サッカー日本代表VR映像のハイライト

最近、噂の「VR(ブイアール)」。この言葉を耳にする機会が増えていますが、スポーツ映像にもVRの波が到来中。先日開催されたサッカー日本代表のE-1選手権では、KDDI独自のVR映像がお披露目されました。そもそも「VR(ブイアール)」って?今さら聞けない感漂うなか、KDDIのホームページを閲覧すると以下のような記載が。

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「VRとはVirtual Reality、仮想現実のことで、コンピューターによって現実感を人工的に創り出すもの。VRでは、人間の視聴覚や触角などに刺激を与えることで、人工的に創り出された現実に没入させる。また感覚に対するフィードバックや対話性が必要となるため、映画や小説など、受け身で体験するものとも区別される。 VRを体験する道具として、頭にディスプレイを搭載するヘッドマウントディスプレイ、CAVEと呼ばれる没入型の投影ディスプレイなどが開発されている。 バーチャルとは虚構を意味することばではなく、みかけは現物ではないが、本質的には効果のある現実を指している。例えば電子マネーはバーチャルマネーで、紙幣や硬貨ではないが、現実にモノやサービスを買うことができる。VRは人間の能力を拡張することを目的とするもので、人間が時空の制約を超えて現実に対処する技術の構築を目指している。ロボットによって遠隔操作をするテレイグジスタンスはVRのひとつとなる。」

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うーん、なんとなく一般ユーザーには難しい気がします。そこで、VRの技術開発に携わり約8年。子供の頃は、理科や工作が好きだったというKDDI総合研究所の内藤整(ないとう・せい)さんにお話を伺いました。内藤さんは、技術開発一筋の技術マン。KDDI総合研究所では「超臨場感通信グループ」というプロジェクトでリーダーを務めているそう。

ー内藤さんがリーダーを務める「超臨場感通信グループ」。この部署名は、KDDI総合研究所のなかでも有名なプロジェクト名のようで?

 

「名刺を出すと絶対に突っ込まれます(笑)」

 

内藤さん曰く、もともとの部署名は「映像通信グループ」でしたが、この部署名になってから様々な分野の方と交流があったり、研究材料が飛び込んできたりといいことづくめなのだそう。

VR映像について説明する内藤さん

そんな内藤さんに「VR映像で100倍楽しむスポーツ観戦新時代」について伺ってみました。

 

ー KDDI総合研究所が取り組む技術として、サッカー日本代表のVR映像がありますが、内藤さん的に「ここがすごい!」という特徴を教えてもらえませんか?

「特徴は、ずばり「au Dynamic Replay(エーユー・ダイナミックリプレイ)」ですね。」

 

内藤さんが特徴としてあげてくれた「au Dynamic Replay」とは、単なる自由視点ではなく、まるでピッチに立っているような選手目線での映像体験が可能になる次世代新技術のこと。今回のVR映像は、先日のE−1選手権におけるゴールキーパーやラインズマン(副審)の目線を想定しており、将来的には選手や監督などの目線もVR映像で再現可能なのだとか。

ユーザー目線で一瞬見ただけでも、VRの映像は大迫力。まるで自分が日の丸を背負って戦っているかのような緊張感すら体感できる衝撃映像。特にサッカー日本代表の試合映像は、国際Aマッチの大興奮がスタジアム全体から伝わり、その臨場感は既存のアクションカメラの映像とは比較にならない。「au Dynamic Replay」は、サッカー好きはもちろんのこと、全国のauユーザーの皆さんにぜひ体験してほしい新感覚映像です。

 

ー スタジアムの臨場感を実現したKDDIの技術革命、今後の進化は?

 

「今まで誰も見ることができなかったピッチ内外の撮影が可能になりますね。将来的には、ピッチ上の1人1人の選手にフォーカス可能です。」

 

内藤さんによれば、試合前後のロッカールームなどにもVR映像技術が組み込まれる可能性もあり、イングランドのプレミアリーグさながらの闘う舞台裏にも密着可能なのだとか。さらに「au Dynamic Replay」では、PC、スマホ、HMDなどあらゆるデバイスでのVR体験が可能で、例えば、YouTubeに360度動画を展開したり、様々なユーザーにKDDI独自のVR映像を提供できるのだそう。

ーところで、内藤さん。先日行われたE-1選手権で撮影されたサッカー日本代表のVR映像は、カメラ台数をぐぐっと減らして撮影に成功されたそうで。これは歴史的な快挙だったそうで?

