「ばらつきがあった部分は修正をしなければいけない。ただ、脚のことは気にせずに5イニングをしっかりと投げられたことはよ…
「ばらつきがあった部分は修正をしなければいけない。ただ、脚のことは気にせずに5イニングをしっかりと投げられたことはよかったです」
7月4日(日本時間5日)の3Aでのリハビリ登板後、ヤンキース田中将大の言葉は終始控えめではあったが、表情は明るく、確実な手応えを感じさせた。

メジャー復帰登板に向けて調整を行なうヤンキースの田中将大
この日はブルージェイズ傘下のバイソンズを相手に、5回を3安打無四球で2失点4奪三振。マイナー特有のピッチクロック(20秒以内に投げなければいけない)への対応に戸惑い、初回こそ先頭打者に右前打、2番打者に本塁打を許したもののすぐに適応した。スライダー、スプリットをテンポよく混ぜ、1回途中から5回2死まで14人を連続アウトに打ち取る貫禄のピッチングだった。
田中にとって、マンハッタンから車で2時間強のスクラントンでの登板は、同じく故障離脱した2015年の5月以来となる。地元紙『スクラントン・タイムズ・トリビューン』には”田中登場”の記事が載り、独立記念日仕様の特製ユニフォームが2着限定179ドル(約2万円)で発売されるなど、現地には歓迎ムードが漂っていた。
しかし、次に田中が上がるのはメジャーのマウンドになりそうだ。
「今日のことは今日のこと。(メジャー復帰は)正式に言われるまでわからないですから、言われたところでしっかりと投げる準備をやっていくだけです」
本人がそう語った2日後、ボルチモアで開催されるオリオールズ戦(日本時間の7月11日)で先発することが発表された。
田中は6月8日のメッツ戦での走塁中に両太もも裏を痛め、翌日に故障者リスト入りした。1年を通してローテーションを守ることを目指していた田中は悔しかっただろうが、大事なシーズン後半戦に向けて力をセーブできたと考えることもできる。ちょうど選手に疲れが出はじめるシーズン半ばでの主力投手の復帰は、ア・リーグの最高勝率を争うヤンキースにとって心強い。
7月9日時点でヤンキースは58勝29敗。レッドソックスと2ゲーム差の2位で、メジャー全体でも2位の勝率を残している。今季は”宿敵”レッドソックスとシーズン終盤まで激しく地区優勝を争うことになりそうだが、そのレースに敗れても、ポストシーズンに進出する可能性は高そうだ。
ただ、昨季にア・リーグの優勝決定シリーズでアストロズに3勝4敗と敗れたヤンキースにとって、目標はワールドシリーズ進出のみ。それを達成することを考えたとき、現在の戦力に疑問を呈する声もある。
特に不安なのは先発ローテーションだ。
まず、昨季のトレード期限に獲得し、本来はルイス・セベリーノ、田中とともに3枚看板となるはずだった28歳のソニー・グレイが大誤算となっている。今季のグレイは5勝7敗(7月9日時点)。防御率5.85は80イニング以上投げた投手の中でメジャーワースト3位で、本拠地のヤンキースタジアムでは8試合で被打率.329、防御率8.25と痛打されているのが目につく。
「(ニューヨークは)投げるのが簡単な場所ではない。彼の持ち球自体は間違いなく素晴らしい。あとはヤンキースの投手として成功できるように助けていくだけだ」
1年前に大きな期待を持ってこのグレイを獲得したブライアン・キャッシュマンGMは、6月下旬にそう述べていた。しかし、我慢にも限界がある。グレイはヤンキースに移籍してからのレッドソックス戦では0勝4敗、防御率9.35とメッタ打ちにあっており、ローテーション落ちの危機が迫っていることは間違いない。
さらに、先発5番手が予定されたジョーダン・モンゴメリーも、左肘のケガで5月に故障者リスト入り。これらの背景から、「ヤンキースが7月下旬のトレード期限までに先発投手を獲得する」という噂があり、キャッシュマンGMもそれを否定していない。
そんな状況下だからこそ、田中が復帰することには大きな意味がある。
離脱前までの田中は13試合で7勝(2敗)を挙げた。防御率は4.58と必ずしもベストの出来ではなかったが、大谷翔平が所属するエンゼルスとの2試合では目の覚めるような内容で観客を魅了している。
また、”田中は大舞台に強い”というイメージはニューヨーカーの共通認識。宿敵レッドソックスとのつばぜり合いが続きそうな後半戦、そして、その先のプレーオフに向けて田中への期待が大きくなるのは当然だ。
「3〜4週間休んだことが、 長い目で見たときに彼の助けになることを願っている。腕を休められたことが、終盤戦に向けてプラスになるはずだ」
アーロン・ブーン監督の言葉通り、今回の故障箇所は脚であり、大事な右腕に支障があったわけではない。復帰後はフレッシュな状態で投げられるはずで、昨季同様、シーズンが進むにつれて投球内容が上向くことも十分に考えられる。
「(リハビリ中に)バリバリ鍛えましたからパワーアップしてますよ。(今日は)球速は出てなかったですけど(笑)」
リハビリ登板時の最速は92マイル(約148キロ)だったが、スピードガンの数字以上に勢いがあったように見えた。本人の軽いジョークも手応えの表れだろう。
満を持してメジャーの舞台に戻ってくる田中は、先発ローテーションの不安を吹き飛ばすような投球ができるのか。サイ・ヤング賞候補になっているセベリーノ、ベテラン健在を示しているCC・サバシアとともに、再び先発投手陣の軸になれるのか。
ヤンキースは今月中に先発投手を補強する可能性は高いが、グレイに続いて田中も不安を感じさせるようなことがあれば、トレード期限までに本気で”エース級”を獲りにいかなければならなくなる。そういった意味で、背番号19はチームの未来を担っている選手のひとりと言っても過言ではない。復帰以降も、ファン、チーム関係者の熱い視線は田中の右腕に注がれることになるだろう。
◆あの元巨人のダメ助っ人が、日本での失敗に学びメジャー監督で成功へ
◆「大谷翔平におったまげた」NYの記者4人。未来予測は意見が割れた