熊本県南西部の山間に佇む県立多良木(たらぎ)高校は、創立96年。100周年を目前にして、すでに来春の閉校が決まっている。学校のある人吉球磨(ひとよしくま)地区の急速な少子化、人口減にともない、2015年に熊本県が打ち出した「高校再編整備後期計画」の対象となった。

 同地区の南稜、球磨商に多良木を加えた3校を2校に発展的再編・統合するという方針のなか、多良木のみがその校名を失うという憂き目に遭ってしまった。したがって、多良木にとっては今夏の大会が甲子園へのラストチャレンジとなる。



今年の夏が甲子園への最後のチャンスとなる多良木ナイン

 甲子園出場こそないが、過去には多くの人材を輩出している。1試合19奪三振のプロ野球記録を持つ野田浩司(元オリックスなど)を輩出し、最近では善武士(東芝)、今春の東京六大学リーグで首位打者に輝いた中村浩人(法政大)も多良木のOBだ。

 その善と中村のバッテリーで2013年秋に初めて県大会を制して以降は、常に安定した成績を残し、熊本を代表する”公立の雄”として君臨していた。

「普通に考えれば、最後の夏に18人で単独チームを編成できること自体、あり得ないことですよ」

 そう語るのは、齋藤健二郎監督だ。人吉高から日本体育大へと進んだ齋藤監督は、熊本工の監督、部長として3度の甲子園を経験しているベテランで、県内最年長となる69歳。先述した野田や善、中村はすべて齋藤監督の教え子である。

「多良木の町と多良木高校が大好き」と公言する齋藤監督は、多良木町長や町民に請われるかたちで2009年に監督に復帰。町の教育委員会に籍を置く”外部監督”としてチームに携わる。

 高校再編の対象として名指しを受けると、「高校を維持するためにも地域の熱を高めたい。その旗頭が野球部だ」と多良木の町を鼓舞し続け、2013年の大躍進につなげた。

 現在、多良木高の全校生徒は67人。うち野球部には女子マネージャー6人を含む24人が在籍している。齋藤監督は言う。

「閉校するとわかっていながら、わざわざ入試を受けて入ってきた子たちですから。こちらとしてもその気持ちに応えたいですし、この子らとともに甲子園の魅力を共有したいですよね」

 エースの古堀廉大(ふるぼり・れんた)は東京都大田区にある大森十中を卒業しているが、祖父母の家に遊びに来た中学3年の夏休みに、両親の母校である多良木高の野球部の練習を見て、「ここでやりたい」と単身越境してきた。

「雰囲気がよくて、都会ではあまり感じることができない地域との一体感もいいなと思ったので……」

 高校野球が100年以上にわたって支持され続けてきた要因のひとつである地域密着の真髄を、人口1万人弱の町にある閉校寸前の高校によって思い知ったのだ。

 多良木高、最後の夏。

 初戦は八代工に10-5と打ち勝った。2回には、下位打線の4連打や、絶対アウトのタイミングで相手のベースカバーが遅れたり、けん制で誘い出されながらもタッチアウトにならなかったりと、”神がかっている”としか思えない点の入り方で一挙5点のビッグイニングを演出。

 2回戦の鹿本商工戦は、13安打で14得点を挙げ、14-1の6回コールド勝ち。”台風の目”になりそうな勢いを感じさせている。

 熊本大会開会式の選手宣誓で「高校野球の精神や地域への感謝の思いは、必ず次の100年につながっていく」と宣言した主将の平野光も、「町と一体化して戦う」と力強く語る。

 高野連は今年6月に、硬式野球部員の数が4年連続で減少傾向にあると発表した。前年からの8389人減は、統計を取り始めた1982年以降で最大のダウンだった。うち1年生部員の数は50413人と、こちらも平成以降では過去最少を記録している。

 熊本県高野連の工木(くぎ)雄太郎理事長は「熊本地震後はさらに減少が進んでいる感がある」と頭を抱える事態だ。前後期の学校再編によって当面はこれ以上の学校減はないとされるが、今後は単独での編成が困難なチームが増加し、連合チームでの参加がますます増えてくるだろうと工木理事長は言う。

 初戦、2回戦と快勝し、旋風の予感は漂っているが、カウントダウンは着々と進んでいる。まだまだ最後の挑戦を終わらせるわけにはいかない。