昨季、66勝96敗でナ・リーグ東地区の最下位となったフィラデルフィア・フィリーズが、今季は42勝36敗(6月28日…

 昨季、66勝96敗でナ・リーグ東地区の最下位となったフィラデルフィア・フィリーズが、今季は42勝36敗(6月28日現在)と大健闘。同地区の首位を走るアトランタ・ブレーブス(昨季は72勝90敗の3位)と並ぶ、2018年の”サプライズチーム”になっている。

 若手中心のフレッシュなメンバーを、今季から巧みに操縦しているのが42歳のゲーブ・キャプラー監督だ。



2005年に巨人でプレーした経験がある、フィリーズのキャプラー監督

 その名前に聞き覚えのある日本のプロ野球ファンも多いだろう。メジャーで合計12年という長いキャリアを過ごしたキャプラーは、2005年に読売ジャイアンツでプレー。攻守に優れたバリバリの元メジャーリーガーとして、来日当初は大きな期待を集めた。

「日本での出来事は今ではポジティブな経験として捉えているよ。多くを学んだ。いいプレーができなかったのは私自身の責任。もっと貢献できていれば、ジャイアンツにとって、私にとって、より良い経験になっていたはずだったんだ」

 キャプラーのそんな言葉は、日本で成功できなかった選手のありきたりなコメントに聞こえるかもしれない。2005年に読売ジャイアンツの一員となったキャプラーだったが、開幕から17打席ノーヒットと苦戦。38試合で打率1割5分3厘、3本塁打とまったく活躍できず、同年7月8日に自ら契約解除を申し出た。

 いわゆる”助っ人”としては、明らかに”大失敗”だ。ウィキペディアなどを見ても、あまり好意的ではないエピソードが記されており、本人の中でも苦い記憶として残っているだろう。

 一方で、キャプラーの「今ではポジティブな経験」という言葉は、必ずしも月並みな決まり文句とは言えない。今季前半戦での手綱捌きを見ると、若き日に過ごした異国での日々が、少なからず好影響を及ぼしているように思えるからだ。

「第1にコミュニケーション、第2にコミュニケーション。そして第3もコミュニケーションだ」

 現在はクリーブランド・インディアンスで監督を務めるテリー・フランコーナが、ボストン・レッドソックス時代に”監督にとって大事なもの”についてそう述べていたことがあった。監督への批判は選手起用の失敗などに集中しがちだが、大事なのは必ずしもそこではないという。

 ミリオネア揃いのMLBで指揮を執るにあたり、重要なのは選手と心を通わせる能力。日頃からコミュニケーションをしっかり取っておけば、大胆な投手交代をしても波風が立つことはなくなる。監督としてはルーキーにも関わらず、キャプラーはその真実を確実に理解しているように見える。

「コミュニケーションについて多くのことを学んだよ。相手の話を注意深く聞くことが大事だし、チームメートが何を必要としているかを知ることが重要だと気づいた。日本でそういったことを学んだのは大きいし、今でも役に立っている」

 口先だけではなく、実際にキャプラーが選手たちとの関わりを大事にしていることは明白だ。若い選手には頻繁にテキストメッセージを送り、打撃練習が始まる前にクラブハウスで声をかける。何か伝えたいことがある場合は、メディアを通して話すのではなく、番記者から見えない場所でじっくりと話すという。

 今季開幕直後のキャプラーは、不可解な投手交代を繰り返したことで激しく批判された。3月31日の試合で、ウォームアップを行なっていない投手を起用した事件は大きなニュースとなり、ホーム開幕戦では紹介時に大ブーイングを浴びた。

 しかし、そんな失敗さえも乗り越えられたのは、クラブハウスでの対話を忘れなかったからだろう。開幕当初にブルペンが疲れを感じていた際、チームリーダーのひとりである投手のパット・ニシェクの進言を受け入れ、より多くの休みを与えた軌道修正は高く評価されている。

 少なくとも現時点までは、アメリカ人以外の選手ともうまく通じ合っているように見える。5月下旬、アメリカのスポーツウェブサイト『The Athletic』に掲載された特集では、ドミニカ共和国出身のカルロス・サンタナ、マイケル・フランコとも良好な関係を築いていることが強調されていた。

「外国人に対しては、継続した形で努力を示すこと。言葉の壁があるため対話が快適ではないことがあるが、それでも努力を続けることが大事なんだ」

「英語が母国語ではない選手とのコミュニケーションのカギは?」と聞くと、キャプラーからは上記の答えが返ってきた。なかなか意思が通じずに傷つくことがあっても、勇気と根気を持って話し続けることは言語学習の基本でもある。

 キャプラーは、第3回、第4回のワールド・ベースボール・クラシックで、イスラエル代表の監督、コーチを務めた。2014年以降はドジャースのフロントに入り、多くの外国人選手たちを扱った。

 それらと同様に、日本での日々が肥やしになっている部分もあるに違いない。こういったさまざまな経験から、キャプラーが外国人選手との対話に関して明確なフィロソフィーを育んできたことは容易に想像できる。

 もちろん、依然として再建途上のフィリーズがこのままスムーズに勝ち続けるとは限らず、”青年監督”の力量は試され続けるはずだ。試練を味わう時期もくるだろう。しかし、”Be Bold(もっと大胆に)”をキャッチフレーズに、長期的な視野に立ってのチーム作りを掲げるキャプラーが大きく戸惑うことはないだろう。

「日本での日々で後悔する点があるとすれば、もっと長くいることを前提に取り組まなかったこと。当時の私は若く、日本で短い時間だけプレーし、アメリカに戻ろうと思っていた。より長期的な視野で物事を考えておく必要があったんだ」

 このように苦い経験を公に話し、反省できることもキャプラーの成熟を物語っている。成功だけでなく失敗も味わってきた人だからこそ、忍耐強く取り組み、前に進むことができる。今では長い目で人間関係を築けるようになった42歳は、フィラデルフィアでの野球人生の集大成といえる成功に向けて、今後も着実な歩みを続けていくに違いない。