今年、日本からメジャーへと戦いの舞台を移した選手のなかで、最も注目を集めているのはアナハイム・エンゼルスの大谷翔平…
今年、日本からメジャーへと戦いの舞台を移した選手のなかで、最も注目を集めているのはアナハイム・エンゼルスの大谷翔平だろう。しかし、大谷の圧倒的な報道量でかすんでしまっているが、オリックスからアリゾナ・ダイヤモンドバックスへ移籍した平野佳寿(よしひさ)も26試合連続無失点の球団記録を打ち立てるなど、ここまで46試合に登板し、2勝1敗、防御率2.20と活躍。今やチームにとって欠かせない存在となっている。
日本での実績があったとはいえ、環境やレベルが変わるなかで、これほどの数字を残すのは容易なことではない。平野が好投を続けてきた理由は何か? さらに、首位争いを繰り広げているなかで、シーズン後半に向けてどのような役割が求められるのか? ダイヤモンドバックスで顧問を務める小島圭市氏に話を聞いた。

前半戦、26試合連続無失点の球団新記録を打ち立てたダイヤモンドバックスの平野佳寿
小島氏はアリゾナキャンプで平野を見たとき、「普通に活躍できるだろうな」と感じたという。小島の言う「普通に活躍する」というのは、セットアッパーとして成績を残すだけでなく、たとえ負け試合であってもチームのために1年間しっかり投げることができるということだ。
平野はオープン戦の序盤こそ3試合連続で被弾するなど、手探りのなかでの投球が続いたが、シーズンが始まる頃には順応し、現在は勝ち試合での継投の一端を担っている。
平野の予想以上の活躍に目を細めながら、小島氏は現状を冷静に分析した。
「26試合連続無失点という記録もありましたが、今の平野のピッチングはそれほどよくないと思っています。甘い球が結構ありますし、バッターの打ち損じに助けられているという印象です。打たれているけど、結果的に0点に抑えているという感じでした。
テレビ越しに見ている感じでは、ストライクこそ取れていますが、コントロールがいいというレベルではありません。正直なところ、これでよく抑えられているな、と思うときがあります」
ストレートの球速は92~93マイル(約148~150キロ)で、正確無比なコントロールを持っているわけではい。それでも平野がこれほどの結果を残している理由は何なのだろうか。
「一番はフォークの落差でしょう。ストライクゾーンからボールゾーンへしっかり落とせていて、落差も高水準を保っています。それに、ほかのボールよりもコントロールミスが少ない。打たれてしまうときは、低めにコントロールできず、ストライクゾーンに入ったときですね」
頼みはフォークボールだけではない。NPBで12年、リリーフとして8年間やってきた経験も平野を支えているという。
「対戦を重ねると、フォークに対応する選手も出てきますし、これまで以上に厳しいマウンドになるかもしれません。ただ、そんな状況になっても打者に対してどんどん攻められるだろうし、たとえ打たれたとしてもコンディションを整え、次の登板に向かうことができる。そういうところは、NPBで培った経験が生きていると思います」
そしてもうひとつ、と小島氏は加える。
「通訳のケルビン近藤さんの存在は大きいですよ」
ケルビン近藤氏は日系ブラジル人で、日本で野球がしたいと、沖縄のクラブチームでプレーした経験を持つ。ダイヤモンドバックスのスカウトとして活動したのち、昨年末から平野の専属通訳となった。
「日本語はもちろん、英語、スペイン語、ポルトガル語が話せて、中南米系の選手とのコミュニケーションも問題ありません。そしてなにより、彼はとてもナイスガイ。平野はコテコテの関西人なので、真剣ななかにも笑いがある。そんなふたりはウマが合うようで、野球以外の時間もリラックスできていると思います。そういう部分って、とても大切なんです。通訳とうまくいかなくて活躍できなかったケースはいくらでもありますから」
オールスターも終わり、トレード期限が迫ってきた。ダイヤモンドバックスと激しい首位争いを繰り広げているロサンゼルス・ドジャースは、ボルティモア・オリオールズの強打者、マニー・マチャドを獲得。これからの戦いは今まで以上に厳しさが増す。今後、チームは平野にどのような役割を求めてくるだろうか。
「リリーフ陣については、開幕当初こそ固定しきれていなかったけれど、チームの状態が上がってきてから固定できるようになりました。でも、ここにきてクローザーは不安定ですし、役割も崩れ始めています。これからどうなるかわかりませんが、どのポジションでも平野はやれると思います」
そして「メジャーはここからが本番」と小島氏は強調する。
「7月のトレードデッドラインが終わって、10月のプレーオフに向けてすべてが研ぎ澄まされていきます。前半戦の2倍、3倍の集中力できますから。今まではオープン戦みたいなものですよ(笑)」
NPBで数多くの経験を積み重ねてきた平野といえども、ここからのメジャーの戦いは未体験ゾーンだ。
「コンディションの問題さえなければ、平野ならロースターに入っていけると思います。相手の集中力が格段に違ってくる空気のなかで、フォークのコントロールの水準をどこまで維持できるかがカギになります。ただ、いくら未体験とはいえ、これまでの経験値が高いから焦る必要はありません。今までのようにフォークを低めにしっかりコントロールして、抑えても打たれても何事もなかったように振る舞うことが大切です。
今後については、チームが中継ぎを補強したら役割も変わってくるかもしれません。その結果、たとえ負け試合に投げるようになってもいいんですよ。チームにとって重要なピースであることには変わりありません。ロースターに入っているということこそ、本当にすごいことなんですから。よほどのことがない限り、平野なら大丈夫だと思います」
移籍1年目にして確固たる地位を確立した平野。次なる目標は、プレーオフに進出することだ。チームの大切なワンピースとなって、平野は最後まで腕を振り続ける。