アジア大会のウエイトリフティング女子53kg級に出場した八木かなえ(ALSOK)は、クリーン&ジャークの最後の試技で、自己ベストを1kg上回る113kgに挑戦した。バーベルを首まで挙げるクリーンは余裕があったが、ジャークは差し挙げることができず、バーベルを落とすと苦笑いを浮かべた。



競技中には、笑顔も見えていた八木かなえ

「あの時点で、もう7位以内は決まっていたのですが、6位に並ぶためには113kgを挙げるしかなかった。一か八かみたいなところはあったし、しかも4年ぶりくらいに挑戦する重量だったのでちょっと不安もありました。でも挑戦するならここかなと。世界選手権になると思い切った挑戦はできなくなるので。結局取れなかったけど、あの重量に触れたことは収穫だったと思います」

 この大会で目標にしていたのは6位だった。決して高くない目標のように感じるが、1カ月半ほど前に腰を痛めた上に、2週間前には左手首に痛みが出てきて思うように練習ができていなかったことを考えれば妥当な目標だった。この日も左手首にはまだ痛みが残っていたという。

 また、アジアの女子ウエイトリフティングのレベルの高さも影響している。16年リオ五輪では、アジア勢が48kg級から63kg級までの4階級でメダルを独占している。

 昨年10月に、国際連盟はドーピング違反が多すぎる9カ国に対して11月の世界選手権から1年間の参加禁止を決め、アジアからは中国とカザフスタンが入っていた。それでも、世界選手権の53kg級は4位までアジア勢が占め、八木も6位に入っていた。

 今大会にも世界選手権優勝のソピタ・タナサン(タイ)と2位のキリスチナ・シェルメトバ(トルクメニスタン)、3位のヒディリン・ディアス(フィリピン)が出場している。

 スナッチはスタートから安定感十分な挙げ方をしていた。最後の3回目は自己ベストより1kg軽い86kgに挑んだ。これが成功すれば、103kgスタート予定のクリーン&ジャークも3回目には109kg前後になる予定で、合計が自己ベストに近い195kgぐらいをターゲットにした戦法だった。

 だが、その86kgは頭上でバーベルを後ろに逃がしてしまい止められなかった。

 八木は、「いい感覚で練習が積めていなかったというのはあるかもしれません。自信がなかったわけではないけど、正直あの重量は5月末の全日本選手権で挙げてから触ってなかったので、重量に対する感覚がちょっと足りなかったのではと思います」と分析する。

 スナッチ終了時点で、84kgの八木は7番手。タナサンが最初に90kgを挙げたあと、93kgを2回続けて失敗する波乱はあったが、シェルメトバとディアスの93kgと92kgの他にもふたりが90kgと、大きなミスをする選手がいないレベルの高い戦いになった。そんな状況を見て、八木は冒頭のようにクリーン&ジャークで勝負をかけたのだ。

「今回は自分の状態も考えて、記録ではなく順位を意識しましたが、正直190kgちょっとで6位はいけるかなと思っていました。でも、周りの選手が強くなっていて、それまでの記録よりすごい記録を出してきたのでびっくりしたというか……。ここ数年は『だいぶ差が縮まってきたな』と思っていたところで、またグイっと離されちゃったので、まだまだだなと思いました」

 結局、ディアスがトータル207kgで優勝し、シェルメトバが206kgで2位。3位は最後に激しい駆け引き合戦を制した、スロドチャナ・ハンバオ(タイ)が201kgで入り、キム・チュンシム(北朝鮮)が200kgで4位となり、八木はトータル190kgの7位だった。

 一方で、クリーン&ジャークの113kgの挑戦は感触がよかったと笑顔を見せる。

「もうちょっと練習ができていたら、取れたんじゃないかなというくらいの感触だった」と言い、もしその重量を挙げていれば、スナッチとの自己ベストとの合計はメダル争いにギリギリ絡める200kgになる。「実際に挙げてないので実感はないですが」というが、そのレベルも見えてきたのだ。

 しかし、八木の53kg級での挑戦はこれで最後になる。というのも、今年の11月の世界選手権からは、20年東京五輪でも実施される新階級の区分になり、八木は今のところ55kg級と、その下の一番軽い階級になる49kg級の、どちらを選ぶか悩みどころだと苦笑する。

「本当に悩ましいですね。それに五輪に出られるのは1カ国、1階級、1名になるので、そこがまた悩みどころ。世界で勝つためには階級を下げたほうがいいんですが、日本には三宅宏実さんがいて戦うことになってしまう。高校2年までは48kg級でやっていたけど、それ以降はずっと53kg級で、体重を50kg以下に下げたこともないので、どこまで下げて戦えるかもわからない」

 これまでの世界選手権や五輪は国別の出場総枠があり、その枠内なら同階級に複数の選手を出場させることも可能だった。だが今年7月に国際連盟は、東京五輪での出場選手数削減の必要もあり、リオ五輪の男子8階級、女子7階級から男子はひとつ減らしてともに7階級にして、すべての区分を変更し、出場は各国1階級1名と決められたのだ。

 ウエイトリフティングの場合は体重が上がればより重い重量に対応できるようになる。例えば三宅は、48kg級ではトータル197kg、53kg級では207kgがそれぞれのベストで日本記録となっている。

「一瞬だけ55kgにいったことがあるくらいで、普段キープしているのは53kgくらいなので、体重をこれだけ上げたから記録もこのくらいになるというのはわからないんです。それでもパワーがつけばまた記録も上がってくると思うので、これから様子を見ながらということになりますね」

 53kg級最後の国際大会となった、アジア大会では納得いく結果を出せなかった八木だが、東京五輪へ向けた新たな挑戦がここからまた始まる。