約40年の長きに渡り、サッカー日本代表の協賛を続けているキリン株式会社。今回は、同社執行役員CSV本部ブランド戦略部部長の坪井純子さんにご登場いただき、協賛のきっかけや権利活用の変遷や効果測定に至るまで、また5年ぶりの開催で話題になったキリ…
約40年の長きに渡り、サッカー日本代表の協賛を続けているキリン株式会社。今回は、同社執行役員CSV本部ブランド戦略部部長の坪井純子さんにご登場いただき、協賛のきっかけや権利活用の変遷や効果測定に至るまで、また5年ぶりの開催で話題になったキリンカップについてお聞きした。
サッカー日本代表の協賛をすることになったきっかけを教えてください。
キリンがサッカー日本代表の応援を始めたのは1978年なのですが、当時キリンビール本社は原宿にあって、山手線を挟んだ反対側、岸記念体育会館に日本サッカー協会さんの事務所がありました。協会さん事務所から、キリンのビルのロゴマークが見えたそうです。そんなご近所という縁があったことが一つのきっかけになったと聞いています。
当時、サッカー日本代表はまだ世界で戦えるまでにはなっていないと言われていましたが、日本のサッカー界の発展を微力ながらもお手伝いしたいという気持ちから、私たちのサッカー応援が始まりました。スタート時はスポーツマーケティング的な要素よりも、スポーツを応援したいというメセナ的な意味合いが強かったようです。
昨年4月からまた新たな契約期間に入りましたが、8年契約なのでその間に40周年を迎えることになります。これだけ長きに渡って応援させていただいていることは、私たちの誇りでもありますね。
これまでの協賛の変遷について教えてください。
サッカーとの関わり方も、私たちにとっての位置づけも、この40年近い年月の中でかなり変化しています。それはキリン側による変化というよりも、日本のサッカー界そのものが進化していったからだと思います。また、世の中全体においても、企業と社会の関わり方についての考え方が変化したと感じます。
最初の頃は、そもそも日本代表が世界と戦う場がないということで、日本代表戦として「ジャパンカップ」(1985年より「キリンカップサッカー」に名称変更)をスタートしました。今では毎年の開催はしていないのですが、私たちにとってはサッカー応援の始まりとなる象徴的な大会です。
93年のJリーグ誕生でサッカー人気が急速に広まりましたが、そのあたりからサッカーといえばキリンと感じていただけるようになっていったと思います。それを機に、私たちの応援活動も第二フェーズであるスポーツマーケティングのステージに入っていきます。
スポーツマーケティングの戦略として、具体的にどんな仕掛けをされたのでしょうか。
サッカー人気が高まれば、ファンも広がります。キャンペーンをやったり、一緒に応援企画をやったりといったことができるようになります。第二フェーズは、ファンやサポーターと“一緒に”応援する。そのためにいろいろな工夫をする時期だったと言えますね。当時でもっともご記憶いただけているのは、「勝ちTキャンペーン」ではないでしょうか。
実は、勝ちTは当選する確率が高かったのです。必ずもらえるものではありませんでしたが、相当な枚数がファンのみなさんのお手元に届いたと思います。これを機に、勝ちTを着てサッカーの応援に行く人が増えました。このキャンペーンは、「ブルーのユニフォームを着て応援する」という文化が急速に広まるきっかけづくりになったかもしれません。
単に協賛金を出すだけではなく、お客様やサッカーファンのみなさんの気持ちに訴える企画ができたことは非常によかったと思います。ブルーのものを身に付けるという日本のサッカー応援文化に少しでも関われたことはとても嬉しいですね。
第二ステージのスポーツマーケティングの後は、どのようなフェーズに入っていったのでしょうか。
Jリーグ誕生以降、プロのサッカー選手という道が開け、「サッカー選手になりたい」という子供たちが増えました。日本代表が今後さらに強くなるためには、次世代の育成は絶対に欠かせない要素です。そこに対して何かできないか、というのが第三フェーズです。
過去には、47都道府県で行うフットサル大会やキリンサッカーフィールドという全国7~8か所で開催される小学生対象のサッカー教室などを開催していました。現在では、女性が気軽にサッカーを楽しめるJFA・キリン レディース/ガールズサッカーフェスティバルに協賛し、女子サッカーの裾野拡大も支援しております。このような活動は、未来のサッカー選手育成だけでなく、サッカーを好きな仲間を増やす意味があると思っています。
