写真提供=共同通信  まずは2人の大谷翔平の写真から見てみよう。左は2012年末、北海道日本ハムファイターズへの入団会見時のもの、右は2017年末、ロサンゼルス・エンゼルスへの入団会見時の姿だ。2つの写真の縮尺は完全に一致しているわけではな…

写真提供=共同通信

 

 まずは2人の大谷翔平の写真から見てみよう。左は2012年末、北海道日本ハムファイターズへの入団会見時のもの、右は2017年末、ロサンゼルス・エンゼルスへの入団会見時の姿だ。2つの写真の縮尺は完全に一致しているわけではないが、やはり、現在の方ががっちりとした体格になっているように見える。

 19歳になる高卒1年目時点では、大谷のように、まだ投手としてベストパフォーマンスを発揮できる身体形態ではない場合が多い。では、彼らは20歳、21歳…と、どのように成長していくのだろうか。今回のコラムでは身長、体重、球速のデータから、大谷を含めて高卒でドラフト指名された投手の身体形態の成長、および球速の変化、さらには投手としての将来性について考察した。

今回のコラムは

(1)大谷翔平の身体形態の変化と球速の上昇
(2)高卒時点から身体形態はどのように変化するのか?
(3)どの投手が身体形態の各タイプに当てはまるのか?
(4)身長、体重、球速等のデータを一元管理する意義

と、4つの章で構成している。長文となるので、時間があればお付き合いいただきたい。もし時間がなければ、「(2)高卒時点から身体形態はどのように変化するのか?」の部分に注目していただきたい。

(1) 大谷翔平の身体形態の変化と球速の上昇

■大谷の比体重は5.7、球速は6.3km/h増加した

 上の表は大谷の「身長」「体重」「比体重」「平均球速」の推移を表したものだ。

 MLB公式アナリストのマイク・ペトリエロもMLB.comに寄稿(「2 for the Sho! Analytics: Ohtani arm, bat elite」 ※英文記事)しているように、大谷の投手としての最大の魅力はメジャー先発投手の中でも3本の指に入るといわれる「球速の速さ」である。

 大谷は入団1年目の19歳時点ですでに149.2km/hをマークしていたが、これはダルビッシュ有(ロサンゼルス・ドジャースからFA)の日本最終年(25歳時点)の平均球速149.4km/hとほぼ変わらないという高水準であった。入団時点ですでに日本人トップの球速を誇っていた大谷だが、その後も20、21歳で152.6km/h、22歳で154.7km/h、23歳で155.5km/hと、順調に球速を伸ばした。昨年の数値はパ・リーグMVPにも輝いたソフトバンクのクローザー・サファテを2km/h以上も上回る驚異的な速さである。

 このようなパフォーマンス向上要因のひとつに、身体形態の変化があると思われる。公式の情報を元にした体重の推移を見ると、19歳のシーズンとなる新人時代は86kgだが、2017年の開幕前には97kgとなっていた。この間、身長の変化はないので、体重と身長の比率である「比体重」は44.6から50.3へと上昇している。

■同世代の投手と大谷の比較

 大谷の変化を同世代の他の選手と比べるとどうだろうか。上の表は2013年の高卒新人投手の比体重を2013年、2017年の2時点で比べたものだ。

 大谷の2017年の比体重は50.3だが、これは同期入団の同世代投手の中では最も大きい数値だ。入団時点の比体重44.6も上から3番目であり、他の選手に比べて特に細い体型だった訳ではないが、報道されているような計画的なコンディション管理と筋力トレーニングがあったのだろう。比体重の変化率を見ても、3番目に多い約13%の増加となっていた。

 並外れた肩甲骨の柔らかさなど、元々備えている身体機能を損なわずにパワーアップできたことが大きいとは思われるが、比体重の計画的な増加は大谷の球速向上に影響を与えていたと考えられる。

(2) 高卒時点から身体形態はどのように変化するのか?

■高卒の長身投手は増えていない

 さて、ここからが今回の本題となる。大谷は19歳から23歳にかけて体格を大きくしつつパフォーマンスを高めるということができていたが、他の投手はどうなのだろうか?過去15年のデータを元に検証してみたい。

 まずは高卒でドラフトされた投手の身長、体重の年度別平均値から見てみよう。2012年のドラフトでは大谷、藤浪晋太郎(阪神)という高身長投手が1位指名され、過去15年の中でも平均身長が184.5cmと最も高い年になっている。だが、2013年以降の5年間は181cm前後で推移。この期間にアドゥワ誠(広島)など190cm台の投手も6名指名されているものの、平均身長を見る限りでは、投手の身長は大型化していないことが分かる。

