写真提供:共同通信 ■ゴロの山を築く西武投手陣 昨季は辻発彦新監督のもと、4年ぶりにAクラスへ返り咲いた西武。長らく黄金時代を築いてきたチームにあって、2014年からの3年連続Bクラスは35年ぶりとなる屈辱だったが、球団史に残る低迷期からは…

写真提供:共同通信

 

■ゴロの山を築く西武投手陣

 昨季は辻発彦新監督のもと、4年ぶりにAクラスへ返り咲いた西武。長らく黄金時代を築いてきたチームにあって、2014年からの3年連続Bクラスは35年ぶりとなる屈辱だったが、球団史に残る低迷期からはひとまず抜け出した。その原動力となったのが、首位打者を獲得した秋山翔吾や、2度の月間MVPに輝いた山川穂高らを擁し、リーグ最多の690得点を挙げた強力打線だ。一方で、岸孝之という大黒柱を失いながらも、失点数を前年の618から560に減らした投手陣の奮闘も見逃せない。

 その投手陣において、際立つのがゴロの多さである。昨季の打球に占めるゴロの割合を見ると、63.5%と突出しているウルフを筆頭に、54.6%の多和田真三郎、52.4%のシュリッターらが続く。チーム全体のゴロ割合48.2%は、パ・リーグ6球団で最も高い数値だ(図1)。こうした「グラウンドボールピッチャー」の多さは、西武の特色といえるだろう。

■本拠地が打者有利ゆえの戦略?

 興味深いのが、直近5年間のゴロ割合が右肩上がりに推移していることだ(図2)。また、その年からチームに加わった投手を「新戦力」、それ以前から在籍している投手を「既存戦力」に分類し、それぞれのゴロ割合を算出すると、2013年から4年連続で新戦力が既存戦力を上回っていたことが分かる。特にウルフと多和田が加入した16年は、新戦力のゴロ割合が52.9%を記録。彼らが既存戦力に分類された17年は、新戦力のゴロ割合が既存戦力を下回ったものの、それでも47.9%とリーグ平均以上にゴロを打たせていた。意図的かは定かでないが、近年の西武は毎年グラウンドボールピッチャーを獲得しており、それがゴロ割合の高さにつながっているのだ。

 西武がグラウンドボールピッチャーを獲得することには、明確なメリットがある。表1はパ・リーグの本拠地球場を対象に、フライ打球の長打率、すなわち「フライ打球が平均で何塁打になるか」を、パーク・ファクター(PF)を用いて比較したものだ。PFは球場ごとの数値の偏りを表す指標で、2017年のメットライフを例にとると、メットライフにおける西武と相手チームを合わせたフライ打球の長打率.758を、メットライフ以外における西武と相手チームを合わせたフライ打球の長打率.690で割ることで、PF1.10が求められる。今回のケースでは、1を上回ればフライがより長打になりやすく、1を下回ればフライが比較的長打になりにくいことを意味している。

 以上を踏まえ、あらためて表1を見ると、メットライフは2013年から5年連続でPFが1を超えた、唯一の球場であることが分かる。つまり、ただでさえフライは長打のリスクが伴うのに、メットライフではそのリスクがより高くなる傾向にあるのだ。この要因としては、外野フェンスが比較的低いことや、ファウルエリアが狭く、ファウルフライが捕球されにくいことなどが考えられる。こうした特性を持つ球場を本拠地にするがゆえに、フライを打たれにくいグラウンドボールピッチャーを多くそろえたのだとしたら、西武の戦略は理にかなっているといえる。

■高木勇人が見せた変貌

 さて、昨オフは西武投手陣から戦力流出が相次いだ。特に、規定投球回に到達してチーム2位の11勝を挙げた野上亮磨のFA移籍は大きな痛手だろう。その人的補償として巨人から獲得したのが、2015年に9勝を挙げた高木勇人だ(表2)。昨季の高木勇は右手の負傷もあってキャリアワーストの成績に終わったが、鈴木葉留彦球団本部長は「10勝近くやってくれると思う」と、野上の穴をそのまま埋めるような活躍を期待しているようだ。

 高木勇が投球の軸とするのが、平均球速140キロ前後のストレートと、120キロ台中盤で大きく曲がるカットボールである。だが、この2球種は打球がフライになりやすい性質があり、トータルのゴロ割合も2015年、16年は40%前後を推移(図3)。奪三振が特段多いわけではない高木勇にとって、フライの多さは課題の1つだった。ところが、昨季は一転してゴロ割合が51.9%を記録。フライボールピッチャーだった高木勇が、一躍グラウンドボールピッチャーへと変貌を遂げたのである。

■武者修行からの意識改革

 では、なぜゴロ割合が上昇したのだろうか。要因の1つに挙げられるのが、投球の高さだ。投球ゾーンを「高め」「真ん中」「低め」に3分割すると、昨季はボールが真ん中に行くケースが少なく、低めに集まっていたことが分かる(図4)。近年はアッパースイングで低めのボールをすくい上げる打法が流行しているとはいえ、一般的にはゴロを打たせるのに低めが有効であることに変わりはなく、このゾーンへの制球がゴロの増加をもたらした可能性は高い。

 もう1つが、配球の変化だ。昨季の高木勇は、打球がフライになりやすいストレートの割合を減らし、シュートや落ちる変化球を多投していたのである(表3)。これらのボールはいずれもゴロを打たせやすく、昨季はシュート、フォーク、チェンジアップの3球種合わせてゴロ割合76.0%を記録。以上を総合すると、昨季はゴロになりやすいゾーン、ゴロになりやすいボールで勝負していたことが、フライボールピッチャーからの脱却につながったといえそうだ。

 この背景にあるのが、2016年のオフに参加したプエルトリコのウインターリーグだろう。高木勇はこの間にチェンジアップを習得するとともに、現地のコーチからの助言で「三振ってすごく格好いいですが、理想は9回27球」と「打たせて取る投球」に意識を改めたことを明かしている。西武が人的補償に高木勇を選んだ真意は定かでないが、近年のグラウンドボールピッチャーを中心とした補強戦略を鑑みれば、こうした意識や投球内容の変化が、獲得の後押しになった可能性も考えられる。

■さらなるモデルチェンジはあるか

 そして、高木勇は西武でさらなるモデルチェンジを図っているのかもしれない。オープン戦初登板となった3月9日の楽天戦では、カットボールの割合が減り、シュートが投球の4分の1以上を占めたのである(表4)。表3の通り、カットボールは高木勇が最も多投する変化球であるが、同時に最もフライになりやすい諸刃の剣だ。そのため、より多くのゴロを打たせるべく、カットボールに頼らない投球を試した可能性はある。もちろん、高木勇はまだ1試合で91球を投げただけに過ぎず、現段階で全ての判断はできない。それだけに、今後のオープン戦、ひいてはシーズンで高木勇がどのような投球を見せるのか、引き続き注目していきたいところだ。

【出典】
スポーツ報知
http://www.hochi.co.jp/giants/20170418-OHT1T50026.html

※データは2018年3月15日時点

文:データスタジアム株式会社 佐藤 優太