「アグレッシブ・ベースボール」という言葉がある。東海大相模(神奈川)の門馬敬治監督が標榜する、積極果敢な野球のことだ。 もし甲子園大会を生観戦する機会があれば、東海大相模の打者走者を見てみるといい。シングルヒットを打った打者が、まるで二…

「アグレッシブ・ベースボール」という言葉がある。東海大相模(神奈川)の門馬敬治監督が標榜する、積極果敢な野球のことだ。

 もし甲子園大会を生観戦する機会があれば、東海大相模の打者走者を見てみるといい。シングルヒットを打った打者が、まるで二塁打を放ったかのような勢いで一塁ベースを駆け抜けて二塁方向に大きく飛び出し、相手野手の動きをうかがってから一塁に帰塁する。スキあらばいつでも次の塁を奪ってやる……。そんな野心むき出しのオーバーランに、東海大相模の「アグレッシブ」を感じることができるはずだ。

 3月27日に春のセンバツ初戦を迎えた東海大相模は、すでに1試合戦っている聖光学院(福島)と対戦した。この試合で何よりも光ったのは、東海大相模の1番打者・小松勇輝の働きだった。



1年の夏から東海大相模のレギュラーとして活躍する小松勇輝

 昨秋の公式戦防御率0.00のエース・齋藤礼二が立ち上がりに苦しみ、いきなり1点を失って迎えた1回裏。先頭打者として打席に入った小松は、嫌なムードを振り払うかのように初球を叩いてレフト前へと運んだ。完璧な狙い打ちだった。

 小松は試合後、このように振り返っている。

「左打者に対しては、ほとんど外のスライダーで攻めるというデータがあったので。初球打ちを狙っていたというより、狙い通りのスライダーがちょっと甘めに入ってきたので、初球から行こうと思いました」

 本人はこともなげに言うが、立ち上がりの劣勢を受けて後手に回ることなくアグレッシブに初球から攻めたあたり、さすがは東海大相模の1番打者というべきだろう。

 小松のヒットを皮切りに、東海大相模は死球、四球を誘って無死満塁のチャンスを作る。そしてテキサスヒット、併殺打の間、内野安打でじわじわと3点を奪って逆転。さらに8番・齋藤がライトポール際に3ラン本塁打を叩き込み、一挙6得点のビッグイニングを作った。

 門馬監督も起点となった小松の仕事ぶりを高く評価する。

「相手投手の一番いいボールを最初に小松が仕留めたことで、次から投げにくくなったんじゃないですか」

 聖光学院バッテリーとしては、頼りにしていた配球の軸を先頭打者の初球に打たれては「読まれている」と勘ぐってもおかしくない。より厳しいコースを狙おうとした結果、かえってコントロールを乱して四死球が増えてしまう。

 そんな東海大相模にとっての好循環を引き出したのは、間違いなく小松の積極性だった。小松は言う。

「野球にとって初回は大事なイニングなので、その先頭バッターとして自分の持ち味である積極性を出せたのはよかったと思います」

 この試合は小松の働きが特に目立っていたが、東海大相模には「アグレッシブ・ベースボール」のもうひとりのキーマンと見るべき選手がいる。それは小松に続き2番を任される山田拓也だ。

 東海大相模が6対1と5点リードした2回裏、再び先頭打者の小松が、今度はセンターへとヒットを放つ。そして打席に入ったのが山田だった。

 小松が172センチ、67キロとやや小柄な体型をしているのに対し、山田は168センチ、63キロとさらに小さい。一見、地味に見えるが、勝負どころで実にいい仕事をする好プレーヤーなのだ。

 東海大相模はノーアウトのランナーが出ても、無条件にバントで送るような戦法はとらない。もはやお家芸となったヒットエンドランなど、多彩な選択肢でバッテリーに揺さぶりをかけてくる。

 この場面でも、山田は強攻に出てライトへ二塁打を放つ。ライトからの返球が逸れる間に小松が生還し、東海大相模はこの回に3点を追加して試合を決めた。

 試合後、山田はこんなことを語っている。

「門馬監督からは『小松と2人で1点を取るくらいのつもりでやれ』と言われています」

 その言葉を聞いて、強烈な記憶が脳裏から呼び起こされた。それは7年前、東海大相模が春のセンバツを優勝したときの記憶だ。

 1番・渡辺勝(現中日)、2番・臼田哲也(現東京ガス)という、センバツ史上最高と思えるような1、2番を擁したチームだった。

 何しろ2人合わせて48打数22安打を記録し、送りバントはゼロ。大会初戦の関西(岡山)戦では、初回に渡辺を一塁に置いて、臼田が鮮やかにヒットエンドランを決めて流れを呼び込んだ。このプレーに象徴されるように、2人はアグレッシブ・ベースボールの体現者だった。

 その2人の大暴れが、今春の東海大相模の1、2番と重なった。そんな感想を伝えると、山田から意外な反応があった。

「小学校の低学年の頃から(東海大)相模の野球が好きで、渡辺さん、臼田さんの1、2番に憧れを持っていました。僕にはお2人のような力はありませんけど、見本として意識はしています」



2年の春から小松勇輝と1・2番コンビを組む山田拓也

 小松、山田の1、2番は2人が2年生だった昨春以降、公式戦では常に固定されている。門馬監督は時に「渡辺・臼田」の例を持ち出しながら、小松と山田に主導権を奪うための役割を課しているという。

 小松が「考えることは苦手でガツガツ全力プレーをするのが得意」という猪突猛進型なのに対し、山田は「自分は熱くなりすぎても空回りするので、いい意味で力を抜く」と冷静沈着なタイプ。そんな対照的な個性がかえっていいバランスになっているのだろう。思えば7年前も、渡辺が完璧を求める職人肌なのに対し、臼田は細かいことを気にしない楽天家だった。

 今春の東海大相模は優勝候補の一角に挙げられているが、主砲の森下翔太、エースの齋藤という柱はいるものの、全体としてみれば小粒感のあるチームだ。だからこそ、1、2番の重要性は余計に増してくる。

 山田は言う。

「ウチは森下以外にホームランをバンバン打てるようなバッターはいないので、つないで、つないで、ランナーをためて……という野球です。チームにちょっとでも勢いをつけられる1、2番になりたいです」

 8-1と快勝した3回戦の静岡戦でも、小松が5打数2安打、山田が3打数1安打(2四球)と、2人で計5度の出塁を果たした。

 東海大相模が強い年は1、2番打者がいいとき――。

 大会が終わる頃、それが定説になっているのかもしれない。

◆原辰徳を超えたスラッガーが語る「東海大相模の4番を打つということ」

◆断トツ優勝候補・大阪桐蔭のセンバツ連覇を止めるのは「この7校」だ