写真提供:共同通信 ■ペナントレースの絶対的本命 プロ野球の開幕が近づき、メディアを通じて今季の順位予想を目にする機会が増えてきた。パ・リーグは昨季日本一に輝いたソフトバンク、セ・リーグは二連覇中の広島を推す声が大きいようだ。ディフェンディ…

写真提供:共同通信

 

■ペナントレースの絶対的本命

 プロ野球の開幕が近づき、メディアを通じて今季の順位予想を目にする機会が増えてきた。パ・リーグは昨季日本一に輝いたソフトバンク、セ・リーグは二連覇中の広島を推す声が大きいようだ。ディフェンディングチャンピオンが優勝候補に挙がるのは自然なことだが、両球団とも揺るぎない本命として強く認識されているように感じられる。

 特に広島については2年続けて2位に大差をつけてのリーグ制覇とあって、本命から外すのは困難であるとすら言える。昨季は8月8日に球団史上最速となるマジック33を点灯させ、最後は阪神に10ゲーム差をつけて連覇を達成(表1)。一時は優勝日のリーグ最短記録(9月8日、1990年巨人)を更新するのではないか、というスピードで白星を積み重ねていった(9月18日に優勝)。

 得点と失点の関係からチームの妥当な勝率を予測するピタゴラス勝率という指標を用いても(表2)、昨季の広島の独走がフロックではなかったことが確かめられる。昨季は得失点差にしてプラス196を計上し、予測勝率は.650に達した。実際の勝率は.633だったので、もっと勝っていても不思議ではないほどの成績を残していたことになる。とりわけ得点力の高さは他球団を圧倒していて、昨季の広島については明確に打のチームであったことが数字の上から読み取ることができる。

 どのポジションがチームのプラスを生み出していたのかを確かめるために、もう少し詳細なデータに触れたい。表3は守備位置ごとに打撃による得点貢献(wRAA)、守備による失点阻止の貢献(UZR)を表している。数字はいずれもリーグの同じ守備位置の平均との差を表し、値が大きいほど相対的に優れた結果を残したポジションと言える。

 攻守で最も大きなプラスを生み出していたのが、昨季のリーグMVP・丸佳浩の守る中堅手だった。特に打撃面での貢献が大きく、高い出塁能力と長打力で日本を代表する外野手に成長した。主砲を担った鈴木誠也のメインポジションである右翼手が僅差の2番手につけているが、後半戦の鈴木の故障離脱がなければチームで最も多くのプラスを計上するポジションとなっていた可能性もある。

 他に新井貴浩とエルドレッドを交互に起用した一塁手、田中広輔の遊撃手、菊池涼介の二塁手、會澤翼、石原慶幸の捕手など複数の強みを抱えている。そして2017年オフの主力クラスの退団者はゼロ。アスリートとしてピークを迎える20代後半の選手も多く、現在の広島は黄金期の只中にある。

■優秀であるが故の依存

 チームが初めてクライマックスシリーズに進出した2013年以降、中心選手として活躍を続けているのが田中、菊池、丸の同学年組だ。丸は2013年5月から連続試合出場を続け、2014年にプロ入りした田中は現在425試合連続フルイニング出場を継続中。昨季の菊池は5年ぶりに140試合に満たなかった(138試合)ものの、WBCでのプレーも含めてほぼ一年間レギュラーとして過ごした。

 この5年間で140試合以上に出場した人数を合計すると、12人の広島は阪神と並んでリーグトップの数となっている。5選手が記録した阪神とは異なり、広島は3人だけに集中していて、それだけチームにとって外せない存在であることが分かる。カープ黄金時代の象徴として、「タナキクマル」の名がセットで取り上げられる機会も多い。

 同い年の3人は今年、29歳を迎えるシーズンとなる。心身ともに充実してさらなる活躍を見込めるようにも思えるが、この20代後半は故障が増え始める年齢でもある。過去5年間で一軍登録された野手のうち、故障による登録抹消をシーズン中に一度でも経験した割合は28~30歳から20%を超える。このカテゴリの昨年の故障例を挙げると、同僚で同い年の安部がふくらはぎ痛(14日間の離脱)、中日の平田良介が右ひざ痛(114日間)、ロッテの角中勝也が右脇腹痛(40日間)、ソフトバンクの柳田悠岐の右腹斜筋損傷(19日間)などがある。基本的に年齢に比例して故障の発生頻度は上昇するが、明確にリスクの高まる年齢が30歳前の選手たちなのだ。

■損失の見積もり

 もし実際に3人が故障してしまった時、チームに与える影響はどれだけのものだろうか。WARという指標を用いて、昨季のチーム成績を参考に離脱期間の程度による勝率の変化をシミュレートしてみたい。WARとは控えクラスの選手に比べて何勝分チームの勝利を増やしたかを表す指標で、今回は3人の過去3年間の平均の値を用いている(表6)。3人の平均値の合計は15.9で、約16勝分のプラスをチームにもたらしている計算となる。極端な話、3人が年間を通じて全く試合に出場しなかった場合、昨季の88勝51敗4分は72勝67敗4分となり、勝率は.633から.518まで低下する。今回はカープの控えクラスがどの程度活躍を見込めるかなどを考慮していないため、あくまでも参考程度のものとして見てほしい。

 一般的な優勝ラインが勝率.600と考えると、出場割合70%くらいがひとつの境界線とみなすことができる(表7)。これは3人のうち1人がシーズンを棒に振るか、3人がそれぞれ2カ月ほど一軍を離れるようなパターンが考えられる。さらに3人の稼働率が50%まで下がると仮定すると、勝率は.576まで落ちる。昨季のペナントレースに当てはめると、2位の阪神が勝率.561なのでまだ1位をキープしているが、失った白星を当の阪神に与えてしまった場合、逆転を許す可能性もある。

 順位予想などで「主力に故障者が出なければ」というフレーズはよく使われるが、広島の3人の場合はこの程度の影響が及ぶと考えられる。どこのチームであろうと、主力が抜ければ大きな影響を受けるのは当然のことだ。広島はこの数年で3人に非常に大きな負荷を掛けてきた。年齢的にも故障の可能性が上昇しているため、現実的なリスクとして受け止めなくてはならない。

■予防と育成の両立を

 現実に即して考えれば、よほどのことがない限り、3人がそろって長期離脱するような事態は考えにくい。先の勝率シミュレーションを見る限り、多少の離脱であれば広島の優位は動きそうにない。過去のセ・リーグの例を見ても、二連覇中のチームが三連覇を果たす割合は50%と決して低くない(表8,9)。故障リスクを鑑みたとしても、2018年のペナントレースの本命はやはり広島だろう。

 ただ、広島の抱えるリスクは今後も消えることはない。年齢の加算は不可逆であり、今年の春季キャンプでも丸が右肩痛を訴えて別メニュー調整を行うなど、不穏な兆候も見えてきている。連続出場系の記録を犠牲にしてでも、3人には積極的に休養を与えるなど故障の予防につとめることも必要だろう。今の広島はそれを行うだけの充実した戦力を持っている。

 順調にいけば2018年オフに丸、その1年後に菊池、2年後に田中と、3人の国内FA権取得も間近に迫っている。最悪の可能性を考慮すると、今のうちから後継者を育成しなくてはならない事情もある。広島のフラッグシップである「タナキクマル」の負担をいかにして下げていけるかが、今季の成績のみならず、3年後や5年後の広島の未来を変えることになりそうだ。

※データは2017年シーズン終了時点

文:データスタジアム株式会社 佐々木 浩哉