“日本のベーブ・ルース”がメジャーに挑戦する──。 ポスティングシステムを通じてMLBに挑戦…

“日本のベーブ・ルース”がメジャーに挑戦する──。

 ポスティングシステムを通じてMLBに挑戦することが決まった大谷翔平の動向は、今オフのメジャー全体でも最大の注目ポイントであり、かなり早い段階から「ヤンキースこそが最有力候補」と言われ続けていた。



11月11日に米大リーグへ挑戦する意向を表明した大谷

「大谷のヤンキース行きは不可避の結論に思える」

 11月21日には、ニューヨーク・デイリーニューズ紙がそんなタイトルのコラムを発信した。このような論調の記事は他にも多く、筆者の周囲の記者たちも9割以上が「結局はヤンキースだよ」と、したり顔。まだシーズン中だった9月には、オリオールズのダン・デュケットGMさえも、冗談めかした口調で同じようなことを述べていた。そんな空気を感じ取り、少なくともニューヨークの人々は、大谷のヤンキース入りを信じて疑わなかっただろう。

 ヤンキースには、松井秀喜、黒田博樹、イチロー、田中将大といった多くの日本人スター選手が所属してきた歴史があり、DH制度のあるア・リーグのチームであることも、”二刀流”の継続に有利なのは確かだ。さらに、本拠地のヤンキー・スタジアムはライトスタンド側が狭く、左打者のホームランが出やすいことも交渉の好材料になると見られていた。

 もともと、日本でも人気のあるMLBチームであり、今季は多くの若手タレントが芽を出したことで、これから先は優勝を争うシーズンが続くことも予想される。そういった状況だけ見れば、大谷がヤンキースを選ぶことは「理にかなう」と考えた人が多かったのも無理はない。

 しかし現地時間の12月3日、交渉が解禁されてからわずか2日後に、「ヤンキースは(移籍先の)候補に含まれていない」という衝撃的なニュースが飛び込んできた。ヤンキース以外にも、レッドソックス、メッツ、ナショナルズといった東海岸の大都市チームは対象外。さらに、ダイヤモンドバックス、アスレチックスといった有力チームも”落選”を知らされたという。最終的に競り負ける可能性はあったとしても、大谷側との最終ミーティングにすら残れなかったことは、ヤンキースの首脳陣を驚かせたに違いない。

 ただ、振り返ってみれば、アメリカで出回っていた”ヤンキースが本命”という趣旨の記事に目を通しても、説得力のある理由づけはほとんど出てきていなかったのが事実である。いわく、「ヤンキースのブランドは日本では大きいから」「大抵の日本人選手はヤンキースかドジャースを望むから」「ヤンキースはベーブ・ルースがスターになったチームであり、スタジアムは”ルースの建てた家”と称されているから」など、曖昧なものばかりだった。

 そもそも大谷本人が「ヤンキースが好きだ」と公言したことは一度もない。東海岸の”金満チーム”は、おそらく大谷の視界に入ってすらいなかったのだろう。メジャー屈指の名門に魅力的な要素が多いとしても、本命という評価は単なる推測であり、周囲がそのブランドを過信したにすぎなかったのだ。

 ここに至るまで、大谷が何を優先してチーム選びをするのかはなかなか見えてこなかった。もう何年か待てば総額1億ドル(約112億円)以上の契約が望めるにも関わらず、現時点で渡米してくることからわかっていたのは、優先事項が”お金”ではないことくらいだ。

「大事なのは、即座に優勝を狙えることなのか、すぐに主役を担えることなのか」

「アメリカ西海岸、東海岸のどちらを好むのか」

「登板時に打席に立てるナ・リーグ、DHのあるア・リーグのどちらが希望なのか」

「日本人選手がいるチーム、いないチームのどちらが居心地がいいのか」

 これらの問いへの答えがまったくなかったがゆえに、大谷の行き先は今オフ最大のミステリーになったのだった。しかし、ヤンキースをはじめとする複数のチームが弾き出されたことで、ようやく大谷の望むものが見えてきたように思える。

 大谷側は、早ければ日本時間12月5日から、滞在中のロサンゼルスで”最終候補”のチームとの面談を開始するという。米国内の報道によると、残ったのはマリナーズ、エンゼルス、ドジャース、ジャイアンツ、パドレス、レンジャーズ、カブス。大半がアメリカ西海岸の球団であり、必ずしも来季に優勝が狙えそうな強豪ばかりではない。ヤンキースのブライアン・キャッシュマンGMは「”西海岸”と”小規模チーム”が今回の争奪戦のキーワードだった」と話しており、ここに大谷のプライオリティが見えてくる。

 その2つに見事に合致する球団は、マリナーズとパドレスだ。過去にイチロー、佐々木主浩、城島健司、岩隈久志らが活躍したマリナーズは、もともと日本人選手と関係が深く、受け入れ態勢は整っている。一方、パドレスが本拠地を置くサンディエゴは、西海岸の中でも環境がいいことに定評があり、野茂英雄氏や斎藤隆氏、日本ハム時代のトレーナーなどがスタッフにいるのも売りになるに違いない。

 この両チームでなら、ヤンキースやレッドソックスのように1年目からの成功を求められるプレッシャーに晒されることはないだろう。ニューヨーク・デイリーニューズ紙は、大谷獲得レースからヤンキースが脱落した直後に、「大谷は大都市を恐れている」といった極端な見出しを掲げた。こういった厄介な報道の雑音が少ないこともシアトル、サンディエゴの利点である。

 根拠が薄いまま本命に祭り上げられたヤンキースが、早々と脱落という波乱の展開になった大谷争奪戦。アメリカ国内で抜群の存在感があるとは言えない、小規模マーケットチームが勝者となるのか。それとも、ドジャースやカブスといった名門球団にも、まだチャンスは残されているのか。ここにきて急展開を見せるレースには、近いうちに結末を迎えそうな空気が漂ってきている。