水谷隼vs張本智和 写真:西村尚己/アフロスポーツ 今年1月の全日本選手権から約2カ月ぶりとなった、水谷隼(木下グループ)と張本智和(JOCエリートアカデミー)の対決が話題を呼んだ。舞台は東京・駒沢屋内球技場で3月3日に開かれた「LIONカ…

水谷隼vs張本智和 写真:西村尚己/アフロスポーツ

 今年1月の全日本選手権から約2カ月ぶりとなった、水谷隼(木下グループ)と張本智和(JOCエリートアカデミー)の対決が話題を呼んだ。舞台は東京・駒沢屋内球技場で3月3日に開かれた「LIONカップ 第22回ジャパントップ12卓球大会」(以下、ジャパントップ12)男子シングルス決勝。軍配はゲームカウント4-2で水谷に上がったが、優勝会見で水谷は張本が本調子でなかったこととタイムアウトのタイミングを指摘した。



 張本の調子については、ピークを合わせた全日本選手権時に比べれば落ちているのは確かなようだ。どの選手にも調子の波はあるし、チームワールドカップ2018(イギリス・ロンドン 2月22日~25日開催)の疲れもあったのだろう。この日の張本はやや鼻声でもあった。イギリスから戻った日本代表選手では他にも、伊藤美誠(スターツSC)が体調を崩してジャパントップ12を急きょ欠場。同大会の女子シングルスで優勝した早田ひな(日本生命)も体調が優れないと言っていた。

 そして張本のタイムアウトについてだが、その場面はゲームカウント2-2で迎えた第5ゲームに訪れた。10-5でリードしていた水谷に3本連続でミスが出て10-8になったところで、水谷が先にタイムアウトを取り一息入れたが、次のポイントも張本の鋭いフォアハンドクロスが決まって10-9に。流れは張本に傾きつつあった。ところがここで張本がタイムアウト。このタイミングを水谷は「すごく意外だった」と言い、「相手が考えてきたことを外そうと思った」と試合後に話している。

 具体的には、張本は確実に得意のチキータレシーブで来ると予測した水谷が逆横回転系のYGサーブを選択。この読みが見事に当たり3球目攻撃を決め第5ゲームを奪った。そして、これが勝負の分かれ目ともなって、第6ゲームも制した水谷が張本に全日本選手権の雪辱を果たすとともに、ジャパントップ12で4度目の栄冠を手にした。


なぜ張本はあの場面でタイムアウトを取ったのか

 その理由を紐解く鍵はチームワールドカップ2018の韓国戦に伏線があったと見る。大会3日目の男子準々決勝。1番手のダブルスに続き、2番手のシングルスを任された張本が勝ち、日本男子代表チームは2-0とリードした。しかし、3番手の丹羽孝希(スヴェンソン)が負け、4番手に再び出番が回ってきた張本もこれを落としてしまう。実はこの試合で張本は指揮官である倉嶋洋介監督のタイムアウトの要求を退けるという経緯があった。



「大会前半、調子を落としていた張本は急激に調子を戻してきたが焦りがあった。4番手で戦った試合で相手にマッチポイントを握られた時も慌てていた。だから僕はタイムアウトを要求した」と、ロンドンの会場で説明していた倉嶋監督。しかし、張本は「多分、勢いのまま行きたかったのだろう。『大丈夫です』と言ってタイムアウトを取らなかった」という。

 タイムアウトのタイミングは結果論とも言えるが、「そこで僕が止めて、冷静にサーブのコースを確認し、再びコートへ送り出すことができていれば」と指揮官の責任を口にした倉嶋監督。同時に「こうしたことは彼の卓球人生の中で何度もあると思う。すごくいい経験になったはず」と展望につなげた通り、張本自身も「倉嶋監督からタイムアウトを促されたが、自分ではいけると思って素直に取らなかった」と反省し、以降の糧にしようと誓ったに違いなかった。そしてその真摯なる思いは、直後のジャパントップ12で優勝のかかった大事な場面に表れたと思われる。

 その証拠に張本は試合後、「5-10でリードされてから9-10に追いついたが、水谷さんは連続で4本も5本もポイントを取れる相手じゃない。5ゲーム目が勝負だと思ったので、しっかりここで落ち着こうとタイムを取った」と、その時の心境を明かしていた。

 一見、意外と思われるタイムアウトも彼にとっては必然だった。それはすぐ結果には表れないかもしれない。だが、世界が驚く張本の凄まじい成長スピードの秘密の一端を物語っている。

(文=高樹ミナ)