■19歳投手の身体形態を9つに分類

 次に、高卒時までにドラフト指名された投手278名の身体形態を「身長3区分×比体重3区分=9区分」に分類した。

 上の図は19歳時点(以下、年齢は4/2~翌年4/1までを1年間とする学年単位での満年齢で計算している)での投手の比体重がどのように分布しているかを表すヒストグラムだ。今回は比体重(小)(中)(大)の人数が1/3ずつになるように、境界線の値を設定した。また、身長もできる限り1/3ずつになるよう「185cm以上、181~184cm、180cm以下」に分けたが、データが1cm刻みのため、身長の高い群(185cm以上)の人数がやや少なくなっている。

 なお、以前「もしも清宮幸太郎の体格が“規格外”ではなかったら」のコラムでは体格を測る指標としてBMIを使用したが、BMIでは比体重に比べて身長が高いほど値が小さくなり、身長区分ごとの偏りが出てしまう。そのため、今回は比体重を用いている。

■比体重の変化率はタイプごとに異なる

 さて、上の図は19歳時点での身体形態9区分別に、23歳時点での比体重がどのように変化したかを表したものだ。23歳になる前に途中で退団した選手や、まだ23歳になっていない選手も、データがそろう年齢までは含めている。

 例えば「185cm以上、比体重(小)」の投手は23歳で比体重の変化率が1.110、つまり平均的に19歳の時点から比体重が11%大きくなっているということを示している。高卒投手は”将来性に期待する”といわれることが多いが、この群に関しては筋肉量を増やす余白が多く残されており、その意味もうなずける。

 一方「180cm以下、比体重(大)」は23歳時点で1.008と、19歳の時点とほぼ同じ比体重となっている。身長と体重だけでは、脂肪組織の重量を差し引いた除脂肪体重が把握できないため、必ずしも「180cm以下、比体重(大)」の投手の筋肉量が増えていないとは言い切れない。ただ、身長に対してつけられる筋肉はある程度決まってくることを踏まえると、同じ19歳のプロ野球選手だとしても筋力トレーニングの効果が出やすい選手群、出にくい選手群があるのではないかと思われる。

 「180cm以下、比体重(大)」のように身体形態が変わりにくいタイプの場合、たとえ高卒だとしても、将来性に期待するのではなく、即戦力の候補として考える必要があるかもしれない。

■「長身やせ型」は減少、「低身長でがっちり」が増加

 03~07年、08~12年、13~17年と5年単位で高卒ドラフト指名投手の人数割合をまとめたものが上の表となる。矢印と太枠で示している「185cm以上、比体重(小)」と「180cm以下、比体重(大)」の人数の推移に注目すると、前者は減少、後者は増加していることが分かる。

 つまり、高卒でドラフト指名される投手は「長身でやせ型の体型」が減っていて「身長は低いが、がっちりした体型」が増えているということだ。

 ドラフト指名選手の数はそれほど多くはないため、たまたまこのような傾向になっているだけかもしれないが、昨今指摘されている高校球児の重量化、甲子園で勝つための身体をつくる食事の影響が、高校球児の平均的な身体形態を変化させているのかもしれない。

(3)どの投手が身体形態の各タイプに当てはまるのか?

■「低身長でがっちり」の成功例は少ない

 それでは、具体的にどのような投手が当てはまるのか。まずは「180cm以下、比体重(大)」から見てみよう。

 この投手リストを見ると、すでに退団している、もしくはまだ一軍で主力として活躍していない選手が目立つ。この中では小笠原慎之介(中日)が入団から2年で191 1/3イニングを投げており、順調に成績を伸ばしている。ただ、小笠原は唯一のドラフト1位であり、身体形態以外のパフォーマンス能力が評価されていた投手である。将来性を期待されていたその他の投手は、今のところ、思ったような活躍が見られていない。

■「高身長やせ型」はやはり晩成

 次に、「185cm以上、比体重(小)」の一覧を見てみたい。このタイプは比体重の面からも”将来性に期待したい”群だが、岩嵜翔(ソフトバンク)、二木康太(ロッテ)など、下積みを経て昨年キャリアハイの成績を残した投手が見られる。他にも、村中恭兵(ヤクルト)や齊藤悠葵(広島)のように、期待値以上の結果とはいえないまでも、数年かけて一軍に定着し、4年目でキャリアハイの成績を残している投手も見られる。

 現状だと身長、体重の当時のデータが過去15年分しかなく、サンプルが少ないことは否めない。ただ、同じ高卒投手の中でも、身長や比体重の違いによってその後の活躍に差があるのではないかと推測される。

■平良海馬は即戦力タイプ?

