日本代表・西野朗新監督に推薦W杯メンバーにオススメの「新戦力」(1)橋本拳人(FC東京/MF) FC東京の橋本拳人(24歳)は翌日の先発を告げられたとき、しばしば監督に軽口を叩いていた。「明日はゴール、狙いますよ!」「おう、頼んだぞ」 …

日本代表・西野朗新監督に推薦
W杯メンバーにオススメの「新戦力」(1)
橋本拳人(FC東京/MF)

 FC東京の橋本拳人(24歳)は翌日の先発を告げられたとき、しばしば監督に軽口を叩いていた。

「明日はゴール、狙いますよ!」

「おう、頼んだぞ」

 過去の監督とは、そうやってコミュニケーションをとってきた。

 橋本は守備的なポジションを任されることが多い割には、得点数が少なくない(昨季もリーグ戦5得点)。ユース時代は、セカンドストライカーのようなポジションをやっていただけに、ゴールの快感も覚えている。3列目からのゴール前への飛び出しは、長所のひとつではあるだろう。

「明日はゴール、狙いますよ!」

 今シーズンも、いつものように監督に伝えた。意気盛んであることを示したかった。

 ところが、即座に否定された。

「おまえにそれ(ゴール)は求めていない」

 新たに就任した長谷川健太監督は、はっきりそう言ったという。まずは守備の安定を要求された。しっかりポジションを取って、隙を与えない。分厚い防御線を作ることで、攻撃を好転させる。

 そうして仕事が明確になったことで、橋本の急成長とチームの好調につながった。

 ヴァイッド・ハリルホジッチ代表監督時代、橋本は若手として注目されながらも、W杯予選予備登録メンバー97人に入ったに過ぎない。しかし、今の橋本ならば――。ロシアワールドカップに挑む日本代表で、長谷部誠のバックアッパーになれるはずだ。

 橋本は、日本人離れしたダイナミズムを感じさせるセンターMFである。

 身長182cmと体格がよく、基本的な運動能力が高いのが特徴だろう。体幹が強く、跳躍に優れ、体の動きが柔らかい。例えば、ぶつかり合いは激しいだけではなく、相手のバランスを崩し、それを利するようなコンタクトができる。

 もともと手足が長いのもあるが、関節が外れて足がグンッと伸びるような感覚で、相手ボールを巻き取れる。タコが手足を伸ばしながら、吸盤で獲物をつかむ姿を想起させる。

 そうした身体的な優位性によって、橋本はポリバレントな選手としての地位を確立した。ボランチ、インサイドハーフ、サイドハーフ、インナー、センターバック、左右サイドバック、そしてFW……。あらゆるポジションをプロになってからも経験し、使い勝手のよさはセールスポイントだった。

 しかし同時に、器用貧乏にもなりかけていた。「攻撃も、守備もできる」。その賛辞は、ともすれば、「どちらもできない」と言われているようだった。

 それが、今シーズンは劇的に変化している。ポジションは(4-4-2の)ダブルボランチの一角に定着。守備でポジションを留守にせず、相手の嫌う立ち位置を取り、味方のミスを補うプレーを心がけるようになった。

「チームを動かす」という働きをしている。チームとして守備を安定させることで、攻撃も改善したのだ。

 例えば第10節、サンフレッチェ広島との首位攻防戦。後半、攻撃に出た相手に対し、橋本は冷静に対処している。右サイドと連係しながらの守備でボールを奪い返すと、シンプルにフリーだったMF高萩洋次郎にパス。これが、FWディエゴ・オリヴェイラの一発につながった。

 今季のリーグ戦、第12節(5月2日)まで橋本の得点は0。シュートはたった2本だった。それも、撃ち合いになった名古屋グランパス戦の2本だけ(この試合は相手ボールをインターセプトし、左サイドを攻め上がって、FW永井謙佑の得点をアシストした)。

 素人目には、あまり目立っていないのかもしれない。しかし守備という土台を作っているからこそ、チームが勝ち点を稼いでいるのだ。



好調FC東京の原動力となっている橋本拳人

「チームが好成績を収めているボランチを評価すべし」

 スペインのクラブの強化では、こんな言い回しがある。ボランチは、ボランチ本人のシュート数やスプリント回数や走行距離やインターセプト数ではなく、チームが機能しているか。その一点にかかってくる。

 今シーズン、第4節に橋本が先発に定着して以来、FC東京は(第13節まで)8勝1分1敗という好成績を収めている。周りの選手を補うポジションを取り、時間や空間を与え、輝かせる。それはまさに、代表で長谷部が極めたプレーと言えるだろう。

 橋本は新たな境地に達しつつある。かつて、2016年リオ五輪本大会メンバー落選を経験。代わりに本大会メンバーに入った井手口陽介は、その後、日本代表に入って、海外移籍を遂げた。

「悔しい、とかいう言葉では感情を表せませんでしたね。記者の人にコメントを求められてもすぐに言葉は出てこなくて。周りには切り替えろと言われたけど、2年間、人生を懸けていましたから」

 そう言って、橋本は唇を噛んでいた。

 そして今、ようやく自分の居場所を得つつある。第13節(5月5日)、川崎フロンターレ戦では決勝ゴールを決め、今季初得点を記録。守備の安定で、攻撃も自ずと好転する。

 五輪を超えるワールドカップという舞台に立つために――。捲土重来の機会だ。