今年の1月から実施されているレスリングの新階級区分のうち、五輪で実施される全6階級で試合が行なわれているアジア大会の女子レスリング。そのうち50kg級から62kgまでの4階級が8月20日に行なわれた。



勝ちきることができず、悔しさの残る銀メダルとなった入江ゆき(左)

 この日は2階級を制した北朝鮮に加え、近年急激に力をつけてきているインド勢などの活躍が目立つ中、日本は53kg級の奥野春菜(至学館大)と62kg級の川井梨紗子(ジャパンビバレッジ)、ふたりの世界チャンピオン(奥野・17年55kg級/川井・17年60kg級)が、準決勝で敗退する波乱に見舞われた。

 さらに57kg級の坂上嘉津季(ALSOK)も1回戦で、今大会優勝したチョン・ミョンスク(北朝鮮)に敗れた。結局、決勝進出を果たしたのは50kg級の入江ゆき(自衛隊体育学校)のみだった。

 初戦の準々決勝では、エカ・セティアワティ(インドネシア)を序盤から攻め込んでポイントを重ね、開始1分2秒でフォール勝ちする強さを見せていた。

 続く準決勝では、世界選手権3位のキム・ソンヒャン(北朝鮮)を相手に、第1ピリオドは少し硬くなってしまい、序盤は攻め込まれ、4点を先取されて3-4で終えるヒヤリとする戦いになった。第2ピリオドでは巻き返し、大技での4点ポイントを含めてポイントを連取し、13-4で勝利を収めた。

 兄と妹ふたりもレスリング選手の入江は、中学3年のときに全国中学46kg級で優勝し、小倉商業高校時代はインターハイを2連覇。九州共立大では48kg級で全日本学生選手権を4連覇し、大学2年の12年には世界ジュニアと世界大学選手権で優勝している。自衛隊体育学校入りした15年には、アジア選手権で優勝、全日本選手権も初優勝と華々しい実績を積み上げてきた。

 だが48kg級はちょうどこの頃、12年ロンドン五輪まで日本のトップを引っ張ってきた坂本日登美に代わり、登坂絵莉(東新住建)が台頭してきた時期。その壁に阻まれて世界は遠かった。さらに16年リオデジャネイロ五輪後に登坂がケガで休養した時もタイトルが取れず、年下の須崎優衣(早大)に代表の座をさらわれてしまった。結果、須崎の世界選手権初出場初優勝の快挙を見ることとなり悔しさを味わった。

 その世界王者になったばかりの須崎を相手に、昨年の全日本選手権では準決勝で10-0のテクニカルフォール勝ちをおさめ、2度目の優勝を手にした。さらに今年の3月のワールドカップでも、決勝の対中国戦ではリオデジャネイロ五輪3位の孫亜楠にフォール勝ちして、日本優勝に貢献。存在感を強くアピールした。

 しかし、世界選手権代表の座を狙った今年の6月の全日本選抜では、準決勝で登坂を破ったものの、決勝では須崎に再びフォール負け。世界選手権の切符はプレーオフに持ち越された。そして、7月に行なわれた須崎とのプレーオフでも、終盤までリードしながら、終了間際に逆転負けを喫し、ここでもチャンスを掴むことができなかった。

 2020年東京五輪出場へ向けては、須崎に半歩リードされる形で、登坂を加えた三つ巴の状況だ。そんな立場だからこそ、このアジア大会ではきっちり優勝しておきたかったのが本音だろう。ただ、ほかの階級の選手が次々と負け、金メダルの可能性を残したのが自分だけの状況は、結果を求める以上にプレッシャーになってしまった。

 決勝の相手のビネシュ・フォガト(インド)は、入江が今年3月のアジア選手権準決勝で負けている相手。特に低い構えと体幹で、ブレない強さと速さのあるタックルは、防ぐのが難しい威圧感さえ感じさせるものだった。

 決勝ではそんな相手に、入江は序盤から攻めあぐねてしまった。互いに様子を見あってなかなかタックルを出せない展開が続いた中、開始1分25秒にいきなり腰のあたりにタックルに入られて倒され2ポイントを奪われると、そのままローリングで仰向けに返されてフォールを耐える姿勢を強いられ、もう2ポイント奪われたが、何とか抜け出して大きな危機を防いだ。

 第2ピリオドになると、なかなか仕掛けることなく守るビネシュにタックルを仕掛けてもつぶされる展開に。その後はビネシュへのコーションで1ポイントを獲得したが、攻め切れないまま時間は過ぎていく。最後は捨て身で仕掛けたが、仰向けに倒されると逆にポイントを奪われて2-6で負けた。目指していた金メダルではなく、銀メダルに悔しさが滲んだ。

「自分のスタイルを貫いていこうと思っていただけで、どういう作戦を取ろうというのはなかったですが、やっぱり始めから攻めにいけなかったですね。つぶし続けるとか、相手を動かすというのができなかった。3月のアジア選手権の後から、相手も(自分を)研究してきている中で、自分のレスリングを貫くための練習が足りなかったと思います」

 7月の須崎とのプレーオフで敗れた後は、このアジア大会へ向けて日本選手とは違う対外国選手用の戦い方に改善することを中心にやってきたという。その効果もあってスタミナが切れるということはなかったが、相手を動かしてチャンスを作ることができず、ポイントを取りたいという気持ちだけが先行してしまったと反省する。

「国内のライバルもいるからやっぱり負けたくないと思ったし、金を獲りたいと思っていました。悔しい結果ですが、これからはもっと自分のスタイルを体に染み込ませて、スピードを磨いていきたいと思います」

 次の目標は全日本選手権だという入江は「そこで優勝して来年の世界選手権や再来年の東京五輪につなげていきたい」と決意を口にする。

 自分をアピールすべきこの大会で悔しすぎる負けを経験したからこそ、三つ巴の戦いに向けての気持ちがさらに燃え上がっている。