【連載】道具作りで球児を支える男たち 湯もみ型付け(4)センナリスポーツ() 一風変わった細長い形状の店内に、ところ…

【連載】道具作りで球児を支える男たち 湯もみ型付け(4)センナリスポーツ

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 一風変わった細長い形状の店内に、ところせましとグラブが並ぶ。「ここ、昔は定食屋だったんですよ」。人懐こい笑顔、軽妙な語り口で繰り広げられる”関西流”のトークが心地よく耳に響く。

「野球の上達に一番適しているグラブが、湯もみ型付けを施した久保田スラッガーなんです」

 こう力説するのが、大阪市生野区にある「センナリスポーツ」で湯もみ型付けを始めとした加工を担当している荻野優二郎(おぎの・ゆうじろう)だ。




独立リーグでのプレー経験がある荻野氏

 荻野は「元・独立リーガー」という肩書きを持つ。上宮高、阪南大を経て、2007年から、四国・九州アイランドリーグ(現・四国アイランドリーグplus)の愛媛マンダリンパイレーツ、長崎セインツ(2010年に解散)で計2年間の現役生活を送った。当時はチェンジアップを武器とする左腕投手として活躍した。

 引退後は、父親が店長を務めるスポーツ店を継ぐべくスタッフ入り。かねてから久保田スラッガーを取り扱っていたこともあり、福岡支店での研修の話が舞い込んできた。

「スラッガーさんの実店舗で型付けはもちろん、接客の基礎も学ばせていただきました。この研修で得たものが今でも自分のベースになっていますね」

 荻野は2009年に6カ月間、福岡支店の研修スタッフとして過ごした。研修としては異例の長さで「半年間も研修させてもらったのは、後にも先にも僕だけじゃないですかね」と振り返る。

「どうせ行くのなら、徹底的にやりたいと思っていました。幸い、親父からも『とことん勉強させてもらえ』と送り出してもらっていたので、少しでも多くのものを吸収して大阪に帰りたかった。研修期間はアパートを借りて生活するので、家賃などの生活費を自己負担する形になります。それでも、自分が納得するまで勉強したかったんです」

 冒頭で述べたように、現役時代は左腕投手だった荻野。しかしながら、購入されるグラブの多くは右投げ用で、しかも久保田スラッガーは内野手用が売れ筋だ。

「自分自身が左投げで、現役時代に内野をやったことはほとんどない。ピッチャー用のグラブだと、ウェブ(グラブの親指と人差し指の間にある網のパーツ)の下付近で捕ることが多いんですが、内野手用はグラブの中心、もっと言えば手の平に近いところで捕球します。右投げの捕球について”真っさら”な状態だったのが、逆によかったと思いますね。『コレ!』というイメージを持っていたら、軌道修正に時間がかかっていたと思うので」

 今では最終調整として行なうキャッチボールも、右投げでサラリとこなす。「左投げの注文の方が少ないので、型を付けるときは気を使いますね。でも、どちらもバッチリ仕上げますよ!」と力を込める。

 型付けの際、荻野が念頭に置いているのが、「ユーザーが使い込んでいくなかで型が完成されていく」状態に仕上げることだ。久保田スラッガーには鳥谷敬(阪神)や本多雄一(ソフトバンク)らが使用するモデルもラインナップされており、それらを購入する顧客からは「本人と同じ型を付けてほしい」と要望されることも少なくない(選手使用のものは久保田スラッガー社の担当社員が型付けを行なっている)。その場合を例に、荻野が説明する。

「例えば、僕が型付けをしたサンプルと、(公式戦で久保田スラッガーを使用している)鳥谷敬内野手(阪神)のグラブを見比べていただくと、鳥谷選手のグラブの方が”開いている”ことがわかるかと思います。

 お客さんから『鳥谷選手の型にしてください!』と注文をいただいたときに、僕がやるべきことは、同じような見た目に仕立てるのではなく、”将来的に”その型になるような仕込みと湯もみ型付けを施すことなんです。グラブを使っていくうちに、革や紐が伸びていくことで馴染んでいきます。そうすることで、使い手の”型”を完成したうえで、見た目も近づいていきます」

 湯もみ型付けを施したグラブは、来店もしくは郵送で、定期的にメンテナンスを受け付けている。

「いい位置で捕球を繰り返しているお客さんのグラブだと、少しずつ広がっていって理想の型に近づいていっていることがわかります。革の擦れている部分を見て軌道修正したり、お渡しした後のメンテナンス、ヒアリングも大切にしています」

 自身の歩みについて語り終えた荻野は、「読んでほしいものがあるんです」と、いくつかの新聞記事を取り出した。いずれも「野球人口の減少」について報じたものだ。

「スポーツ店を営んでいて、ひしひしと感じているのが『野球人口の減少』です。少子化の3倍の速さで進んでいると言われるだけあって、店の周辺でも明らかに野球少年が減っています」

 100回目の夏を迎えた甲子園には、史上最多の97万人の観客が押し寄せた。プロ野球の各球団のスタジアムにも、多くのファンが詰めかけている。高まっているように見える”野球熱”と競技人口の乖離について、荻野が分析する。

「年々野球が”観るスポーツ”になっていると感じるんですよね。まるでショーを観る感覚で球場に足を運ぶ方が増えてきているのかな、と。でも、やっぱり野球は観るだけではもったいないと思うんです。プロ野球選手は何気なく、簡単そうにゴロをさばいていますが、いざやってみると難しい。そういう風に実際にプレーすることで『甲子園球児って、プロってスゲえな!』と、より深く、面白く野球を観るきっかけにもなると思うんです」

 昨今、指導体制について議論が交わされることの多い少年野球の現場についても、「あくまで僕個人の考えですが」と前置きをした上でこう語った。

「僕も仕事柄、少年野球の現場を見ることが多々あるんですが、『野球をうまくする』指導をしてほしいな、と強く思っています。野球少年たちは『オレ、うまくなってるなあ』と感じたときにこそ、”喜び”を感じて『もっと野球がやりたい! 続けるぞ!』となるはずなんです。

 指導にあたる方々は、目の前にいる野球少年たちを上達させることに注力してほしい。そうすれば、野球界の現状も変わってくると信じています」

 真剣な表情で話し終えた後、最後は笑顔でこう締めくくった。

「『野球がうまくなりたい』という思いに型付けで応えるのが、僕の仕事です!」