グループリーグ第2戦のセネガル戦。出番が回ってきたのは、後半42分だった。「攻撃的にいくのか、守りを固めるのか、考えてカードを切りました」 2-2で迎えた試合終盤、そう語る日本代表の西野朗監督が下した決断は、点を取りにいくことだった。…
グループリーグ第2戦のセネガル戦。出番が回ってきたのは、後半42分だった。
「攻撃的にいくのか、守りを固めるのか、考えてカードを切りました」
2-2で迎えた試合終盤、そう語る日本代表の西野朗監督が下した決断は、点を取りにいくことだった。そして、その役割を担ったのが、宇佐美貴史だ。
「(出場)時間も短かったし、一瞬で終わった感じです」
宇佐美にとって、W杯初の試合出場はあっけないものに終わった。
見せ場がなかったわけではない。カウンターから抜け出そうとしたが、相手DFに潰されてしまった。
「点を取ってくるように、監督には言われました。チャンスもあったんですけど、カウンターのシーンでは潰されて……。本当は、あのままフィニッシュまでいきたかったんですけど、相手のカバーもすごく早かったですし……。短い時間のなかでも、ああいうシーンをもっと出せればよかったんですけど……」
そう言って、宇佐美は悔しそうな表情を浮かべた。
出番がくるまでは、ベンチで戦況を見つめていた。
前半11分に先制されたが、日本は慌てることはなかった。むしろ、失点してからのほうが、落ち着いてプレーしていた。「みんな、落ち着いていたし、点が取れる雰囲気があった」と、宇佐美も言う。
実際、前半34分、乾貴士のゴールで同点に追いついた。
さらに後半、点を取りにいく勢いがチームにあることを、宇佐美はベンチから感じていた。
「(チームに)引き分けを狙いにいっている雰囲気はなかったです。点を取りにいっている、強気にいっているな、という感じでした。
(本田)圭佑くんが入ったときは、失点して1-2になっていたんで、もういくしかない状況。そこからオカちゃん(岡崎慎司)が入って、勝ちにいく姿勢をより出していった。引き分けじゃなくて、勝ちにいくぞ、と」
そうして、本田がゴールを決めると、ベンチは大いに沸いた。「さぁ、もう1点取りにいくぞ」「ひっくり返すぞ」というムードが漂っていたという。
そこで、”最後のカード”として声がかかったのが、宇佐美だったのである。
「(チームは)強気に、引き分け狙いのムードをなかった」という宇佐美貴史
結局、試合はそのまま2-2のドローで終わった。
「試合後のロッカーは(試合に)勝っていないので、さすがにコロンビア戦のときほど沸き立っていなかったですけど、しっかり3戦目を勝ちにいく、という空気感になっていました」
決勝トーナメント進出を2戦目で決定づけることはできなかったが、日本がグループリーグ突破へ、大きく前進したことは間違いない。
南米とアフリカの強豪を相手にして、1勝1分け。苦戦が予想された戦前の評価を覆(くつがえ)して、チームは非常にいい状態にある。
しかし、宇佐美にとっては、スタメンを勝ち取れない厳しい時が続く。サブの攻撃的MFとしての序列も、本田に続いて2番目である。ゆえに、コロンビア戦のようにリードして試合を締めくくる状況になると、出番はなくなってしまう。
「それでも、自分に求められているものは、変わっていない。攻撃にどう絡んでいくか、フィニッシュの流れをどう作っていくのか。スタートから(先発)でも、途中からでも、それのみだと思いますし、(自分がすべきことは)それをどれだけ強烈に出せるか、というところだと思います。
(ここまでは)まだ出し切れていない部分があって、これから相手のレベルが上がっていくと、さらに難しくなっていくと思いますが、(日々の)練習のなかで、自分はこういうときにパスがほしいとか、こうなったときにシュートを打つとか、(みんなと)コミュニケーションを取っているし、チームとしての積み上げが1日、1日とある。そうやって、日増しによくなっていくようにやっていくだけですね」
2012年ロンドン五輪のときも、なかなか出番がなく、悔しい思いをした。ガンバ大阪からドイツの各クラブへ移籍した当初も、そういう難しい時間を長く過ごしてきた。
そして今、同じポジションの乾貴士が結果を出しているなか、”自分も”という思いは強いはずだ。もっと試合に出て暴れたいに違いない。だが、これまでの経験を経て、そうした気持ちが表に出ることはない。「チームのために」自身の思いは内に秘めて、静かに爆発のときを待っているように感じられる。
ところで、宇佐美はここまでの結果をどう見ているのだろうか。
「セネガル戦は常に相手にリードされた状態で、最終的に勝ち点1を取れたことはすごく大きいと思います。まあ(勝って)勝ち点6にもできたと思うけど、(2試合終えて)勝ち点4は悪くない。(決勝トーナメント進出の)可能性を残して、いい感じで3戦目を迎えられるのは、チーム全員の功績だと思う。(グループリーグ)最後の試合も”全員で戦う”という姿勢を見せられれば、いい結果が得られるんじゃないかな、と思っています」
宇佐美は、かつてガンバ大阪を率いていた西野監督の”愛弟子”でもあり、その指揮官が最も期待している選手でもある。今後、チャンスを与えられる可能性は高い。そこで、自らに求められてきたことをいかに出せるか。
宇佐美のW杯は、これからだ。