2018年1月21日、名古屋オーシャンズは本来いるべき場所に立ち返った。 この日、Fリーグプレーオフ・ファイナルス…

 2018年1月21日、名古屋オーシャンズは本来いるべき場所に立ち返った。

 この日、Fリーグプレーオフ・ファイナルステージの第2戦が行なわれ、名古屋オーシャンズはペスカドーラ町田に6−2で勝利。前日の第1戦と合わせて2連勝し、2年ぶり10回目となるFリーグ制覇を成し遂げたのだ。



3シーズンぶりに名古屋の一員として戦った吉川智貴

 そのチームで中心的な役割を果たしたのが、FP(フィールドプレーヤー)吉川智貴(よしかわ・ともき)だ。昨シーズンまで2シーズンにわたり、スペインのマグナ・グルペアへ期限付き移籍。マグナ・グルペアに加入した当初はチームメイトたちからも懐疑的な目で見られていたが、すぐにイマノル監督に認められて出場機会を掴んだ。

 もともと守備能力の高かった吉川自身が「ちょっとずつ余裕を持ってプレーできるようになった」シーズン終盤に主力となると、スペインでの2シーズン目で完全にチームの中心選手となる。試合では、元名古屋オーシャンズで世界最優秀選手賞を現在5年連続で受賞しているリカルジーニョなど、世界の超一流選手をマークする役割を求められた。

 そしてその年、クラブは国王杯で同クラブ史上初となる決勝に進出。決勝ではエルポソ・ムルシアに敗れたものの、スペインの主要大会のファイナルを戦った初めての日本人選手となった吉川は、ファンやサポーターからも「ヨシカワ、どこにも行かないでくれ」「名古屋に戻らないで残ってくれ」と声をかけられるほどの人気を獲得していた。

 スペインのフットサルリーグであるリーガ・ナシオナルの2017−2018シーズンが開幕する前、吉川にはマグナ・グルペアから契約延長のオファーが届いた。世界最高峰のリーグで戦いたいと願っていた吉川にとって、このオファーはありがたいものだった。

 しかし同時に、ある責任を感じていた。2016−2017シーズン、彼の移籍元のクラブである名古屋オーシャンズがFリーグ元年から守り続けていたリーグ優勝のタイトルを逃したのだ。

 マグナ・グルペア残留と名古屋オーシャンズへの復帰。ふたつの選択肢を与えられた吉川は、「自身の夢を追うために、こころよく送り出してくれたクラブを助けたい」という気持ちもあり、3シーズンぶりにFリーグのピッチに立つことを決意したのだった。

 今シーズン、10連覇を逃した名古屋オーシャンズは選手を大きく入れ替えた。スペインから復帰した吉川に加え、日本代表のFP西谷良介をフウガドールすみだから獲得。前年の反省を踏まえて、得点力があるうえに守備もサボらないブラジル人選手を4人(ペピータは来日直後に負傷してFリーグの試合は出場せず)も補強した。

 これだけ多くの血が一度に入れ替わると、チームが機能しなくなることもある。しかし、名古屋はシーズン序盤から首位を快走し、6試合を残して早々とプレーオフ進出を決めると、2節を残してレギュラーシーズン1位を確定させた。

 シーズンを戦うなかで、吉川は葛藤があったことを認める。常に生活をかけた選手同士がぶつかり合うリーガ・ナシオナルでは、毎試合がプレーオフ・ファイナルのようにシビれる試合だった。しかし、10チーム以上がセミプロのFリーグでは、緩い試合が存在する。

「やっぱりどうしても、スペインと比べちゃう部分はあります。毎試合100パーセントではやっていましたが、気持ちの面で難しい試合はありました。スペインのときのように120パーセントが引き出されるような試合がほとんどない1年でしたから、そういう意味では非常に苦しかったです」と、本音をこぼす。

 だからこそ、プレーオフ・ファイナルでのプレーは際立って見えた。吉川は「フットサル選手」と言われたときに、パッと想像しがちな派手な足技を連発するドリブラー的なテクニシャンではない。左右両足でボールを扱える高いテクニックを有し、攻守においてチームを円滑に機能させる頭脳・戦術眼も持ち合わせる。それでも最大の持ち味は、一瞬のスキがあればボールを取り切ってしまう前線でのプレッシングの強さだろう。

 プレーオフ・ファイナルの2試合では、ブラジル選手たちを心地よくプレーさせながら、最前線でのプレッシングや最後尾でのカバーリングをこなし、初戦の後半開始直後には同点に追いつく直接フリーキックを決めるなど、大事な場面でゴールという決定的な役割も果たした。

 交代が自由にもかかわらず、プロ選手たちが居並ぶチームで異例なほど長時間、彼はピッチに立ち続けた。

 その采配について、ペドロ・コスタ監督は「彼はハートが強く、こういう試合でこそ彼の色が出るなと感じました。彼が100パーセントのモチベーションを出すことができて、燃えてプレーできるとき、本当の彼の姿が見えます。出場時間が長くても、持久力は別格です。走っても、走っても、疲れない持久力を兼ね備えているので、出場時間を引っ張ってもいいと考えていました」と説明した。

 自身にとって3シーズンぶりとなるFリーグ制覇に安堵する吉川は、「ここで優勝できたことで、全員が自信を持てると思います。1年間、僕は『このチームはそこまで勝負強くない』と言ってきましたが、この2試合でそこはひと皮むけたかなと思います」と成長を実感していた。

 だが、すぐに現状に満足していないことも示す。

「ただ、だからといって、『絶対王者』という立場にいるかというと、まだまだ積み上げないといけないことはたくさんありますし、まだまだ成熟しないといけないチームです」

 スペインから帰還し、名古屋オーシャンズにタイトルをもたらした吉川だが、彼のシーズンはまだ終わらない。プレーオフ・ファイナル終了の笛から数時間後、吉川は日本代表のトレーニングキャンプに合流した。

 2月1日から11日まで開催されるAFCフットサル選手権。日本は2年前にウズベキスタンで行なわれた同大会で初めて準々決勝で敗退し、コロンビアで開催されたワールドカップの出場権を逃した。ブルーノ・ガルシア監督は日本代表の目標に、「本来いるべき場所に立ち返ること」を掲げている。

 ウズベキスタンで大きな屈辱を味わったのち、世界最高峰の舞台で認められた男は、日の丸をつけても、その役割を全うしてくれるはずだ。