さらに次のフェーズとしては、どんな展開が予想されていますか。
キリンがなぜ38年もの長い間サッカーを応援しているのか、私たちなりに突き詰めて考えてみると、それはキリンが飲み物を通じて人を応援する企業だからだと思います。
飲み物は人生の主役にはなれないかもしれないけれど、単においしいだけではなくて、悲しい時、嬉しい時、いろんな局面で人の気持ちに寄り添い、応援し、明日への力になることを目指しています。
私たちは、サッカーや日本代表を応援するだけではなく、サッカーに関わるいろんな人を応援する。つまり、「応援する」というキーワードのもとで、私たちのサッカー応援は事業と親和性があると思います。
JFA・キリン スマイルフィールドの具体的な活動について教えてください。
東北の復興応援「絆プロジェクト」では農業・漁業支援などを行っていますが、キリンならではの活動として元・現日本代表選手に東北の被災3県の小学校に赴いていただき、サッカーを教える授業をしてもらっているのです。
2016年3月、JFA・キリン スマイルフィールドに参加した小学生の数は10万人に達しました。この活動にはキリンの従業員も参加するのですが、子どもたちの笑顔を見ることで逆に私たちが元気をもらい、モチベーションアップにもつながっています。また、サッカー普及のため、授業後には小さい組み立て式ゴールとボールを寄贈し、その後先生たちも引き続きサッカーの授業ができるようにしています。
2014年5月に制作された香川真司選手のCFについて教えてください。
香川選手のCFは「サッカーを通じて、飲み物を通じて、人を応援する」というコンセプトに基づいて作られたものです。国立競技場のさよならイベントに合わせて作ったもので、特番で一回と、国立競技場の中でも流しましたが、特にウェブ上で広く拡散されました。
商品のTVCFなどではいかにおいしいか、どこが新しいかなど商品の特性を語りますが、このCFでは最後に「人は出会ったすべての人に応援されている」とだけ伝えて、あとは見ている人に感じ取ってもらっています。映像の中には“ツッコミどころ”をたくさん入れたのですが、それがツイッターなどでどんどん拡散されました。デジタルマーケティングというのはこうやってお客様と一緒に作っていくものなのだなと、非常に勉強になりました。
このCFにより、今後も「応援」にフォーカスしたものを作るという方向性が決まったのですが、4年後のワールドカップに向けて改めてどう「応援」を伝えていくかが課題でした。そして、次に制作されたのが遠藤保仁選手のCFです。
遠藤選手のCFには、どんなメッセージが込められているのでしょうか。
昔のキリンのサッカーCFでは、かっこいいシュートの映像がつながっていて、最後に「キリンは応援する」というものが多かったのですが、見ている側からすると、それによってキリンに共感するというよりも、素敵なシュートの映像の印象だけが残ったのではないかと思います。遠藤選手のCFでは、長年応援してきたキリンの“思い”をどう伝えるかがテーマでした。
実は、遠藤選手はこのCFを撮影した時には代表に選ばれていませんでした。その遠藤選手が、代表のユニフォームを着ることなく、ストイックにトレーニングしているところが映し出されます。そして、「応援はパスだ」というコピーが出てきますが、パスといえば遠藤選手。誰かから力(パス)を貰った人は必ず誰かに力(パス)を送る、それを「応援はパスだ」と表現しました。
飲み物はなかなか主役にはなれないけれど、いつも人々の生活に寄り添って、元気を応援する存在でありたい。もちろん、見ている人はそこまで感じ取られないとは思いますが、キリンの存在とこのCFのメッセージがどこかシンクロしてもらえるといいなという思いを込めています。
今年は第3弾として、「兄の応援篇」という新しいCFを放映しています。小さな兄弟、その弟としてかわいいゾウが登場します。弟(ゾウ)の才能を見出し、信じて応援し続ける兄。弟はついに日本代表のゴールキーパーになります。メッセージは「応援する人だけに見える未来がある」。香川選手、遠藤選手のCFとはまたひと味違った印象ですが、「ちょっと目が熱くなった」など、たくさんのツイートをいただきました。
キリンはサッカーを通じて、人を応援する。「応援」はとても深い言葉です。3つのCFは様々な切り口でキリンの応援に込める想いを表現していますので、ファン・サポーターの皆さまに感じていただければと思っています。
2015年4月より、これまでの「スポンサー」から「パートナー」になられましたが、その意図は何だったのでしょうか。
