名コーチ・伊勢孝夫の「ベンチ越しの野球学」連載●第15回 侍ジャパン・稲葉篤紀監督の初采配となった『アジアプロ野球チ…

名コーチ・伊勢孝夫の「ベンチ越しの野球学」連載●第15回

 侍ジャパン・稲葉篤紀監督の初采配となった『アジアプロ野球チャンピオンシップ』は、日本が3連勝で初代王者となった。24歳以下中心の大会ではあったが、数多くの若手選手を指導・育成し、名コーチとしてならした伊勢孝夫氏の目に若き侍戦士はどのように映ったのだろうか?

(飯田の超絶バックフォームの舞台裏・第14回はこちら)



アジアプロ野球チャンピオンシップでMVPに輝いた外崎修汰

 国際大会は言うまでもなく、普段対戦する相手とは違う。特に打者の場合、初対戦の投手に戸惑うケースが多い。アメリカや中南米の選手のように来た球を叩くことに主眼を置いたスイングならまだ対応できるかもしれないが、ボールを”線”でとらえる日本人のようなタイプはタイミングを合わせるまでに時間を要する。もちろん、慣れてくれば対応できるようになることなのだが、WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)のような球数制限のある大会だと、慣れた頃には別の投手がマウンドに立っているケースも少なくない。

 そのなかで今大会、最も印象に残った選手が外崎修汰(とのさき・しゅうた/西武)だ。彼の存在は知っていたが、正直、どんなバッティングをする選手かまではわからなかった。それが彼の右打ちを見て、こんなレベルの高いバッティングをする選手がいたのかと驚かされた。

 初戦の韓国戦、7番という打順からもわかるように、稲葉監督としても”それなり”の期待だったのではないだろうか。事実、最初の打席でセンター前にヒットを打ったあとは、3打席凡退(うち三振が2つ)といいところなし。

 ところが、次の台湾戦、決勝の韓国戦では別人のようなバッティングを披露した。なかでも印象に残っているのが、台湾戦の2回に左投手(林政賢)からライトスタンドに放ったホームランと、決勝の韓国戦で2番手投手(沈載敏)から放ったライトへのヒットだ。

 相手投手の真っすぐの球速は140キロ中盤から後半。打者として最も「打ち気にはやる球速」だ。並みの打者なら引っ張りたくなるものだが、外崎はそんな誘惑に負けず、しっかりライト方面に弾き返していた。

 外崎の技術の高さは「アウトサイドの球を引っ張り込んで叩き、打球はレフトではなくライト方向に弾く」という言葉に集約されている。コースに逆らわず、しかもしっかり振り切れているため、強い打球がいくのだ。

 外崎にとっては、こうした打撃を国際大会でできたことが大きい。なじみのない相手投手の球種や特徴がわかりづらく、芯でボールをとらえることは難しい。また、国際大会では相手バッテリーも打者から遠いボール、つまりアウトコース中心の配球になることが多い。そのような条件のなかで、無理なく逆方向に打てる打者はベンチとしても使い勝手がよく、心強い。彼を見たとき、「こんなええ打者がおったんか」というのが、率直な印象だ。西武はもちろん、侍ジャパンにとっても頼もしい選手であることは間違いない。

 打者には性格、技術も含めて、いろいろなタイプがいるが、国際大会ではあまり考えすぎず「真っすぐ待ちの変化球対応」という打者の方が結果を出しているような気がしている。言い換えれば、ヤマを張らなければ変化球は打てないという打者は、はっきり言って国際大会に向かない。これまでそういう打者はほとんど日本代表に選ばれなかったし、これからもそうだろう。

 そしてこの大会で、もうひとり高い技術を見せたのが近藤健介(日本ハム)だ。インコースにきた球をギリギリまで引きつけて逆方向(レフト方向)に打って、二塁打にしたシーンがあったが、あの打ち方は簡単にできるものではない。さすがはシーズン途中まで4割を打っていた打者だ。日本ハムではもちろん、今後侍ジャパンでもクリーンアップを打てるだけの逸材だろう。

 今回、侍ジャパンの4番を任された山川穂高(西武)については、調子のいいときはいいが、悪くなると徹底的に封じ込まれてしまう。ただ彼のよさは、あれだけ上体が前(投手寄り)に動いても、しっかりバットが出てくることだ。しかも遠回りせず、コンパクトに出てくるから速い球にも対応できる。とはいえ、まだ山川は今年ブレイクしたばかり。来年は厳しくマークされるだろうから、かなり苦労するだろう。そこをどう乗り越えていくのか。これからの山川には注目したい。

 初戦の韓国戦で延長10回に起死回生の同点ホームランを放った上林誠知(ソフトバンク)は、その一打よりも前の打席でのファウルが印象に残っている。それまでの上林は、初戦という緊張感からか、それとも疲れなのかわからないが、速い球にまったくタイミングが合っていなかった。第1打席から凡打を繰り返し、8回の打席でも空振り三振。

 ただ、この打席で上林はライトにホームラン性のファウルを打った。私にはこのファウルで上林の感覚が蘇ったのではないかと思えた。それまで不調でも、たった1球のファウルで感覚が戻るというのはよくあることだ。上林にとっては、こういうことが起きるということを知っただけでも十分に収穫となったはずだ。

 最後に、選手ではないが、非常に目を引いたのが志田宗大スコアラーだ。彼のことは昔からよく知っているが、着眼点がよく、分析能力も高い。おそらく12球団ナンバーワンだろう。今回はわずか3試合だけだったので、どこまで彼の力が発揮できたかわからないが、優秀なスコアラーがベンチにいるのは選手にとっても心強い。巨人がヘッドハンティングに動いたみたいだが、今後も稲葉ジャパンの一員としてチームを支えてほしいものだ。

 いずれにしても、稲葉監督が幸先のいいスタートを切ったことは間違いない。東京五輪に向け、どんなチームをつくっていくのか。じっくり見守っていきたい。

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