「今までサッカー日本代表の自由視点映像は6台以上のカメラを使ってきましたが、E-1選手権では3台の4Kカメラで撮影に成功しました。メインスタンドの3台を基本的に使い、ゴール裏の映像には、4DReplayの4K素材をお借りすることで、PKシーンの映像も迫力あるものを提供できたかと思います。さらにスタジアムの撮影で「自由視点×VRのハイライト動画公開」は、世界初となります。」

4DReplayのカメラを活用し、4DReplay×KDDIのコラボレーションとしては、初の取り組みとなったE-1選手権。この日の内藤さんは、メインスタンドの屋上を中心に大きなENGカメラの映像をチェックしながら、埼玉スタジアムの中を走り回っていたそうです。放送カメラの扱いやメディアのご経験はゼロ、なのにカメアシ(カメラマンアシスタント)もビックリの猛ダッシュを続けていた技術魂、さすがです!ちなみに「au Dynamic Replay」の技術開発には、10年もの月日を費やしたのだとか。

ここまでくると、技術の進化なのか?開発技術者による人間的な努力の賜物なのか?スケールが大きすぎて「au Dynamic Replay」凄さが解ります。

ー 内藤さん的にサッカー日本代表のE-1選手権において、VR映像の技術的手ごたえは何%くらいでしょうか?

「90%ですね!」

ほほう、これは凄い。ちなみに先日のE-1選手権では、試験的にVRを体感できる特別シートを100席設けたそうで、評判も上々だったとか。しかも、現在のVR映像は、ネットワークの関係で30秒から1分のディレイ(実際の試合との時差)が発生しますが(内藤さん曰く)このディレイも10年以内でどんどん短くなっていくようです。「VR映像は、ディレイ1秒!ほとんどライブと同じ!」そんな時代もすぐそこに来ているもかもしれませんね。

サッカー日本代表のE-1選手権で技術的な手応えとして残された課題は、細かい技術確認のみ。「強いて言えば、E-1選手権は試合が均衡していただけに細かい技術テストができなかった」そうで。確かに、スポーツ中継の展開は誰にもわからない映像ショーの連続で、内藤さんだけでなく映像に関わる全ての人達にとって大変なお仕事であることは明確です。ワールドカップイヤーとなる2018年、サッカー日本代表のVR映像にも注目が集まる時期。全国のauユーザーに内藤さんからメッセージも頂きました。

「スポーツのビッグゲームは、チケットが入手困難だったり現地で観ることがなかなか難しいし、スタジアムにいても入れないような場所も沢山ある。VR映像によって、そんな非日常体験が可能になることもあるので、色々なスポーツの観戦の形を楽しんでほしいですね。」

 

私たちスポーツファンの夢と日の丸を背負った、内藤さん!パワーフードの餃子を食べて、研究開発のお仕事も頑張ってください。そして「KDDI総合研究所の超臨場感通信グループ」をスポーツブルでは「最強の超体育会系技術集団」と勝手に命名させていただきます。

 

【プロフィール】内藤整(ないとう・せい)

1996年早稲田大学大学院理工学研究科修士課程修了、博士(国際情報通信学)現在は、株式会社KDDI研究所 超臨場感通信グループリーダー。主に超高精細映像や自由視点映像をはじめとする超臨場感アプリケーションを対象とした信号処理方式および伝送方式の研究・開発に従事している。

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取材/文:スポーツブル編集部

協力:KDDI

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編集後記:内藤さんに「最近ブルったこと」を伺ったところ「お子さんの卒業式撮影失敗」という回答が。内藤さん情報だと、緊張した卒業生が入場する通路を間違えて歩いてしまい、ふわっとした卒業生入場シーンが撮影されてしまったのだそう。入場シーンを撮影しようとベストポジションでスタンバっていた内藤さんは大事な入場シーンを撮り逃し、かなり慌てたそうで。優秀な技術者の内藤さんでも、小学生の繰り広げるガチのハプニングには対応出来なかったようです。ほのぼのする「最近ブルった」エピソード、ありがとうございました。余計なお世話ですが、お子さんが高校を卒業する日には、極上のVR映像で入場シーンをリベンジ撮影してほしいと思います。