【福田正博 フォーメーション進化論】 Jリーグの各クラブが続々とキャンプインし、2018年シーズン開幕に向けて本格的…
【福田正博 フォーメーション進化論】
Jリーグの各クラブが続々とキャンプインし、2018年シーズン開幕に向けて本格的に動き出した。今季は、J2から昇格した湘南ベルマーレ、V・ファーレン長崎、名古屋グランパスがJ1に加わるが、それぞれが個性ある楽しみなチームだ。

昨季のJ2を首位で終え、昇格を決めた湘南ベルマーレ
長崎で指揮を執る高木琢也監督は私より1歳年下で、現役時代はJリーグでしのぎを削り、日本代表でともに戦った仲でもある。そんな高木監督に、1月末に沖縄のキャンプ地を訪ねて新シーズンへの準備について聞いた。
2004年に今のチームの前身である「有明SC」が創設され、翌年からチーム名を「V・ファーレン長崎」へ改称して徐々に力をつけていき、2013年からJ2に参戦した長崎。チームにとってJ1昇格は初めてのことだが、高木監督が指揮官としてJ1を戦うのはこれが2度目になる。
1度目は2007年シーズンのこと。横浜FCを 2006年の途中から率いて初のJ1昇格を果たすも、翌年はシーズン序盤から成績が振るわず、8月に志半ばで解任されてしまう。チームも最下位の18位に沈み、1シーズンで再びJ2に降格した。
なかなか戦力が揃わないチームを初めてのJ1昇格に導いたことなど、昨季の長崎と似通った点があることを尋ねたが、それに答える高木監督に気負いを感じなかったことが印象的だった。
横浜FCでは監督就任1年目でJ1昇格を果たしたが、高木監督は「前監督から引き継いだチームが、なんとなく結果を残したような感覚だった」と振り返る。一方で長崎は、2013年から5年をかけて作り上げたチームだ。その前にも、2009年には東京ヴェルディ、2010年から3シーズンはロアッソ熊本の監督として経験を積み重ねたからこそ、今回はJ1挑戦を前に自然体でいられるのだろう。
選手の能力や選手層を考えると、今季は相手にボールを保持され、そこに対応する守備の時間帯が長くなることが予想される。ただ、守備は昨季のJ2で機能した3バックがベースにあり、今オフに徳永悠平(←FC東京)や中村北斗(←アビスパ福岡)などを獲得して戦力を整えた。
さらに、高木監督は4バックもキャンプで試していた。3バックは相手に押し込まれると、両ウイングが下がって5バック状態になってしまうことがある。ボールを高い位置で奪える4バックの選択肢があれば、相手に応じて戦い方を変えることができるため、守り一辺倒のサッカーではなくなるはずだ。
安定した守備でJ2を勝ち上がった長崎だが、当然J1では対戦相手の選手のクオリティーは格段に高くなる。セットプレーひとつにしても、相手キッカーの精度が上がるため、フリーキック1発で試合を決められてしまうこともあるはずだ。
いいゲームをしているのに勝ち点を落とす試合が続くと、昇格1年目のクラブは徐々に自信を失っていく可能性も高い。そして、それまで自信を持ってプレーできていたことが、試合でうまくいかなくなるという悪循環に陥ってしまう。敗戦を重ねるうちに選手たちは監督の采配に疑心暗鬼になり、崩れた信頼関係を回復できないままシーズンを終えて、J2に降格するチームを多く見てきた。
その点について高木監督は、「中心選手が残留しているので、信頼関係を築けている強みはありますが、そうした事態も想定して準備しています」と明かしてくれた。ポイントになる選手としてDFの高杉亮太を挙げたが、厳しい戦いになることを前提に対策を練っているようだ。
補強に関しては、FWの鈴木武蔵(←アルビレックス新潟)に注目している。ハードワークと、スタミナを兼ね備えた武蔵は、キャンプの居残り練習で高木監督から直接指導を受けていた。武蔵に足りなかった部分を高木監督が伸ばし、高いポテンシャルが開花することを楽しみにしている。
さらに長崎には、”地域密着型のクラブ”という点でも注目している。昨季もチームとクラブとサポーターが三位一体となって戦っていたが、今季は徳永や中村、GKの徳重健太(←神戸)という地元・国見高出身の3選手を獲得して、さらに地域一丸となって長崎を盛り上げようとしている。
