*写真は1992年バルセロナ五輪のワルドナー(スウェーデン)卓球界のファンタジスタといったら誰のことを思い浮かべだろう。真っ先にスウェーデンの英雄ヤン・オベ・ワルドナーの顔を思い浮かべる人は多いだろう。世界選手権とオリンピックで頂点に立った…

*写真は1992年バルセロナ五輪のワルドナー(スウェーデン)

卓球界のファンタジスタといったら誰のことを思い浮かべだろう。真っ先にスウェーデンの英雄ヤン・オベ・ワルドナーの顔を思い浮かべる人は多いだろう。世界選手権とオリンピックで頂点に立ったワルドナー。そして卓球ファンを魅了するスーパープレーの数々はいまだ色あせることはない。「卓球界のファンタジスタ」ワルドナーの実像とは。

プロフィール

ワルドナーは1965年10月3日生まれのスウェーデン人で現在53歳だ。1982年(16歳)にヨーロッパ選手権で決勝進出を果たして以降、2004年(39歳)のアテネ五輪男子シングルスで4位入賞を果たすまで、20年以上にわたって世界のトッププレイヤーとして活躍を続けた。この息の長い現役生活が、卓球界でワルドナーが幅広い世代に愛される所以だ。

ワルドナーは、世界選手権では金メダル6個を含む合計16個のメダルを、オリンピックでは金メダル1個(1992年バルセロナ五輪)、銀メダル1個(2000年シドニー五輪)を獲得した。

なお、1988年のソウル五輪で卓球が正式種目に採用されて以降、世界選手権シングルスとオリンピックシングルスの両方で金メダルを獲得したのはワルドナーを含めて男子5名、女子5名のたったの10名。なんと、そのうち9名が中国選手だ。偉大な成績を残した中国以外の唯一の選手といえるだろう。

どの時代に見ても色あせない新鮮で斬新なプレースタイル

ワルドナーの戦型は右シェークハンド両面裏ソフトラバーのドライブ型だ。そのスタイルはしばしば「オールラウンド」プレイヤーであると評される。

長いキャリアの中でも特にワルドナーが世界を驚かせた大会がある。それはワルドナーが31歳の時に迎えた1997年の世界選手権マンチェスター大会のシングルス(個人戦)である。1ゲーム21本の5ゲームスマッチだった当時の大会で、ワルドナーは元世界王者のガシアン、中国の新星・閻森、ベラルーシのサムソノフらの強豪と対戦し、全試合3-0のストレート勝ちで1989年のドルトムント大会以来8年ぶりの優勝を決めたのだ。

1997年世界選手権マンチェスター大会シングルス決勝の映像はコチラ


映像へのリンクはコチラ

上記映像の通り、ワルドナーのプレーの特長は
・前陣から後陣までどこからでも振れる破壊力抜群の両ハンドドライブ。
・前陣から中陣での狙いすましたカウンター攻撃。
・前陣での鉄壁というにふさわしい両ハンドブロック。
・変幻自在のサービス。
などどの技術もレベルが高い。

そして、まるで未来を見てきたのではないかと錯覚するような正確に予測されたプレーは見る者を驚嘆させる。

長年世界の頂点を争った中国元代表監督の蔡振華は後にこう語る。

「我々は常にスウェーデン選手の分析を続けたが、ワルドナーだけは分析し切れなかった。いつもプレースタイルを自在に変えてくるからだ」
相手によって、その状況その時々によってプレースタイルや戦術を変えることができる柔軟さ。それも特長といえるだろう。

世界ランキング

ワルドナーの世界ランキング最高位は1位。1983年に初めて世界ランキングトップ10入りを果たして以降、2008年頃まで約25年にわたって世界ランキング上位を維持した。

使用ラケット・ラバー

ワルドナーが使用していたラケットはDONICの「ワルドナー センゾー カーボン」。ラバーはDONICの「コッパJOゴールド」と「コッパJOプラチナ」を使用していた。(ラバーはどちらも現在は生産終了)

柔軟な考え方

ワルドナーは卓球の講習会などで何度も来日している。彼を知る人によると、講習会の際の車の移動中はいつも寝ていたそう。短時間でもすぐに眠ってしまうという。

抜群の心肺機能を持ち、故障知らずだったワルドナー。睡眠にも要因があるのだろうか。
子どもが中心の講習会でラケットの正しい握り方を質問された際、ワルドナーは「natural(ナチュラル)」とだけ答えた。

われわれはついたった1つしかない“正解”を求めがちだ。しかし、手の大きさや形、指の長さや形は人それぞれ違う。個性がある。“正解”にとらわれず、その人の個性に合った自然な握り方が大切だということなのだろう。

まとめ

インターネットが普及した昨今。それでも、ワルドナーの前の世代の卓球のプレー映像は極端に少ない。しかし幸運にもワルドナーのプレー映像はたくさん残されている。われわれは簡単にワルドナーのスーパープレーを楽しむことができるのだ。

それは、ワルドナーのスーパープレーを何度でも観たいと考えるファンが多いからではないだろうか。今後もワルドナーの伝説は語り継がれるだろう。そして数々のスーパープレーは、残された映像を通して卓球ファンを魅了し続けるに違いない。

文:菅家雅治(卓球ライター/卓球インストラクター)
写真:AP/アフロ