88球完封の常葉大菊川・漢人、直球のストライク率75% 大会屈指の速球派投手を擁する金足農、夏2連覇を目指す花咲徳栄など、注目のチームが登場した14日の甲子園。大会10日目の試合を初戦と比較しながらデータで振り返ります。◇常葉大菊川 3-0…

88球完封の常葉大菊川・漢人、直球のストライク率75%

 大会屈指の速球派投手を擁する金足農、夏2連覇を目指す花咲徳栄など、注目のチームが登場した14日の甲子園。大会10日目の試合を初戦と比較しながらデータで振り返ります。

◇常葉大菊川 3-0 日南学園

◯攻撃指標
OPS 出塁率+長打率
wOBA 1打席あたりにどれだけチームの得点に貢献したかを表す指標
P/PA 1打席あたりの被投球数
O-swing% ボールゾーンのスイング率
Z-swing% ストライクゾーンのスイング率
Z-contact% ストライクゾーンのコンタクト率

【常葉大菊川】
打率.333 OPS .808 wOBA 0.354 P/PA 3.50
O-swing% 18.9%(前試合 6.8%)
Z-swing% 72.7%(前試合 66.7%)
Z-contact% 75.0%(前試合 91.7%)

【日南学園】
打率.241 OPS .508 wOBA .228 P/PA 2.84 
O-swing% 18.2%(前試合 26.4%)
Z-swing% 76.4%(前試合 68.5%)
Z-contact% 90.5%(前試合 94.0%)

◯常葉大菊川・漢人友也投手の各指標
P/IP 1イニングあたりの投球数
WHIP 1イニングあたりで安打、四球でどれだけ走者を出したかの指標
GO/AO ゴロアウトの総数をフライアウトの総数で割って算出

打者31 投球数88 WHIP 0.89
ストレート平均球速132.9キロ 最高138キロ
▼配給割合
高め 38.8%
中 14.3%
低め 46.9%

2試合通算 WHIP 1.37 GO/AO 1.54

 88球で完封勝利を収めた常葉大菊川の漢人投手。日南学園のP/PAが2.84ですから1人あたり3球も投げていない計算になります。漢人投手のコントロールが素晴らしく、Zone%(ストライクゾーンに球が投じられた割合)は全球種で62.5%、ストレートで75%にもなります。その球を積極的に振りに行った日南学園ですが、1回表無死一塁からショートライナーで併殺になったのを皮切りに、6回から3イニング連続の併殺打でことごとくチャンスを潰してしまいました。

 なお常葉大菊川の初戦のO-swing%は6.8%と56校中最も低い数値でしたが、この日南学園戦では18%に。しかし、選球眼が良い部類の数値であることは確かです。

吉田は1打席あたり4.28球を要し計154球に

◇金足農 6-3 大垣日大

◯攻撃指標

【金足農】
打率.310 OPS .998 wOBA .435 P/PA 3.65
O-swing% 12.9%(前試合 20.8%)
Z-swing% 67.9%(前試合 64.9%)
Z-contact% 87.7%(前試合 88.0%)

【大垣日大】
打率.182 OPS .462 wOBA .216 P/PA  4.28 
O-swing% 13.0%(前試合 26.7%)
Z-swing% 51.8%(前試合 63.6%)
Z-contact% 79.5%(前試合 90.5%)  

◯金足農・吉田輝星投手の各指標
打者36 投球数154 WHIP 1.00  
ストレート平均球速142.3キロ   最高149キロ
▼配給割合
高め 36.4%
中 15.6%
低め 48.1%

2試合通算 WHIP 1.11 GO/AO 2.11

 終わってみれば3失点13奪三振の完投勝利となった金足農・吉田投手ですが、投じた球数は154。大垣日大のP/PAは4.28にまで上昇しました。3ボール2ストライクのフルカウントになったのが9回と、大垣日大は吉田投手の球を見極めてじっくり攻め、序盤3回で3点を奪いました。

 しかし、4回以降は吉田投手のストレートがギアチェンジしたかのごとく球速や球威が増し、大垣日大の放ったヒットはわずかに1安打のみとなってしまいました。なお9回裏に吉田投手が投じた13球のうち11球がストレートで、その平均球速は145.3キロと最後まで威力は衰えませんでした。

 なお、吉田投手のストレートによる空振り率は7.7%でしたが、見逃し率は28.8%。13の三振のうち9つがストレート見逃しによるものです。試合後半は大垣日大打線が吉田のストレートに手が出ない状況だったことがわかります。

花咲徳栄はOPS、wOBAで上回るも…横浜・及川はスライダーでの空振り奪取率24%

◇横浜 8-6 花咲徳栄

◯攻撃指標

【横浜】
打率.314 OPS .775 wOBA .371 P/PA 3.57
O-swing% 23.0%(前試合 30.9%)
Z-swing% 72.4%(前試合 59.2%)
Z-contact% 76.4%(前試合 90.5%)

花咲徳栄 打率 .286  OPS .876  wOBA .392  P/PA  3.79 
O-swing%  15.2%  (前試合 24.1%)
Z-swing%  60.7%  (前試合 58.6%)
Z-contact%  90.2% (前試合 97.6%)  

◯横浜・及川雅貴投手の各指標
6回1/3 打者28 投球数98 WHIP 1.74
ストレート平均球速140.6キロ 最高145キロ  
▼配給割合
高め 38.8%
中 14.3%
低め 46.9%

2試合通算 WHIP 1.64 GO/AO 1.00

 夏連覇に挑んだ花咲徳栄の前に立ちはだかったのは、夏優勝2回の実力校、タレントも豊富な横浜でした。打率では横浜が上ですが、本塁打2本、四死球の数の差によりOPS、wOBAは花咲徳栄が上回っています。

 横浜は序盤、花咲徳栄の野村投手のゾーンいっぱいに投げ分ける投球に対してタイミングがあっていませんでした。しかし、3回と4回、球がゾーンの中に集まるようになったところを逃さず連打を重ね、花咲徳栄の守備のミスにも乗じ7-1とリードを広げました。

 しかし、花咲徳栄も終盤、本塁打2本などで追撃体制に入ると、最終回は横浜3番手・黒須投手の4四死球の乱調につけ込み2点差まで追い上げ、2死満塁一打サヨナラのチャンスを作りましたが、あと一本及ばず。

 横浜の及川投手はスライダーで24%の空振りを取り、序盤の試合の流れを作りました。勝ち上がった横浜は次戦、金足農業との対戦です。Z-contact%などに不安が感じられますが、吉田投手との対戦が見ものです。(鳥越規央 / Norio Torigoe)

鳥越規央 プロフィール
統計学者/江戸川大学客員教授
「セイバーメトリクス」(※野球等において、選手データを統計学的見地から客観的に分析し、評価や戦略を立てる際に活用する分析方法)の日本での第一人者。野球の他にも、サッカー、ゴルフなどスポーツ統計学全般の研究を行なっている。また、統計学をベースに、テレビ番組の監修や、「AKB48選抜じゃんけん大会」の組み合わせ(2012年、2013年)などエンターテインメント業界でも活躍。JAPAN MENSAの会員。一般社団法人日本セイバーメトリクス協会会長。
文化放送「ライオンズナイター(Lプロ)」出演
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