新しい契約が始まるタイミングで、名称を「オフィシャルパートナー」とさせていただきました。これまでの協賛の変遷を振り返り、お金を出しているスポンサーというよりは、サッカー協会やファン・サポーター、サッカーに関わるあらゆる人々とともに、パートナーとしてサッカー界のお手伝いができれば、という思いからです。
今後キリンがどんな取り組みをすべきか、それを編み出すために「未来の日本代表を強くするためにはどうしたらいいか」というアンケートをネット上で募集しました。すると、4000件ほどの回答がサポーターから集まったのです。素晴らしいものもたくさんあったのですが、キリンとしてできることは何かという視点で組み立てたのが、昨年実施された「KIRINキャンプ」でした。
その「KIRINキャンプ」の具体的な内容や反響について教えてください。
KIRINキャンプは、日本代表のハリルホジッチ監督とA代表のコーチ陣が中学生を対象に直接指導を行うキャンプです。このような取り組みはもちろん初めてですし、育成世代をA代表の指導陣がコーチングすることは世界でも稀なことなので、30人の枠に1300人ほどの応募がありました。特に応募条件は設けませんでしたが、本気で日本代表を目指しているお子さんが多かったようですね。
実施してみると、ハリルホジッチ監督がこの世代の育成について強い思いを持っておられることがよくわかりました。12歳まではこれをやる、これをやってはいけない、12歳から15歳まではこうと、非常に細かく分けて指導されていました。初日の様子を見てコーチと相談してプログラムを変えるなど、A代表を指導する時と同じように取り組んでくださいました。
おかげさまで反響が大きく、終了後に保護者の皆さんからいただいた感想はどれも非常にポジティブなものでした。また指導者向けの講座も満足度が高かったですね。数年後、このキャンプから代表選手が出てきたら嬉しいですね。
協賛効果の検証はどのようにされていますか。
どれだけ露出したかよりも、どれだけお客様に共感いただけたかが大事だと思っているので、「サッカーを通じてキリンの姿勢に共感いただけたか」「キリンを好きになっていただけたか」を指標として追いかけていきたいと思っています。一つ一つの活動というよりは、企業のイメージ調査のようなものを実施して、「サッカーから与えられるイメージはどうなのか」などを、さまざまな方法を組み合わせて検証しています。
今回のキャンプのようなイベントの場合は、開催ごとに評価を行います。「このイベントであれば最低何人にはリツイートしてほしい」といったような、数字的な目標を定めています。ただ、サッカーに限らずですが、正しく効果検証することが難しいですね。
クリアすべき課題や、今後のビジョンを教えてください。
インナーの巻き込みも、まだまだ必要だと思っています。「キリンは飲み物を通じて人を応援する企業、だからサッカーを応援する」ということも社内できっちり伝えていきます。
今回のキャンプでも、インナー向けの視察ツアーを組んでキャンプを体感してもらいました。それによって、「サッカー日本代表とこれだけ長い間一緒にやっていることが、自分の会社の事業に紐づいている」「サッカーが好きな人がキリンを好きになってくれる」という誇りにもつながります。
私たちの取り組みには、大きく二つの柱があります。一つは、サッカー日本代表というパワーコンテンツにまつわること。もう一つが、社会課題に向き合いながらの次世代育成。今後も引き続き、その二つの柱で「人を応援する」ということを表現していきたいと考えています。
今回、5年ぶりにキリンカップが復活しますが、どのような意図や想いが込められているのですか。
キリンカップサッカーは日本サッカーの発展とともに歩んできたキリンの応援の象徴。38年間の私たちのサッカー応援の原点であり、歴史そのものです。
5年ぶりの開催で今回は初めてのノックアウト方式で本気で優勝を競う大会となりました。日本サッカー協会と協働で制作したHP上のミュージアム、KIRIN CUP MUSEUMなど、新しい取り組みも行っています。ファン・サポーターの皆さまも、40年近い歴史の中で、ご自身の様々な想い出と重なるものを見つけて楽しんでいただければと思います。
2018年、キリンはサッカー応援40周年にあたります。また2019、2020と日本全体でスポーツへの関心が高まるとが期待されます。これからもサッカーを通じて人を応援する活動を未来につなげていきたいと思います。
文:SPOZIUM編集部