【連載】道具作りで球児を支える男たち RYU・後編(前編はこちら>>) 中日・松坂大輔が使用していることで話題となっ…

【連載】道具作りで球児を支える男たち RYU・後編

(前編はこちら>>)

 中日・松坂大輔が使用していることで話題となっている、河合龍一(かわい・りゅういち)が立ち上げたブランド「GLOVE STUDIO RYU」のグラブ。唯一RYUを取り扱っている、岐阜県羽島市のスポーツ店「ますかスポーツ」には、松坂の登板翌日を中心に問い合わせの電話が数多くあるが、「現物を見てみたい」と店舗に足を運ぶ顧客も少なくない。




オールスターでは特別仕様のRYUのグラブを使用した松坂

 少年野球の選手から、週末の草野球を楽しむ年配のプレーヤーまで。幅広い年齢の顧客が訪れ、店内にあるRYUのサンプルに手を通す。ますかスポーツの代表取締役・五十住友昭(いそずみ・ともあき)は言う。

「高校野球の選手だけでなく、小学生から草野球プレーヤーまで、多くのお客さんが『RYUの実物を見たい』と店舗に来てくれています。来店した多くの方が、『これはすごい!』、『実際触れてもいいなあ』と年齢関係なく”野球少年”の顔で喜んでくれる。『この仕事をやっていてよかった』と、スタッフ一同で感じる瞬間です」
 
 そのなかに、五十住の印象に強く残っている顧客がいる。宮城から車で来店した元高校球児の青年だ。時間にして約14時間。長い道のりを経て来店したことに驚き、五十住は尋ねた。

「時間はもちろん、高速代とガソリン代もばかにならない。今の時代、グラブに関する情報は、ある程度ならネットでも手に入るし、オーダーもFAXを1枚送れば完結する。それにもかかわらず来てくれたことにビックリして、『なぜ宮城から来てくれたの?』と聞いたら、『どうしても実物を見てみたくて』と言ってくれたんです」

「実物に触れて、納得した上でオーダーしたい」という真っ直ぐな気持ちに、胸が熱くなった。そして、かねてから抱いていた思いをこう吐露する。

「RYUを販売していくなかで、職人と僕の共通意識のひとつが『学生プレーヤーの限りある野球人生を後押ししたい』という思い。特に高校野球は2年半しかないわけで、そこで『グラブは半年待ちです』となってしまうと、時間的に間に合わない場合も出てくる。それぞれのカテゴリーに優劣はもちろんありませんが、可能ならば、学生選手たちにスポットを当ててあげたい。そこで、軟式野球プレーヤーの青年に、『自分のグラブより学生の納期を優先させるとしたら、やっぱり快く思わない?』と尋ねてみたんです」

 するとその青年は、「自分も高校野球をやっていたので、2年半の短さ、そのなかで納得のいくグラブに出会う難しさはよくわかります。優先してもらうのは、全然かまいませんよ」と、笑顔で答えた。この言葉を受け、「いいお客さんに恵まれている」と再認識したという。

「今、オーダーグラブは半年以上待っていただいています。『遅い!』と言われてもおかしくない状況ですが、そういった苦情はほとんどありません。『待ってでもほしい』と言ってくださる方ばかりで・・・・・・。本当にありがたいです」


「RYU」のグラブを取り扱う「ますかスポーツ」の五十住氏

 通常、オーダーグラブは、発注をかけたタイミングで料金を支払う”前金制”を採用することがほとんどだ。既製品に比べ高価なため、発注後のキャンセルや、完成品の受取拒否への対策という側面もある。しかしながら、RYUのオーダーは完成後に代金をもらう形を採っている。これも五十住の”ポリシー”のひとつだ。

「もちろん、キャンセルなどのリスクを考えたら、前金制のほうが安心です。でも、お客さんが『時間がかかってもほしい』『RYUのグラブをますかスポーツで買いたい』と、”覚悟と信頼”をもって注文してくれている。店としても、その強い気持ちに対して”信頼”で応えたいんです。ひょっとすると、認知度が上がるなかで冷やかし目的のオーダーをする人も出てくるかもしれない。でも、それはひと握り。お客さんに恵まれている、支えられていることが実感できているので、そこを変えるつもりはありません」

“松坂世代(1980年4月2日から1981年4月1日までに生まれた世代)”の2学年上にあたる五十住。同世代の松坂が見せる復活劇から、大きな勇気をもらっているという。

「松坂さんは、同世代のスーパースター。そのスターが過去の栄光にすがらず、死にもの狂いで戦っている。微力ながら、その戦いに携われているのはこの上ない喜びですし、『まだ夢を見ていいんだ』と自分自身も励まされている気持ちです」

 この”夢”とは、「RYUを日本一のグラブメーカーにする」ことだ。五十住は言う。

「RYUは、今後もっと伸びてくるブランドだと思っています。ありがたいことにウチで販売させてもらっているので、お客さんとのやりとりのなかで感じたこと、いただいた要望を還元して、『どうやったら成長できるか』を二人三脚で考えていきたい」

 そんな五十住の思いを受け、グラブ職人の河合が続ける。

「流行を追いかけるのではなく、『RYUならでは』の世界観を構築し、流行を生み出す存在、野球グラブ界をリードする存在になっていきたい。最終的には、野球に携わっていない方にも知っていただけるようなブランドを作り上げたいです」

 ブランドが掲げる「RYUを纏え。」というキャッチコピー。このコピーに続く文章のなかに、「それは単なる野球道具ではなく、きっとプレイヤーの宝物になるから――」という一文がある。五十住が補足する。

「硬式用のグラブの耐久性を考えると、『一生使う』ことは不可能ではないんです。使っていくうちに、ボールを捕球する部分が擦れて破れることもありますが、縫って補修することもできる。革紐や芯(親指、小指部分にあるグラブの骨格の役割を果たすパーツ)を交換すれば、固さも取り戻せる。修繕していけば、学生野球をともに戦ったグラブで野球を楽しみ続けることだってできます。たくさんの思い出が詰まった”宝物”になるように、『一生使いたい』と思ってもらえるようなグラブを届けたい」

 先発を務めたオールスター第1戦でもRYUのグラブを使用した松坂。シーズンで使用しているものとは異なる、赤のオールスター仕様のグラブには、開催地である「大阪」の文字が刺繍されていた。登板はなかったが、第2戦用のグラブは、黒と赤の「くまモン」カラーで、こちらにも開催地の「熊本」と刺繍が施されていた。河合が理由を語る。

「『オールスターの開催地の方々に、より野球に親しんでほしい』という気持ちを込めて制作しました。それぞれの土地で、野球が末永く楽しまれる存在になってくれれば、これ以上の喜びはありません」

 開幕前、松坂の復活には否定的な意見が多かった。「終わった選手」、「一軍で勝てるわけがない」といった辛辣(しんらつ)な意見も散見された。それでも、復活を遂げることができたのは、自分自身の可能性を信じ、前を向き続けたからに他ならない。

 岐阜羽島から始まる「日本一のグラブメーカー」への挑戦。”平成の怪物”の左手に宿った龍の力を誰よりも信じているふたりは、迷うことなく前に進み続ける。

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