2020東京五輪に向け「スポーツ業界で働きたい!」と思っている学生や転職を希望している人が多くなる中、どんな職種があるの?どんなスキルが必要なのか?など分からないことが数あり、仕事の実際を知ることが意思決定には重要となる。そこで、スポーツを…
2020東京五輪に向け「スポーツ業界で働きたい!」と思っている学生や転職を希望している人が多くなる中、どんな職種があるの?どんなスキルが必要なのか?など分からないことが数あり、仕事の実際を知ることが意思決定には重要となる。そこで、スポーツを仕事としている人にインタビューし、仕事の“あれこれ”を聞いた。
一般社団法人Tリーグ 広報宣伝部 部長 名前:江島彰弘(えじま・あきひろ)さん 職業歴:2017年~
仕事内容 ・メディアなどに向けた広報活動 ・チーム運営の整備 ・大会会場の設営・準備
取材・文/斎藤寿子 近年、世界トップクラスのプレーヤーが次々と誕生し、人気の競技となった日本の卓球。さらなる普及・発展を目指し、2018年10月より「Tリーグ」が開幕する。7 月には、国民的スターの福原愛が理事に就任したことが発表されるなど、注目されているスポーツ事業の一つだ。
現在、開幕に向けて急ピッチで準備が行われており、その裏方として働いているのが、広報宣伝部部長の江島彰弘さん。Tリーグがまだ一般社団法人化する前の2017 年6月に、正社員第一号として入社。リーグ運営や経営など、広範囲の役割を担っている。
現在、Tリーグには20人の社員がおり、そのほとんどが卓球界とは無縁の世界にいた人材ばかり。実は、江島さん本人もその一人で、本来専門は卓球ではなくバスケットボール。無類のバスケットボール好きが高じて、ライター業や広告代理店でバスケットボールのイベントに携わったこともあった。
そんな中、創設されたばかりのbjリーグの社員募集を見つけ応募。2005年のリーグ開幕から、2016年にNBLとともにBリーグとして統合されるまでの11年間、広報としてbjリーグを支えた。その後、バスケットボールの映像を配信する企業に勤めていたが、昨年bjリーグ時代の知人に、
“卓球がリーグを創設するから、手伝ってもらえないか?”
と声をかけられたのだ。当時は、卓球への知識がほとんどなかったという江島さん。入社への迷いは生じなかったのだろうか。
「卓球に関しては素人同然ではありました。しかし、新リーグを立ち上げるという点では、商品がバスケットボールから卓球に変わるだけで、やること自体はbjの時と変わらないだろうと。それほど迷いはありませんでしたね」
実は、江島さんがbjリーグの広報時代、「新しいリーグの創設」を目指していた日本卓球協会の関係者から、リーグの創設準備や運営方法についての相談を受けたことがあった。そのころから卓球協会とのつながりがあったことも要因の一つとなった。
そもそもゼロから新リーグ立ち上げに深く関わった人物はそう多くはいない。日本卓球界にとって、江島さんの存在は、貴重な人材だったに違いない。 リーグ開幕に向けて、実際にはどのような業務にあたっているのだろうか。江島さんの役割は、主に2つ。「メディアリレーション」と「チームリレーション」。つまり、メディアを通してPRする広報活動と、チーム運営の整備。
メディア戦略から試合会場の確保、日程調整、試合の運営方法など、その業務は多岐にわたる。その中で重要だったことは“チームや選手に参加したいという気持ちが沸いてもらえるようにする”だった。具体的には、チームを公募するための要件づくりで『外国人枠なし』『過去2年間で世界トップ10以内の選手を1人以上』などを明文化。そして、もう一つ重要なのが、いかに魅力をつくり観客を動員するかだ。飽きさせず“楽しかった!”という気持ちで、会場をあとにするような工夫を模索している。
「世界トップクラスの卓球の魅力を、さまざまな世代の人たちに楽しんでもらうためには、勝ち負けという部分だけでなく、コート内外での演出も大切な要素になります。
たとえ応援しているチームが負けたとしても“面白かった”“また来たい”と観客に思ってもらえなければ、事業は成り立ちません。なぜなら、どちらかのチームは負けるわけですからね。そういう点では、11年間、bjリーグで培った経験が生かせるはず。
それこそ、これまで卓球を見たことがなかった人たちにも、楽しんで帰っていただけるようなエンターテイメントな部分の仕掛けを作り出していきたいと思っています」
開幕1年目、全国から参加を表明したのは、男女それぞれ4チームずつの計8チーム。世界で活躍するトップ選手たちが、参加するのか、どのチームに所属するのかが注目されており、すでに平野美宇や張本智和、吉村真晴などの国内トップ選手や、中国からも有力選手が参加を表明し、チームユニフォームのお披露目も行われている。 bjリーグで培った知識や経験は、江島さんにとって『財産』であり『強み』となっている。とはいえ、bjリーグでの経験をすべてTリーグにあてはめることはできない。チームと個人という競技性も違えば、コートやボールの大きさもまるで違う。広いコートで、動きも大きいバスケットとは異なる難しさを要していることは確か。だからこそ、さまざまな方面のスキルをもった人材が必要なのだという。
「Tリーグでは何が可能で、何が難しいかを把握したうえで、今はリーグにふさわしい運営や演出を詰めているところです。僕も含めて、社員はほとんどが元々は卓球に全く関係のない仕事をしていた人たちばかり。でも、何かしらの強みを持っているからこそ頼りがいがあります。
例えば、音楽業界にいた人は、音楽を使ってどうすれば盛り上げられるのか、その知識があります。そうやって、さまざまな方面や視点からの意見を持ちより、新しいものが作りあげられていくんです。それは、本当にやりがいがありますよ」
もちろん、新リーグ立ち上げにはリスクもある。ほかのリーグの応用はできても、ゼロからのスタートであることに変わりはなく、必ずしも成功が約束されてはいないからだ。
そのため“ベンチャー企業と同じような強い覚悟が必要”だが、その一方で“道なき道を自分たちが開拓していく面白さ”があると江島さんはいう。それでは、どのような人がこの仕事に向いているのだろうか。
「初めてのことばかりなので、上手くいかないことが多いかもしれません。でも、そのことをいつまでも引きずって、その場で立ち止まってしまうのではなく、失敗を反省しつつも、すぐに気持ちを切り替え『じゃあ、次はこういうふうにしていこう』と考えられる人が、向いていると思いますね」
2018年10月24日、両国国技館から開幕するTリーグ。日本スポーツ界に新たな風をもたらしてくれる仕事になるだろう。 (プロフィール) 江島彰弘(えじま・あきひろ) 1975年生まれ、東京都出身。一般サラリーマンを経験した後、NBA、MLB、NFLのテレビ放送に従事。また、フリーライターとして主にバスケットボールを中心として取材、執筆を行う。2004年に広告代理店入社。バスケットシューズメーカーであるAND1の広告を担当。2005年よりbjリーグ開幕に伴い、日本プロバスケットボールリーグに入社。広報宣伝部マネジャーを務める。2017年6月より現職。HP:Tリーグ
※データは2018年8月31日時点