「ヤンキースがダルビッシュ有に興味を持っていて、値段次第では獲得を真剣に考えようとしている」 2017年の暮れも押し…
「ヤンキースがダルビッシュ有に興味を持っていて、値段次第では獲得を真剣に考えようとしている」
2017年の暮れも押し迫った12月29日、スクープの多いことで有名な『ファンラグ・スポーツ』のジョン・ヘイマン記者がそうツイートし、大きなニュースになった。

ドジャースからFAとなったダルビッシュ
昨季、ワールドシリーズ進出まであと1勝に迫ったヤンキースは、今オフにマーリンズとの大型トレードで昨季ナ・リーグのホームラン王でMVPに輝いたジャンカルロ・スタントンを獲得。それに加え、「先発投手陣のテコ入れも行なわれるのでは」と伝えられてきた。
田中将大、CC・サバシアの残留が決まったことで、ヤンキースは昨季と同じ先発ローテーションを保持することができる。田中、サバシア、ルイス・セベリーノ、ソニー・グレイ、ジョーダン・モンゴメリーという5人でも十分に及第点だが、頂点を目指すならば層を厚くしておくに越したことはない。
しかしヤンキースには、できればFAの投手に大金をつぎ込みたくない事情がある。今オフの目標は、戦力を充実させるだけでなく、選手の年俸総額を”ぜいたく税”が発生する1億9700万ドル(約222億6000万円)以下に抑えることにあるからだ。
それゆえ、ダルビッシュ、ジェイク・アリエッタといった年俸が高額になりそうなFA選手の獲得に動くのではなく、ギャリット・コール(パイレーツ)、クリス・アーチャー(レイズ)、マイケル・フルマー(タイガース)といった、実績ある投手たちのトレード交渉を進めていると囁かれてきた。ところが――。
ヘイマン記者の言葉を信じるなら、ヤンキースは2000万ドル〜2500万ドル(約22億6000万円~28憶2000万円)の年俸が必要と見られるダルビッシュに注目しはじめているという。ここにきて、”今オフの目玉のひとり”に興味を持った理由はいったいどこにあるのか。
その最大の要因は、端的に言って、今オフのFA 戦線の動きが極めて鈍くなっているために、ダルビッシュの値段も下がる可能性が出てきたことにある。
ポスティング制度で大谷翔平のエンゼルス入りが決まった以外、ここまで驚くほどに”無風”のオフシーズンが続いている。ダルビッシュだけではなく、JD・マルチネス、アリエッタ、エリック・ホズマー、ロレンゾ・ケイン、アレックス・コッブといった、大物FA選手たちの来季の所属チームもまだ決まっていない。
データ分析が得意で慎重なGMや辛抱強いオーナーが増えているうえ、大都市チームが給料総額削減を進めようとしている背景からも、特に高齢選手との複数年契約を敬遠する方向に拍車がかかっていると言われている。
加えて、2018シーズンのオフには多くのスーパースターがFAになる。
ブライス・ハーパー(ナショナルズ)、マニー・マチャド(オリオールズ)、ジョシュ・ドナルドソン(ブルージェイズ)、ダラス・カイケル(アストロズ)、アダム・ジョーンズ、ザック・ブリットン(ともにオリオールズ)、クレイグ・キンブレル(レッドソックス)、AJ・ポラック(ダイアモンドバックス)、クレイトン・カーショウ(ドジャース/契約オプトアウトした場合のみ)……。
それらの選手が揃ってマーケットに出ることで、歴史に残る大規模な争奪戦が繰り広げられるはずだ。
そんな騒がしい季節を前に、「今オフの散財は避けておきたい」という考えが有力チームにあると思われる。それゆえ32歳のダルビッシュ、30歳のマルチネス、31歳のアリエッタといった選手たちの値段が、これから急落しても不思議はない。うまくダルビッシュ側と交渉を進めれば、「あと2000万ドル程度は余裕がある」と目されるヤンキースの予算内に収まるかもしれない。そんな希望的観測のもとに、ヤンキースはダルビッシュの様子を伺っているのではないかと思う。
ただ、それでも結局のところ、ヤンキースがダルビッシュと契約する可能性は低い。
去年のワールドシリーズで痛打されて印象が悪くなったが、昨季も186回3分の2を投げて209奪三振を奪った右腕への評価は依然として高い。近い未来に、再びサイ・ヤング賞争いに絡んでくると見る専門家もおり、そんなピッチャーにはいずれどこかのチームが大枚をはたくはずだ。
ヤンキースの狙いが3年6000万ドル(約67憶8000万円)程度の契約だとしても、ダルビッシュの値段がそこまで下がるとは考え難い。おそらくヤンキースのフロントもそれは承知していて、獲得に興味を持っているといっても、「万が一のために調査はしている」くらいが現実的なところだろう。ただ……。
「ワールドシリーズに出て活躍したいというのが目標になった。そういうチャンスのある球団がベストです」
昨季ワールドシリーズで痛打された直後、ダルビッシュは失意の中でそんなコメントを残した。すでに面談したと言われるカブス、アストロズと同様、ヤンキースには来季もプレーオフ進出のチャンスがある。年俸、契約年数といった条件は他より多少劣っても、ダルビッシュ自身がヤンキースのポテンシャルを好んだ場合は、あっと驚く契約が結ばれるかもしれない。
振り返ってみれば、マーリンズがスタントンの放出を画策した当初も、アーロン・ジャッジがいるヤンキースが獲得に本腰を入れることはないと目されていた。しかし、決め手となったのは、トレード拒否条項を持つスタントン本人が最終的にヤンキースを含む一部のチームへの移籍を望んだこと。結果として、ヤンキースは破格の好条件でこの大砲を手に入れることになり、「スタントンはヤンキースの膝の上に落ちてきた」という形容がなされたのだった。
ダルビッシュ獲得の線はスタントンよりもさらに薄そうだが、毛色の違う魅力を持ったビッグシティの看板チームはやはり簡単には見限れないものがある。ここでダルビッシュまで加えれば、今オフの補強策は名門フランチャイズの歴史に刻まれるほどのものになるだろう。かつて、”悪の帝国”と称されたヤンキースの動きからは、最後まで目を離すべきではない。