10月24日、Tリーグが開幕した。

 この日は、男子の開幕戦で木下マイスター東京とT.T彩たまの試合がオープニングマッチ。両国国技館の前は相撲の聖地らしく、各チームのカラフルな幟が立ち、Tリーグの開幕をアピールしている。正門前は人でごった返し、なかなかのにぎわいを見せていた。



華々しく開幕したTリーグだが、多くの課題を残した

 個人的には試合はもちろんだが、開幕の演出に興味があった。

 もう25年も前になるがJリーグの開幕は、当時としては迫力のある演出だった。また、BリーグはLEDパネルを使ったコート演出が素晴らしく、NBAのような派手さで盛り上がった。

 Tリーグの演出はBリーグと同じようにソニーミュージックエンターテインメントが請け負うことになっており、映像、光、音を取り入れることで躍動感のある卓球の世界観を表現していくとリリースを出していた。アッと驚くような演出が披露されるのではないか……と大いに期待していた。

 18時30分、オープニングセレモニーが始まった。

 SATND UP! ORCHESTRAの演奏が始まり、T.T彩たまの吉村真晴が紹介され、続いて木下マイスター東京の水谷隼の名前が呼ばれ、ふたりは同じ台に立った。その後、岡山リベッツの上田仁と琉球アスティーダの松平賢二、女子の木下アビエル神奈川の浜本由惟との日本ペイントマレッツの加藤美優、TOP名古屋の森薗美咲と日本生命レッドエルフの石垣優香の名前が呼ばれていった。

 だが、特別な演出もなく、名前が呼ばれて台に立つだけ……。しかも、開幕なのにチーム全員が出てこない。翌日、試合がある選手もいるが、最初で最後の開幕だ。8チームしかないのだから全員出せばいいのにと思ったのは私だけだろうか。

「Tリーグを開幕します」

 松下浩二チェアマンの開幕宣言もシンプル。それがいいという人もいるだろうが、会場を沸かせるチェアマンの熱い言葉があってもよかったのではないだろうか。

 選手紹介では松平健太(木下マイスター東京)の際、出場していない田添健汰(木下マイスター東京)の画像が表示された。開幕戦で、しかも選手の写真を間違えるなど絶対にやってはいけないミスだが、訂正もなくそのまま終わってしまった。

 これでオープニングが終わったが、正直な印象としては地味。堅いというか、真面目なだけで遊び心がない。周囲の観客からも「すごーい」「おおー」といった演出に圧倒された言葉は漏れてこなかった。プロリーグのオープニングとして、もうちょっとドカンと花火を打ち上げてもよかったなと思う。
 
 すり鉢状の場内の中央に1セットだけ置かれた卓球台。周囲は明かりを落とし、戦うコートだけがライトで浮き上がっている。まるでローマのコロッセオのようでいい感じだ。

 試合はダブルスから始まった。

 水谷は「すごく緊張した」と言ったが、会場の観客も初めてのプロ卓球にどう反応していいのかわからない感じで最初は静かだった。だがダブルスが終わり、シングルスの1戦目、吉村真晴と大島祐哉の試合ぐらいから観客もほぐれてきたのか、選手に声がかかるようになる。

「がんばれ、ナンバーワン」と吉村を応援する子どもの声が響くと、大島の身内なのだろうか、「おおしまー! がんばれー」と大きな声がかかる。

 サッカーやバスケットボール、野球のような一糸乱れぬ応援はないが、素朴で「クスッ」と笑ってしまうような応援が届き、時々小さな野次も飛ぶ。牧歌的で、こういうのもいいなぁっと思った。これからリーグ戦が進めば、ユニフォームを着たサポーターが増え、タオルやマフラーを回すなど、チームごとに応援方法がより洗練されていくことだろう。
 
 試合そのものは、T.T彩たまも木下マイスター東京も主役が登場しているので、単純に面白かった。張本智和の活躍などで木下マイスター東京が3-0で勝っていたが、本当の盛り上がりを見せたのは4試合目の水谷と鄭栄植(チョン・ヨンシク)の試合だ。