 ここで、2017年の高卒ドラフト投手を分類してみよう。比体重区分の区分では(大)が10人、(中)が3人、(小)が10人となった。(小)の中で比較的指名順位が高いのは2位の山口翔(広島)、3位の阪口皓亮(DeNA)、田中瑛斗(日本ハム)。彼らは上位指名ではあるが”将来性に期待”のタイプと考えられる。

 一方で、近年増加傾向にある「180cm以下、比体重(大)」には4選手が入っている。分布図を見ると、この群でも特に比体重が大きいのは173cm84kgの最速152km/h右腕・平良海馬(西武)だ。3年生部員がわずか4名と少人数だった八重山商工からプロの環境へと飛び込む平良は、常識的に考えると即戦力として期待されている訳ではないと思われる。だが、今回の結果から見ると、ぜひ、早い時期からの一軍デビューを目指してほしいタイプに思える。

 また、高卒投手唯一のドラフト1位である吉住晴斗(ソフトバンク)はこの中で唯一「185cm以上、比体重(大)」に分類されており、1位指名もうなずける。

■高卒ドラフト1位投手を9タイプに分けると?

 実際、過去に高卒で1位指名された投手のうち「185cm以上、比体重(大)」の9名は一軍でエース格として活躍する選手も多い。同じタイプの大型新人として、吉住にも大きな期待がかかる。

 ドラフト1位投手のメンバーを見ると、薄黄色で示した「185cm以上、比体重(大)」および「185cm以上、比体重(中)」のかなり期待度の高い領域といえそうだ。

 また、比体重(小)のメンバーには、前述の岩嵜に加えて現在はドジャースで活躍する前田健太や、日本ハム時代、6年目でリーグMVPに輝いた吉川光夫(巨人)、14年目で自身最多登板を果たした内竜也(ロッテ)など、比体重が徐々に増やしてチームの中心選手となった投手が見られる。逆にこのタイプながら岡田俊哉(中日)は比体重が増えていないが、4年目に66試合に登板するなど、リリーフとしての活躍を見せている。

 比体重(大)の中で例外的なのは、8年間で比体重が22%ほど増加した雄星(菊池雄星:西武)だが、彼の比体重はかなり(中)寄りの(大)に位置しており、身体形態がまだ完成していないタイプであったのだろう。

(4)身長、体重、球速等のデータを一元管理する意義

■比体重は上がり続けるが、球速は25歳以降に減速する

 以上、高卒投手の身長、比体重から今後の身体形態の変化やパフォーマンスの変化について推察してきたが、最後に高卒投手以外も含めた年齢別の球速、比体重の平均的な推移のデータを示したい。

 このデータは2004年以降の同一選手の連続した2年間のデータをもとに身長、体重、先発時ストレート平均球速の変化率を計算し、19歳を1としたときに各年齢でどの程度の変化が起こるのかを表したものである。

 ご覧の通り、投手の比体重は19歳から20年間ほぼ全期間で増加し続けている。一方、球速は比体重のように増加し続けるわけではなく、最も速いのは25歳のときである。

 もちろん、球速を向上させるためにはフォームや身体の柔軟性を上げることなどさまざまな要因に影響を受けるが、一般的に考えれば、筋肉量と正の相関があると思われる。球速との推移の違いを見ると、20代では筋肉量の増加が体重増加の主な要因だが、その後は筋肉以外で体重が増えているのではないかとイメージできる。現在23歳の大谷翔平もあと数年は身体そのもののパワーアップが見込まれるが、その後は高パフォーマンスをいかに長い期間維持できるかという段階に移行するのであろう。

■精度の高いデータを野球界全体で収集、管理する取り組みを

 このように、身長、体重という身体形態のデータ、および試合での球速のデータだけでも、高卒投手のタイプや成長の特徴を簡易的に見いだすことができる。

 ただ、身長、体重は本人の申告次第、また球速はどの機器を使うか等によってかなり差の出て来るデータではある点は付記しておきたい。今回は年齢が進むに連れて比体重が増加し続けるという結果となったが、体重が「減った」というデータが申告されにくいというバイアスがかかっている可能性もある。

 野球をいつまでも魅力ある競技とするためには永続的な競技力の向上が必要不可欠であり、選手の適切な育成、選抜は球界全体で考えるべき問題だろう。身長、体重、球速のような基礎的なコンディションデータ、およびパフォーマンスデータを正確に収集し分析する取り組みは、プロ野球界だけでなく高校生、中学生という育成年代も含めて行われる必要がある。

 そのような野球界を横断したデータの収集、分析は競技力の向上だけでなく、ゆくゆくは競技の普及やファンの満足度向上にも役に立つはずだ。大谷翔平はメジャーリーグに活躍の場を移すが、日本球界にも第2、第3の大谷が生まれるように、野球を「支える」側の連携を進めていきたいと思う。

※データは2017年シーズン終了時点

文:データスタジアム株式会社 金沢 慧