開幕6試合でわずかに3得点。一方で失点も3に抑え、2勝2分2敗と五分の成績に踏み止まっていたのは、鹿島アントラーズらしさと言えるかもしれない。とはいえ、点を獲れない状況に苦悩の色が浮かび上がる。「ゴール欠乏症」に陥る鹿島の現状は、果た…
開幕6試合でわずかに3得点。一方で失点も3に抑え、2勝2分2敗と五分の成績に踏み止まっていたのは、鹿島アントラーズらしさと言えるかもしれない。とはいえ、点を獲れない状況に苦悩の色が浮かび上がる。
「ゴール欠乏症」に陥る鹿島の現状は、果たしてどのようなものなのか。4月11日に味の素スタジアムで行なわれたJ1第7節のFC東京戦に足を運んだ。
逆転負けを喫して暗い表情でサポーターに挨拶する鹿島の面々
立ち上がりの印象は「悪くない」だった。
開始早々に左サイドバックのDF山本脩斗が負傷退場するアクシデントに見舞われたものの、小気味よいビルドアップからサイドに起点を作り、相手ゴールに迫っていく。12分には山本に代わって急遽ピッチに立ったDF西大伍の左からのクロスをFW金崎夢生が頭で狙うと、右サイドのMF土居聖真や金崎と2トップを組むFW鈴木優磨も果敢に仕掛け、FC東京の守備網を崩そうとする積極的なアプローチは垣間見えた。
もっとも、次第に浮かび上がってきたのは、「サイドに起点は作れるものの、中央のエリアにはなかなか進入できない」という現実だった。もちろん、サイドから質の高いピンポイントクロスが次々に供給されれば多くの決定機を生み出せるはずだが、実際にはそうもいかない。中央のエリアを固めるFC東京に対し、単純なサイド攻撃はあまり怖さを与えられなかった。
それでも、鹿島は先制に成功する。29分、中央のエリアでこぼれ球を拾った金崎が狙いすましたミドルシュートを流し込んだのだ。
なぜ、中央でボールを拾えたのか。殊勲はMFレアンドロだ。
それまでほとんど見せ場のなかったこのブラジル人アタッカーは、サイドではなく果敢に中央突破を図って金崎にパスを供給。レアンドロはそのままエリア内に走り込み、リターンを受けようとする。そのパスは相手DFに当たってしまったのだが、幸運にもボールは金崎のもとにこぼれ落ち、鹿島のエースは確実にゴールネットを射抜いたのだった。
形自体は幸運だったが、レアンドロの果敢な仕掛けがFC東京の守備網に隙を生み出したのは間違いなかった。直後にもレアンドロは同様のプレーを見せ、攻め上がった西もサイドではなく中央でボールを呼び込むなど、得点力不足に悩まされていた鹿島がその課題を解消するきっかけを掴んだかと思われた。
ところが、そうした意識が見られたのは、この時間帯だけ。39分にオウンゴールで同点とされると、後半はふたたびサイド攻撃に偏り、その迫力は消え失せていた。
55分に、この日切れ味抜群のパフォーマンスを見せていたDF室屋成に豪快な一撃を叩き込まれて逆転を許した鹿島は、その後大した反攻を見せることなく、1-2と敗れている。これで鹿島は早くも3敗目を喫し、13位に転落。総得点4は、ジュビロ磐田と並んでリーグ最少の数字である。
面白いデータがある。このFC東京戦を含め、今季喫した3敗で鹿島はいずれも60%近いボール支配率を記録していた。逆に今季挙げた2勝はともに、ボール支配率で相手よりも劣っているのだ。
もちろん、負けている展開では攻勢を強め、ボール支配率が高まるのはある意味で当然の傾向ではあるものの、川崎フロンターレのようにポゼッションで勝(まさ)り、結果を手にするチームもある。ましてやこの日の鹿島は、スコアが動いていない時間帯からボール支配で明らかにFC東京を上回っていた。
つまり、得点状況にかかわらず鹿島にはボール保持の時間を長くし、相手を押し込みたいという意図があった。しかし、そのボール支配がチャンスの数には結びつかない。西も「あまり効果的な回し方じゃなかったかなと思います」と、うまくいかなかったことを認めている。
2016年に優勝を成し遂げた当時の鹿島の戦いを振り返ると、ポゼッション率で相手を下回る試合が多かった。高い位置から奪いにいく能動的な守備で相手のミスを誘い、素早いショートカウンターからゴールを陥れる。そんな戦い方がうまくハマり、栄冠を掴んでいる。
すでに決勝ラウンドへの進出を決めている今季のACLでも、同様の傾向が見える。相手にボールを持たせ、素早い切り替えから裏を突くスタイルのほうが、鹿島には合っているのだろう。
しかしFC東京戦では、ボールこそ回るもののスピードが上がらず、スペースを突くシーンはほとんどなかった。サイドを使っても、その展開が遅ければゴール前を固められ、やすやすと跳ね返されるのみ。90分を通してギアが上がらなかった鹿島が、敗れるべくして敗れた試合だった。
とりわけ重症だと感じられたのは、逆転を許してからの戦い方だ。常勝を義務づけられたチームのアイデンティティは、ビハインドを負った状況でこそ発揮されるはずのもの。しかし、この日の鹿島のパフォーマンスからは、なりふり構わず勝利を求める貪欲な姿勢を感じ取ることができなかった。
選手たちも意識の問題を挙げる。
「あまり気持ちとか、そういう部分はこれまで言ってこなかったんですけど、今はそういうところが大事かなと思っています」(西)
「局面、局面で負けていたし、戦術以前の問題。試合を戦ううえで大事なものを発揮できなかった。球際の部分だったり、走り勝つという当たり前の部分ができていない」(MF三竿健斗)
「ひとつのミスをカバーする意識が足りないと思うし、みんなで助け合うという状況には、ちょっと遠いのかなと感じます」(土居)
ポゼッション型を継続するのか、トランジション型を求めるのか。議論の的はそこではなく、鹿島の抱える問題は、もっと根深いところにあるのかもしれない。
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