ヤクルト怒涛の松山キャンプ(後編)前編「鉛のベストを着て特訓中」はこちら ヤクルトは来季のスローガンを「SWALLO…

ヤクルト怒涛の松山キャンプ(後編)

前編「鉛のベストを着て特訓中」はこちら

 ヤクルトは来季のスローガンを「SWALLOWS RISING 再起」と発表した。11月の秋季キャンプでは、山田哲人が「今までで一番」と言うほど激しい練習が組まれ、黙々とメニューをこなしていく選手たちの姿を見れば、絶対に”再起”を果たせると思えるのだった。

 8人の選手がロングティーをしている間、別の8人は三塁側のファウルグラウンドでフィジカルトレーニングに励んでいた。腰にゴムバンドを巻き、地面を這うようにして前進していくのだが、そのゴムを手綱にしたパートナーが前へ進ませまいと引っ張る。その様子は、まるで”トカゲの散歩”のようにも見えるのだが、選手にとってはどこまでもつらいトレーニングなのである。



選手たちは1秒たりとも休むことなく、トレーニングに明け暮れていた

 今シーズン、数多くのケガ人に泣かされたチームにとって、強い肉体をつくり上げることは重要課題である。橘内基純(きつない・もとずみ)トレーナーは、全体練習の1時間以上前から準備に余念がなかった。

「これまでは選手個々の課題に応じたメニューを組んでいましたが、このキャンプではチーム全体のメニューをつくり、取り組んでいます。求めるベースを能力の高い選手のレベルに設定しているので、全体的に運動量が増え、強度は高くなっています。フィジカルの劣っている選手は『きつい』と悲鳴を上げていますが、成長の度合いが数値に表れていることもあり、それがモチベーションになっていると思います」

 橘内トレーナーは「もちろん、すぐに結果は出ません」と言い、こう続けた。

「自分で自分の限界値を設定して、それを壊さないように練習する選手もいますが、フィジカルトレーニングは”破壊と創造”です。今の筋肉に刺激と痛みを与え、それを回復させ、限界値を突破したところで能力が高くなります。今回の試みがうまくいけば、チーム全体の能力が引き上げられるはずです」

 石井琢朗打撃コーチも、”破壊と創造”に似た考えを持っているようだ。たとえば、”マタワリ”と呼ばれ、両足を大きく広げて左右に体重移動しながらボールを打つティーバッティングのときである。設定された数字は160スイング。これを選手たちは20×8や30×5+10というようにそれぞれ消化していくのだが、廣岡大志があと20スイングで終了というときに石井コーチがやってきた。

「おっ、カニ(廣岡)はあと20球か。残りはオレと一緒にやろう(笑)」

 石井コーチが悪魔のように囁き、最後の20球が始まった。

「1、2、3……13、13、13、13、13、頑張れ、カニ! 13、13……」

 このように途中から同じ数字を何度も繰り返し、予定の20球が終わっても終わる気配がない。このキャンプで多くの選手が「刺激ほしくない?」と石井コーチに囁かれ、予定の数を超える回数のバットを振った。それでも選手たちは、限界に見えながらも歯を食いしばり、最後のひと振りを終えると笑顔を見せていた。石井コーチは言う。

「特に強化が必要な選手もいますし、気持ちの面でもう少し強くならないといけない選手もいます。結局、最後は気持ちなんですよ。だからこそ選手たちには『意識を高く、そして強く』なってほしいんです」

 股関節の硬い廣岡にとって”マタワリ”は苦行以外の何ものでもない。激痛に耐え切れず「もうアカン」と悲鳴を上げるも、フラフラになりながらバットを振り続ける。

「よし、これで20球」(実際は80球)と石井コーチの声でようやく終了となった。石井コーチは股を大きく広げて立ち尽くす廣岡を見て、「カニみたいな格好でしょ。だから”カニ”って呼んでいるんです」と笑うのだった。

 ヤクルト秋季キャンプのハイライトとなっていたのが、午後に行なわれる約260球のロングティーだ。それが終わると、100×2セットの連続ティーが待っていた。ロングティーを終え、体力の回復を待っていた古賀雄大(捕手/1年目)の”連ティー”がスタート。

「古賀、頑張れ! 声を出せ、しっかりしろ! バットを振るんだ、古賀!」

 奥村展征が中心となり、ほかの選手やコーチたちも古賀に声援を送り続ける。

「古賀、声を出せ! いや、もう声は出さなくていいぞ! もう少しだぞ、古賀!」

 最後の1球が外野に弾き返されると、練習を見学していたファンからも拍手が起きた。

「今日1日、応援ありがとうございました!」

 奥村は直立したまま観客席に向かって声を張り上げ、古賀は深々と頭を下げた。その後、チーム全員で外野を埋め尽くしたボールを片付け、ようやく長い1日が終わった。このキャンプで先頭に立ってチームを引っ張っていた中村悠平に声をかけた。

―― 厳しい練習が終わりました。今はどんな気持ちですか?

「今日も1日、悔いなくしっかりやれたかなという充実感に満ち溢れています。全体練習ではみんなが同じ意識を持って、個人練習では自分の課題にしっかり向き合い、今日もひとつひとつ積み重ねることができました」

―― 練習を見ていて印象に残ったのは、選手たちが励まし合っている光景でした。

「練習は本当に厳しいですが、そこで『きついな、つらいな』と思ってしまうと成長はありませんし、モチベーションも保ちづらくなる。厳しい練習をみんなで乗り越えて、おふざけじゃない楽しさで練習するというのは、すごく大切なことだと思います。このキャンプは『みんなで切磋琢磨してやっていこう』という目的がありました。キャンプが始まった頃は、どんな雰囲気で、どんな感じになるのか……と探りながらの部分もありましたが、みんな体力的にも精神的にもフラフラのなかで、しっかりやれていると感じています」

 野口寿浩バッテリーコーチにも、このキャンプを振り返ってもらった。

「練習量が増えても、みんなよく走っていますし、しっかりバットを振り続けましたよね。確実に強い打球が増えました。心の部分もそうですし、体力の面でも底上げのきっかけになったと思います。この秋に蓄えた体力を、来年2月のキャンプまでにゼロにしてしまうのか、それとも維持しているのか。オフの2カ月がすごく大事ですよね」

 石井コーチも同じことを話していた。

「この最終クールで、選手たちには(オフになる)12月1日に向けて、自分の課題を見つけることをしつこく話しました。今回のキャンプは与えられた練習をただやるのではなく、”考え、感じ、覚えていった”と思っています。個人練習となるこれからの2カ月で、どうチョイスしてアレンジできるのか。そのための引き出しは与えたと思っています。このキャンプで『やりきった』と “自己満足”してほしくないですね。ここでやったことを試合でどう生かすのか。やっぱり、この世界は結果がすべてですから」

 もちろん、選手たちにもその考えは浸透している。

「今までもオフにはウエイトをやってきましたけど、さらに力を入れて、よりパワーアップして2月のキャンプを迎えたいと思っています」(山田哲人)

「松山でキャンプをしたメンバー、戸田で練習していたメンバー、リハビリから戻ってくるメンバー……みんなひとつになってやりたい。シーズン96敗の悔しさを忘れずに、新しいシーズンに挑みたいですね」(中村悠平)

 新たなコーチ陣たちとともに”再起”をかけてスタートした新生ヤクルト。はたして、96敗の屈辱を晴らすことはできるのか。来年2月のキャンプが待ち遠しくて仕方ない。