは、身長180cmでヘビー級の中ではかなり小柄なので、その自分の体格と技術を使って、いかにして大きな相手を倒すのかということを、ものすごく考えている選手なんですよね。どうしてもフィジカルの部分では、相手にアドバンテージを取られてしまうけれど、試合中の力の配分や技術によって、相手のスタミナを奪うことで、フィジカルを封じ込めることができるんです。
--簡単に言えば、小よく大を制する術を最も持ったファイターということですか。
髙阪:そう言っていいと思います。個別の技術でいえば、コーミエはもともとオリンピック代表選手(2004年アテネ&2008年北京)なので、レスリング技術が大きな柱だったんですけど、ここ数年はどんどん打撃のテクニックが伸びているんですよね。
--とくに接近戦の打撃は一級品ですよね。
髙阪:ヘビー級タイトルを獲得した、スティーペ・ミオシッチとの試合(2018年7月7日『UFC226』)では、あれだけ体格差(身長13cm差)があるのに、右フックでKOできたというのは、自分の身体のことをすごく理解した上で、持ち前のレスリング技術と打撃を組み合わせた結果だと思うんですよね。そしてパンチの種類としては、前手のジャブ。左手のパンチがすごく伸びるんですよ。あれは、ほぼノーモーションで出しているので、対戦相手にとっては、すごく見えづらいはずです。あのパンチを身につけたことで、打撃でも先手を取れるようになった。だからレスリングと打撃という軸が二つできたことで、組んだ状態と、スタンドで離れた状態の両局面で圧倒できるようになっている。そこが、かつてのコーミエとの違いであり、現在のコーミエの強さを支えている部分だと思いますね。
予想がつかないルイスの底力
--一方で、挑戦者のデリック・ルイスは、この2年半で最も急激にのし上がってきたヘビー級ファイターですが、コーミエとは対照的な選手でもありますよね。
髙阪:そうですね。コーミエが「ヘビー級らしからぬヘビー級」であるのに対して、デリック・ルイスは「ヘビー級らしいヘビー級」。細かい技術は、ある意味で度外視して、「当たれば誰でも倒せるよ」っていう、強烈な一発を持った選手ですよね。だから、言ってみれば、穴はたくさんあるんですよ。この間のアレキサンダー・ヴォルコフ戦(2018年10月7日『UFC229』)では、早い段階からスタミナが切れて、かなり打撃もたくさんもらっていたにも関わらず、試合終了間際に一発で逆転TKO勝ちを奪ったように、たくさんある穴を埋めるだけの、得体の知れない力を持っている。ここが一番の魅力だと思います。
--ヴォルコフ戦では、あれだけ打撃でボコボコにされながらKOされない、打たれ強さにも驚かされました。
髙阪:あれは対戦相手は嫌だと思いますよ。「一体、どうやったら倒れてくれるんだ?」っていう、ある種の恐怖心が出てきて、攻めているほうが精神的に追い込まれていったりするんですよね。そこもヘビー級らしいというか、元K-1WGP王者でUFCでも活躍しているマーク・ハントなんかにも通じるものがありますよね。
--では、ダニエル・コーミエvsデリック・ルイスのポイントはどこにあると思いますか?
髙阪:ルイスが、当日どういう仕上がりで臨んでくるのかによるでしょうね。デリック・ルイスって、試合によって仕上がりにずいぶんムラがあるんですよ。「ロクに練習してきてないんじゃないか?」って思う試合も、正直ありますからね(笑)。でも、もともと潜在能力が高いので、そんな状態であっても、一発で相手を仕留めてしまうような、そんな強さがルイスにはありますから。
--当日まで、どんな状態で相手が出てくるのか、なかなか予想しづらいというのは、対戦相手にとって厄介なんじゃないですか?
髙阪:それは嫌ですよ。対策の立てようがないわけだから。だからこの試合は、デリック・ルイスの意外性や、追い込まれたときの底力に注目したいですね。MMAファイターとしての技術、能力ではコーミエのほうが全然上だと思うので。ルイスの方は、変にコーミエ対策なんか立てずに、本能で暴れてほしい。その方がいい結果が出るんじゃないか、なんて勝手なことをちょっと思ったりもしますよ(笑)。
--完成されたザ・MMAファイターのコーミエと、ナチュラルモンスターであるルイス。両極端だからこそ、予想がつかなくて面白いと。
髙阪:そういう試合になれば、絶対に面白いですよ。だからこそ、この試合はデリック・ルイスにかかっていると思います。
MMAの魅力がつまったミドル級戦線
(c)GettyImages
--『UFC230』のセミ・メインカードでは、ミドル級ランキング3位のクリス・ワイドマンと、同級5位のホナウド・ジャカレイのトップ5ランカー同士の対戦が組まれています。この一戦は、どう見ていますか?
