10月6日、南米アルゼンチンの首都ブエノスアイレスで、ユース五輪が開幕した。この大会は15歳から18歳までのアスリートによって競われるもので、これが3回目の開催となる。



ユース五輪・男子卓球で金メダルが有力視されている張本智和

 強豪サッカークラブであるボカ・ジュニアーズの元会長にして、現在は大統領のマウリシオ・マクリが市長時代に招致が決まったユース五輪。だがその後、アルゼンチン経済は悪化の一途をたどり、「とてつもない無駄遣いだ」という批判が巻き起こった。

 普通の五輪と違い、ユースの大会に外国から観戦者が押し寄せることはなく、観光収入は期待できない。アルゼンチン通貨ペソの下落は止まるところを知らず、1年前は1ドル17ペソだったのが、数日前には42ペソとなった。日々のインフレに苦しむ市民には当然の思いだろう。

 基本的には既存の施設を活用しているが、水泳競技用プールや5人制ホッケーグラウンド、選手村などは新設。市は多くの予算をつぎ込まなければならなかった。それでもオラシオ・ラレッタ市長は、「世界中の206の国と地域から4000人以上の選手が集結する大会を開催することは、ブエノスアイレスのみならずアルゼンチンの誇りだ」と力説する。

 ブエノスアイレス市は扇型をしており、競技会場はいくつかに分散しているものの、選手村などがあるメイン会場はその左上に位置する。この地区はかつてF1レースが行なわれたサーキット場や多くのグラウンド、空き地が点在し、人口密度が低い。勝手にバラックを建てて住み着いた不法居住者が多数おり、当然のごとく治安も悪い。

 その選手村は、大会後にマンションとして格安で販売されることになっており、すでに予約は殺到している。市長は、「市内で最も開発の遅れている地域に多くの新しい住民が入ることで、そこは活性化され発展していく」と、大会の副産物について強調している。治安面を考慮し、選手村の前には警察署も新設した。

 アルゼンチン五輪委員会のヘラルド・ウェルツェイン会長は、「この大会のために造った世界基準の競技施設は、今後、アルゼンチンの選手が試合や練習で使用するので、選手の育成に役立つ。多くのアルゼンチン人が世界規模の大会で活躍すれば、彼らに憧れてスポーツに情熱を傾ける子供が増える。社会問題である少年の飲酒、喫煙、薬物使用の対策に効果的なのは、彼らをスポーツに導くことだ」と、五輪効果にも触れて”無駄遣い説”に対抗している。

 この大会で、「五輪史上初の試みだ」と市長が胸を張るのは、開会式を街中で行なったことだ。「これまでの開会式はスタジアムで行なわれ、高い入場料を払わなければ観ることができなかった。しかしここでは、市民誰もが無料で観ることができる」と、画期的で開かれた五輪であることをアピールした。

 独立記念日の名を冠した市内を南北に貫くヌエベ・デ・フリオ(7月9日)大通り。4本の大通りとバスレーン、緑地帯で構成される道路の総幅は120メートル以上あり、歩行者は一度の青信号では渡り切れないことで有名だ。この通りとコリエンテス大通りが交差したところにそびえ立つのが、街のシンボルとなっているオベリスコ(英語ではオベリスク)。ボカが優勝すればボカファンが、リーベルプレートが優勝すればリーベルファンが、ここに集まって喜びを分かち合う。開会式はここを中心に行なわれた。

 たしかに画期的な試みではあるが、これにも異を唱える市民は多かった。特設舞台やスタンド、仮設トイレ、さまざまな装置の設置準備のため、10日前から車線規制が行なわれ、大渋滞を招いたのだ。さらに2日前からは全面閉鎖。市内最大の幹線道路がこのようになっては、市民生活に多大な支障が生じるのは当然だ。

 だが、幕を開けてみると、その開会式には、20万人とも25万人ともいわれる市民が詰めかけた。

開会式は、アルゼンチン国歌に合わせてオベリスコの先端から国旗を掲げた男性が歩いて降りてくるという演出からスタート。巨大な五輪が宙に浮き、その中でパフォーマーが技を魅せる。街のシンボルであるオベリスコは最大限に活用され、プロジェクションマッピングで七変化。陸上のトラックレーンになると、パフォーマーがそこを走り、水面になるとカヌーが漕がれるといったように、オベリスコがまさに競技場となった。

 選手入場はスペースが狭いため全員参加型でなく、各国の旗手1名だけがステージに上がって紹介された。アルゼンチンらしくタンゴショーありオフィシャルソングのお披露目ありと娯楽も盛りだくさん。最後はリオ五輪金メダリストのサンティアゴ・ランヘとパウラ・パレットによって聖火台に聖火が移され、それを合図に華麗な花火が夜空を彩った。

 五輪史上初となった街中での開会式だが、まずは成功したといっていいだろう。

 18日まで行なわれるユース五輪には、日本から23競技に91人の選手が参加している。ユース年代のため無名の選手が多いなか、卓球には張本智和と平野美宇のビッグネームが参戦した。

 ITTFワールドツアー男子シングルスで優勝した張本は、15歳ながら日本選手団の主将を務めている。この年代ではその強さは別格で、シングルスの予選リーグはすべて20分以内の3戦全勝。あまりの楽勝に、おなじみの”チョレイ”を発する機会すらなかった。平野も同じく3連勝で楽々とトーナメントに進出。今大会で行なわれるのは男女シングルスと混合ダブルス。張本と平野によるタイトル独占が期待されている。