 第4セットまで2-2で競り合い、最終の第5セットは6-6から始まった。10オールまでいき、最後は鄭が13-11で勝ったが、この爽快な好ゲームは観客の反応が一番大きかった。

「自分は負けてしまったけど、試合はすごく面白かったと思うので、こういう試合を今後も続けていきたい」

 試合後、水谷選手はそう言ったが、まさにその通りだと思った。

 初めて卓球を見に来たファンにどれだけインパクトを与えられるかが重要であり、「面白かった」と言ってもらえることが何よりも大事なことである。こういうゲームを今後、どれだけ見せていけるかがファン拡大のカギになる。

 面白かったのは、ラリーに対する観客の反応だ。

 ラリーが続くと、「おぉー」と感嘆の声が上がり、拍手もサーブで崩して取ったポイントよりも5倍増しになる。プロの試合なので勝つことがもちろん大事だが、白熱したラリーは観客を楽しませるために必須なようだ。

 選手は、Tリーグの試合を大きなプラスに感じたようだ。

 水谷も吉村も「観客の数が多く、すごく緊張した」と試合後に語っていた。世界選手権や五輪と同じように大勢の視線のなか、緊張した状態でプレーできることは、開幕して初めてわかったこと。

 5000人(開幕戦の観客は5624人)を超すファンの前でプレーする経験はそうそうない。そのなかでいかに自分の力を発揮していけるか。吉村はサーブミスを連発するなど明らかに緊張していたが、この経験を積み重ねていくことで大勢のファンのなかでも平常心でプレーできるようになるのではないだろうか。

「世界のレベルの選手と対戦できるのがよかった」

 試合後、張本はそう言ったが、それもTリーグのメリットだ。張本は世界ランク8位で対戦相手の黄鎮廷(ウォン・チュンティン)は世界ランク9位、世界ランク上位選手の試合が普通に実現している。8名の選手が出場したが7名が世界ランク30位内の選手だった。

 今回のように主力級の選手が出場すると、好ゲームが続く。だが今後、主力選手が世界ツアーなどで留守になった場合、そこをどう穴埋めしていくのか。「イニエスタを見たかったのに……」とサッカーではその選手見たさでチケットを買っても出場せず、ガッカリということがあるが、そうならないように中間層の選手の踏ん張りがこれからは必要になるだろう。
 
 コート上の熱い試合とは裏腹に、会場は満員にならなかった。

 4万円のマス席は空席のためか横になって見ている人がおり、2階席も空席が目立った。10万円のスーパープレミアムシートは完売したようだが、それはご祝儀的な意味合いが大きい。これからのリーグ戦でどのくらい集客できるのか。各チームの興行力、営業力が試されることになる。

 また、ハーフタイムは10分間あったが、特別な演出は何もなかった。貴重な時間だが何もなしというのは、ファンサービスという観点から果たしてどうなのか。場内も暗転したままでトレイなどにいった観客は戻ってくる際、席が見えにくく、大変そうだった。

 さらに、メディアにいる側から言わせてもらうと、試合後のミックスゾーンの仕切りは正直ひどかった。関係者が声かけしてミックスを統制していたが、ペンとスチールとENGが入り乱れていた。ミックスはペン、ENGとエリアを分けるべきだし、スチールを入れるならその専門エリアをつくるか、先に撮影を済ませてペンやENGを入れるべきだ。

 選手対応も出場した選手を4人並べていたが、質問された選手以外は時間を持て余すだけ。個別に対応してもらうか、全日本卓球選手権大会のように柵をつくり、選手をミックスゾーンに流していけばいいのではないか。それから試合後の公式会見は監督だけで十分。選手が同席してもミックスでまた同じことを聞かれるので必要ないと思う。

 とはいえ、両国国技館をあとにする多くのファンの表情は満足げだった。

「卓球を国技と言えるようにしたい」

 松下チェアマンの壮大な夢を現実にするため、最初の一歩を踏み出した。まだ、いろんな面で粗さが目立つが、Tリーグがこれからどんどんよくなる方向に変化していくことを期待したい。