髙阪:これは、メインのコーミエvsルイスとは対照的な、完成された最先端のMMAファイター同士の対戦ですよね。そして両者とも、コンプリートになんでもできるけれど、ワイドマンはレスリング、ジャカレイは柔術という、自分のベースであり最大の武器をそれぞれが持っている。そして、言ってしまえばレスリングも柔術も同じ組み技なんですけど、お互いやりたいことが違うというか。ワイドマンはテイクダウンして、上から攻めていきたい、でもジャカレイはグラウンドで下になっても関節を極めたり、スイープで体勢を入れ替える技術を持っている。そこがどう噛み合うのか。同じ組み技ながら、どちらが自分の領域で勝負できるのか、そこがポイントだと思いますね。
--あとミドル級というと、UFCでも「最激戦区」と言われることが多いですよね。
髙阪:それは自分も感じてますね。ミドル級というのは比較的重いクラスではあるんだけど、パワーがものを言うヘビー級と違って、軽いクラスのような闘い方ができなければいけない階級でもあるんですよ。試合の中のその局面、局面でいろんな切り替えをしていかなければならない。それを、あの体格でやるわけですから、相当な技術とフィジカル、メンタルも含めて高いレベルにいなければ勝てない階級だと思いますね。
——フィジカルと技術両方が最も必要な階級であると。みんな普段はヘビー級と変わらない身体をしているわけですもんね。
髙阪:リミットは83.9kgですけど、普段は100kg超えてると思いますからね。だから、ある意味で「バケモノ」のような身体を持ったファイターが、最高の技術を駆使して闘うのがミドル級なので、総合格闘技の魅力が詰まった階級とも言えるんじゃないかと思うんですよ。
--では、WOWOWでの放送復活を機に、初めてUFCを観る人にもうってつけの試合と言えるんじゃないですか。
髙阪:UFCには階級がたくさんありますけど、最初に見た方がいい階級かもしれないですね。だから『UFC230』は、アスリートvsモンスターというわかりやすい図式である、コーミエvsルイスのヘビー級タイトルマッチと、総合格闘技の魅力が詰まったミドル級のトップクラスの試合が両方組まれているので、WOWOWの放送再開という意味では、最高のカードが揃ったんじゃないですかね(笑)。
--では、11月4日(日)11時からWOWOWライブで放送される『UFC230』に期待しましょう!
(取材/文・堀江ガンツ)
◆◆◆ 番組情報 ◆◆◆
★『生中継!UFC‐究極格闘技‐UFC230 in ニューヨーク ヘビー級タイトルマッチ!2階級制覇ダニエル・コーミエが登場!』
【放送スケジュール】
11月4日(日)午前11:00~[WOWOWライブ]※生中継
【概要】
メインカードは史上5人目となる2階級制覇を達成したダニエル・コーミエと「ノックアウトアーティスト」と呼ばれるデリック・ルイスのヘビー級タイトルマッチ。さらに元UFC世界ミドル級王者クリス・ワイドマンとかつて日本のDREAMで活躍したホナウド・ジャカレイの対戦も決定。激戦必至の模様を独占生中継!
【出演】
ゲスト解説:川尻達也
解説:髙阪剛、堀江ガンツ
実況:髙柳謙一
進行:渋佐和佳奈
★『UFC IS BACK!究極格闘技が帰ってくる』
【放送スケジュール】
11月4日(日)午前9:00~[WOWOWライブ]※無料放送
【概要】
各界の著名人たちが、UFCの過去の大会から独自の視点で名シーンを選んでその面白さや魅力を伝える特別番組。さらに、10月に先行ライブ配信された「UFC229」のメインイベントで、ライト級タイトルマッチのハビブ・ヌルマゴメドフとコナー・マクレガーの試合もノーカットで無料放送にてお届け!
【出演】
ゲスト:玉袋筋太郎(浅草キッド)、松尾諭
解説:髙阪剛、宇野薫
進行:田中大貴
アシスタント:渋佐和佳奈
https://www.wowow.co.jp/sports/ufc/