新潟県弥彦競輪場は全国に競輪場が50場あった頃から、今でも唯一の村営競輪場です。一度は訪れて欲しい競輪場を選ぶならば、ダントツで弥彦を挙げるでしょう。JR弥彦線弥彦駅の駅舎は越後一宮・彌彦神社をイメージして建てられたものでとても風情があります。そして、深い森は“森林浴の森”日本100選にも選ばれているのです。思わず深呼吸してしまう神域の厳かさと森に包み込まれる優しさが、訪れる誰をも迎え入れる雰囲気に溢れていて、また、名だたる温泉に囲まれてもいます。彌彦神社の参拝者にはお馴染みの弥彦温泉、近隣には観音寺温泉、岩室温泉と、競輪旅打ちファンには見逃せないロケーションであることは言うまでもありません。そして、米処ゆえにご飯の美味しさは格別なうえに、初夏には枝豆・弥彦むすめが絶品中の絶品でビールが進んでしまいます(笑)。


鬱蒼(うっそう)とした杉の高い木々に囲まれた神社を参拝していると、どこからともなくカ~ン、カ~ン……と、ジャンが聴こえてくる不思議な情緒が伝わる魅力的な場所で、弥彦駅から弥彦山に向かっての道すがらの彌彦神社。そして、競輪場へと歩みを進める、これはどこにもない弥彦独特の競輪街道です。

新潟で最も印象に残る選手は、私的にはやはり阿部康雄さん(新潟68期)でしょうか。そもそも競輪選手を志すキッカケが競輪場でイベントとして行われている実用車の“素人脚自慢競走”への出走だったのです。もちろん、自転車競技の経験もなく(高校時代はラグビー部)、職場の仲間に押されての出場でした。結果は予想に反して優勝!で、サラリーマン生活から競輪選手の道を選択して日本競輪学校に入学。そして、68回生卒業記念チャンピオンの栄冠に輝いてしまったのですから、本当に人生の選択肢はどこにあるのか分からないもの。新潟県からは初の卒業チャンピオンの誕生でもありました。
私は当時の担当番組で、早速、日本競輪学校から自宅に戻ったばかりの阿部康雄さんを取材。その第一印象は飾りっ気のない“おばあちゃん子”で朴訥(ぼくとつ)な方でした。大好きな食べ物は?の質問に「おばあちゃんの漬け物」という答えが帰ってきたのが印象的で、今でも忘れられません。


神山雄一郎さん(栃木61期)・吉岡稔真さん(福岡65期・引退)の東西両横綱時代には地味ながらも玄人好みの自在型選手。そこには新潟県人らしい粘り強さが感じられました。その後も忘れた頃に(失礼)大穴を開ける選手、そこにはあきらめない心があるからだと思います。派手さはないけれども、1日の目の前のレースをキチンとこなす。実はこれがその日、投票して下さるファンの皆さんには一番ちゃんと向き合っていることになりますよね。だから時に大きな配当を生み出すレースの主人公になれる。正直な感想を言わせてもらうと、デビュー当時の印象からは考えられない活躍ぶりです。

弥彦競輪場が全国から大きく注目を浴びたのが平成元年(1989年)に始まった『ふるさとダービー』でした。まずは広島、次に福井と行われ、3場所目の平成3年(1991年6月)に組まれたのが『ふるさとダービー弥彦』でした。“ふるさと”の名称がこれほどピッタリくる場もなかろうという声がしきりに挙がったもの。開催のキャッチコピーも“ステキな村の競輪場”で、文句なしに秀逸だったものです。
今では当たり前になった4日制の開催はこの頃に始まりました。これまでは通常3日のトーナメント制。G1特別競輪は6日制の中で、4走がパターンとなっていますから、途中に休む日が挟まるのです。4日制の勝ち上がりにはこのインターバルともいうべき休日がないので、ベテランの自力型選手にはコンディションの調整が厳しいという訳です。

さて、平成3年6月25日の『ふるさと弥彦』の決勝戦は坂本勉さん(青森57期・引退)が先行日本一のプライドを懸けて一気にカマシ、追走の俵信之さん(北海道53期・引退)がこのチャンスを逃さず優勝。ファン向けの優勝者当てクイズの賞品が米処の新潟にふさわしいコシヒカリ米10俵でした。優勝者の“俵”に、副賞の“米”と、なんとも愛嬌のある結果という余録(よろく)も忘れられません。


この取材や観戦を終えて、競輪場を後にした時、その居心地さに改めて足を運んでみたいという思いにかられました。弥彦村の小学校の副読本『わたくしたちの弥彦村』に競輪場が紹介されています。また、ホームページ上にも名所・史跡のコーナーで弥彦競輪場のことも漏れることなく記載。こうした村のみなさんの努力や姿勢がこうした大会の総売上にも反映され、前回の『ふるさとダービーを大きく上回る177億円の数字を弾き出しました。毎回、売り上げの上がっていった時期とも重なるのですが、弥彦競輪場の奮闘はいつも話題になっていたものあります。
もう一つ、競輪旅打ちファンにオススメしたいのは冬の弥彦競輪場です。冬になると雪に覆われてしまうので開催はありませんけれども、静寂に包まれた雪景色の弥彦競輪場と神秘的な雪の彌彦神社は一見の価値あり。もちろん、温泉に浸かって冬を堪能するにはもってこい。これも「思い出に残る競輪旅打ち」かも知れませんよ。

【略歴】


設楽淳子(したらじゅん子)イベント・映像プロデューサー

東京都出身

フリーランスのアナウンサーとして競輪に関わり始めて35年
世界選手権の取材も含めて、
競輪界のあらゆるシーンを見続けて来た
自称「競輪界のお局様」
好きなタイプは「一気の捲り」
でも、職人技の「追い込み」にもしびれる浮気者である
要は競輪とケイリンをキーワードにアンテナ全開!