2年後(2020年)の東京五輪に向け、日本の柔道界でいま最も熾烈で、最も面白い代表争いが女子52キロ級だ。 先頭を走るのは昨年夏のブダペスト世界選手権で金メダルに輝いた志々目愛(ししめ・あい/24歳/了徳寺学園)。たとえ「指導」のポイ…

 2年後(2020年)の東京五輪に向け、日本の柔道界でいま最も熾烈で、最も面白い代表争いが女子52キロ級だ。

 先頭を走るのは昨年夏のブダペスト世界選手権で金メダルに輝いた志々目愛(ししめ・あい/24歳/了徳寺学園)。たとえ「指導」のポイントで相手にリードを許していても、一発の内股で形成を逆転できるダイナミックな柔道家だ。

 そして2番手に位置するのは、世界選手権の決勝でその志々目に敗れた角田夏実(つのだ・なつみ/25歳/了徳寺学園)。伝家の宝刀”巴(ともえ)投げ”と、それに連続して仕掛けていく関節技を得意とする柔道家である。



女子52キロ級準決勝で阿部詩(写真上)を得意の巴投げで破った角田夏実

 さらに、昨年終盤から破竹の勢いでこの2選手に迫ってきた”第3の女”が、夙川(しゅくがわ)学院高校3年の阿部詩(うた/17歳)である。世界選手権後に行なわれた昨年11月の講道館杯、12月のグランドスラム東京、そして今年2月のグランドスラム・パリと3連勝を飾った。

日本柔道のエースである男子66キロ級の阿部一二三(ひふみ/日体大3年)を兄に持ち、背負い投げをはじめとする担ぎ技を積極的に繰り出し、気迫を前面に押し出す兄譲りの攻撃柔道で、一躍、柔道界のニューヒロインとなった。

 三者の実力は伯仲し、いまや世界の舞台で優勝することよりも、国内で生き残ることの方が難しい階級である。現世界女王か、寝業師か、それとも――。

 三者が揃った今年の選抜体重別選手権(福岡)を制したのは、最年長の角田だった。

「ここを優勝しないと、この先、(今年の世界選手権や東京五輪の代表も)ないかなと思っていたんですが、1試合1試合、楽しんで戦えました」

 志々目との決勝では先に2つの指導を与えられる窮地に陥(おちい)った。しかし、本人は気づいていなかったという。それだけ無我夢中になって狙っていた技は、やはり巴投げ。延長に入ってとうとう志々目の懐に飛び込んで身体を浮かせる。判定は「技あり」。その瞬間、優勝が決まった。

「私には巴投げしか(武器が)ないとみんなに思われているので、それを打破しようとした時期もあるんですけど、結局、他の技では投げられず、今度は巴投げも掛からなくなるという負の連鎖に陥った。確かに私には巴しかないんですけど、誰にも負けない武器をひとつ持っているということで、今は私の強みだと思っています」

 敗れた志々目は、畳を降りた直後から目を赤くしていた。

「(巴投げを)警戒してしまって、守りに入ってしまって、自分から攻めていけなかった」

 そして、この大会を第2シードで迎えた阿部の快進撃を準決勝で止めたのも角田だった。やはり巴投げで阿部の背を畳につけ、主審の「一本」の声がかかる寸前には阿部の左腕も腕ひしぎ十字固めで極(き)めるという”二本”勝ち。阿部は一昨年のグランドスラム東京でも角田に敗れており、捨て身技である巴投げと腕関節を極めることに長(た)けた角田の柔道に対する苦手意識をこう明かした。

「思い切って自分から技を出したら勝てると思っていたんですけど、どこかに”嫌だな”という気持ちがあったから、この結果になったんだと思います。苦手意識はあるんですけど、ここを超えないと……必ず超えたい」

 大会後に開かれた強化委員会で、9月にアゼルバイジャンのバクーで開催される世界選手権女子52キロ級の代表には、志々目が選出された。

 現世界女王に加え、屈指の実力者に期待の若手が揃う52キロ級は、4月22日の全日本女子柔道選手権大会後に、もうひとりの代表選手が決定することが有力視されている。

 2枠目に飛び込むのは角田か、それとも阿部か。いずれにせよ、三者の中から今年の世界女王は生まれるはずだ。