【サイモン・クーパーのフットボール・オンライン】アルゼンチン代表とメッシ(後編) ロシアW杯グループリーグ初戦、アルゼンチンはアイスランドに1-1で引き分けた。フル出場したリオネル・メッシは無得点に終わった。メッシは、なぜワールドカップ…
【サイモン・クーパーのフットボール・オンライン】アルゼンチン代表とメッシ(後編)
ロシアW杯グループリーグ初戦、アルゼンチンはアイスランドに1-1で引き分けた。フル出場したリオネル・メッシは無得点に終わった。メッシは、なぜワールドカップで輝けないのか。バルセロナとアルゼンチン代表のボール支配率や、メッシのドリブルの回数の多さといったデータからは、アルゼンチンにはしっかりしたシステムが存在しないことが見えてきた。もはや負けられないクロアチア戦に向けて、チームに打開策はあるのか。
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ロシアW杯アイスランド戦でPKを外したリオネル・メッシ photo by Mutsu Kawamori/MUTSUFOTOGRAFIA
バルセロナは、メッシを13歳のときから複雑なシステムに適応させている。
これは大変なことだ。というのも、バルセロナにやってきたときの彼は、アルゼンチンで言う「ピベ」だったからだ。例えばディエゴ・マラドーナのように、技を繰り出して、ひとりで相手を抜き、ゴールを決める選手をこう呼ぶ。
メッシは17歳でファーストチームに入ったときも、まだ「ピベ」のようにプレーしていた。チームメイトのなかには、メッシのことを自己中心的でチームプレーになじまないと思った選手もいた。しかしバルセロナは、最後にはメッシにチームプレーを教え込んだ。
2008年、当時バルセロナの監督だったフランク・ライカールトは僕に言った。
「メッシがたったひとりで90分間、相手の11人と戦っているような試合を何度も見てきた。彼は相手に行く手を阻まれ、結果は1-0でようやく勝ったり、0-0だったり、0-1で負けたりする。彼はすばらしいドリブラーだが、試合の中で変化をつけることで飛躍しようとしていた。あるときはドリブルをするが、あるときは後ろにボールを預けて、自分が前に出たりするといったことを試していた」
ある代表チームの監督が、僕にこんな解説をしてくれた。バルセロナでのメッシは、何人かの選手と短いパスを交換した後で、たいてい相手のペナルティーエリア近くでボールを受ける。そのときは4人くらいのチームメイトが近くにいて、それぞれ相手DFを引きつけている。メッシはパスもシュートも、ドリブルもできる。相手DFはメッシが何を選択するかわからない(ひとつだけメッシがほとんどやらないのは、自分の右にパスを出すことだ)。
これまでメッシはバルセロナで、3つのポジションをこなしてきた。攻撃の右サイド、フォルス9(「偽の9番」、中盤に降りてくるFW)、そして今シーズンはいわゆる「10番」のプレーメーカーだった。どのポジションで起用されても、ショートパスを多用するバルセロナのスタイルはメッシに合っている。
アルゼンチン代表で「10番」としてプレーするのはメッシに合わないという以前からの議論は、今シーズンの彼がバルセロナですばらしいパフォーマンスを見せたことを考えれば、当たっていないように思える。
いまのアルゼンチン代表の問題は、システムがないことだ。このチームにはアイデアもない。1978年にワールドカップを獲得したときのアルゼンチン代表監督セサル・ルイス・メノッティは、こう語る。
「アルゼンチン代表ではすべてが混乱しており、メッシは身動きがとれない。バルセロナでの彼は『プレー』しているが、代表での彼は、ただ走っている」
それでもブラジル大会決勝のドイツ戦で、チームメイトのゴンサロ・イグアインが前半の早い時間に訪れた絶好のシュートチャンスをミスしていなかったら、メッシは”第2のマラドーナ”と崇(あが)められていたかもしれない。パッとしないチームメイトたちを世界王者の座に就けた国の救世主になったかもしれない。
メッシがアルゼンチン代表で、大きな国際大会の決勝で4度敗れていることを、周囲は重く捉えすぎないほうがいい。国際大会は長丁場だ。試合結果には、ほんの数センチがものをいうことがある。ポストに当たったシュートがゴールに入ったかどうか、副審がオフサイドと判定したかどうか……などだ。
メッシはコパ・アメリカの決勝に3度出場し、そのうち2度はPK戦で敗れている(2015年と2016年大会。相手はともにチリ)。2014年のワールドカップ決勝では、ドイツのマリオ・ゲッツェに延長の113分にゴールを決められて敗れた。
いずれも、ほんのわずかの差だ。メッシの敗北を説明するのに最もふさわしい言葉は「たまたま」だろう。
それでも母国の期待は、メッシにのしかかる。それに耐えきれなくなったのか、2016年のコパ・アメリカ決勝の後、メッシは代表引退を宣言した(ほどなく撤回している)。
6月24日にロシアで、メッシは31歳の誕生日を迎える。しかし今大会の彼は、前回大会よりもいいコンディションで本番に臨んでいるだろう。
この春、メッシのプレーはすばらしかった。しかもバルセロナが早いうちにリーガ・エスパニョーラの優勝を決めたおかげで、メッシにはリラックスできる時間があった。
メッシにしては珍しいことだが、優勝を決めた後の5月13日のレバンテ戦は欠場している(メッシのいないバルセロナは4-5で敗れた)。アルゼンチン代表のコーチ陣は、メッシが休養たっぷりの完璧なコンディションでワールドカップに臨めたと思っている。
だがメッシは再び、しっかりしたシステムのない欠点だらけのチームでプレーしなくてはならない。南米予選の18試合で、アルゼンチンは3人の監督と45人の選手を使った。
MFのルーカス・ビリアは「メッシがいなかったら、僕らは『まあまあ』か『普通』のチームになってしまう」と言う。だが、これは過大評価だろう。メッシを欠いて戦った3月のスペイン戦に、アルゼンチンは1-6で敗れている。
現監督のホルヘ・サンパオリは攻撃的なスタイルとプレッシングを好むが、それを試合でやり通せるだけの速いDFやMFがいない。大会直前のアルゼンチン代表は、まだメッシのポジションについても決めかねていた。
しかしアルゼンチン代表の首脳陣も、戦術など存在しなかった前回のワールドカップ(メッシはボサッと立ち尽くす時間が長く、中盤からドリブルすることが多かった)が決してよかったとは思っていない。アルゼンチン代表のある関係者の言葉によれば、前大会のメッシが「ケーキ」だったなら、今大会はチームが「ケーキ」になり、メッシはケーキにのっているチェリーにならないといけない。
アルゼンチンは「メッシ依存症」を克服する必要がある。メッシの役割は「プレーの指揮者」のようなものになる(コーチ陣はこの点についてメッシと話し合うことができ、トレーニングで試したかぎりでは機能したという)。実際にアルゼンチンが目指すのは、ときにはメッシ以外の誰かを経由して攻撃し、前線ではメッシ以外の選手がもっと動くというところだろう。少なくとも、それが目標だ。
このプランがいくらかでも機能して、メッシがバルセロナでやっているようなプレーを代表の最高の舞台で見せたなら、フットボールにとってこれ以上の瞬間はないだろう。
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