昨年は深刻な経営難に陥ったところを、4月にテレビ通販で有名な『ジャパネットたかた』の創業者である髙田明氏が社長に就任して、チームが再生した。ビジネスの世界で成功を収めた髙田社長が、地域の特色を生かしながら新たな成功例を作れば、他のクラブにとってこれ以上ないモデルケースになるだろう。
いずれにしろ、長崎にとってはロシアW杯による中断期間までの15試合がキモになる。ここでどれだけ勝ち点を積み重ねられるかが、J1残留に向けた大きなポイントになるはずだ。
残る昇格組の名古屋と湘南については、キャンプはまだ見ていないが、他のJ1チームと遜色ない戦いができるのではないかと予想している。
まず名古屋については、風間八宏監督が就任2年目を迎えるが、J2に降格した2016年から現在までチームに残っている選手は3人しかいない。メンバーを大きく変えながらチームを作り上げてきたが、それは「風間監督の志向するサッカーは選手を選ぶ」ということだ。
今季も、攻守で核となる選手を補強している。GKにオーストラリア代表のミチェル・ランゲラック、FWに元ブラジル代表のジョーのふたりだ。
特にジョーに関しては、日本での知名度は高くはないが、実績、実力ともに抜群な選手だ。2014年のブラジルW杯ではカナリア軍団に名を連ねたものの、その後はヨーロッパや中国で結果を残せず、一時は「終わった選手」と思われていた。しかし、昨季はコリンチャンスで見事な復活を果たし、「ロシアW杯のメンバーに入れるべきだ」という待望論まで出ている。
そんな大物が、15億円近いとされる移籍金と、3年総額で約12億円の年俸で加入する。さまざまな苦労を経て這い上がってきたジョーが、Jリーグでどんなプレーを見せてくれるのか楽しみだ。
前線にジョーが加わり、中盤には昨季途中から加入して存在感を示したガブリエル・シャビエルが残留したことで、攻撃陣は問題なさそうだ。一方で、守備陣は気がかりなところもある。
風間監督のサッカーは、GK、CB、ボランチにビルドアップの能力が求められるのだが、ボランチの田口泰士(→磐田)が移籍したことは痛い。長谷川アーリアスールジャール(←大宮)を獲得したものの、タイプ的にCBと攻撃陣の中継役になれるかは不透明だ。
また、CBも闘莉王が移籍してからは絶対的な存在が見つからず、ボランチ同様に不安を残している。CBとボランチでパスをつなぐことにリスクが生じると、”風間サッカー”の根底が揺らぐ。勝負を決めるCFとGKに能力の高い選手を獲得したため、降格争いに巻き込まれることはないだろうが、風間監督が課題にどう対処するかに注目したい。
一方の湘南は、ワントップのジネイが甲府に移籍し、新たにイ・ジョンヒョプとアレン・ステバノヴィッチというふたりの外国人選手を獲得した。湘南らしい戦い方ができるかどうかは、彼らが前線でボールを収められるかにかかっている。
J2首位で昇格を決めた湘南のサッカーは、人もボールも縦に入れていくスタイルだ。ボールを奪ったら前の選手にボールを預け、それを他の選手が追い越していく。そのため、前線で起点が作れないと、厚みのある攻撃ができなくなってしまう。
計算の立つジネイの移籍は痛手なのだが、これは湘南にとっては”想定内”なのかもしれない。湘南は過去にも何度かJ1に昇格しているが、そのたびに主力級の選手が他のチームに引き抜かれ、再びJ2に降格してしまうことが多いからだ。
実際に今オフも、ジネイだけでなく、山田直輝(浦和→)や広瀬健太(新潟→)などがチームを離れた。代わりに梅崎司(←浦和)やミキッチ(←広島)などを獲得しているが、本音を言えば、これらの選手が全員揃った形で、湘南がJ1でどういう戦いをするのかを見たかった。
そうなると、指揮官の手腕が重要になる。2012年からチームを率いるチョウ・キジェ監督のサッカーは戦い方が明確で、苦しい状況でもどうにかやりくりして戦ってきた実績がある。今季は、J1に定着する期待を感じさせてくれるチームを作っていってもらいたい。
昇格1年目で優勝争いをするのは難しいだろうが、名古屋と湘南、長崎もうまく流れに乗れば、ひと桁台の順位でシーズンを終える可能性は十分にある。J2を勝ち抜いたチームがどのように進化するのか、3チームのJ1での戦いから目が離せない。