【リビーニョ(イタリア)=木下淳】前回22年の北京五輪王者で、連覇が懸かる舞台に骨折したまま帰ってきた平野歩夢(27=T…

【リビーニョ(イタリア)=木下淳】前回22年の北京五輪王者で、連覇が懸かる舞台に骨折したまま帰ってきた平野歩夢(27=TOKIOインカラミ)が、異次元の予選通過を遂げた。1月17日に骨盤が折れるなど、出場だけで「奇跡的」と自身でも驚く逆境下、試技2本を完走。83・00点から2本目は85・50点まで伸ばし、全体7位で13日(日本時間14日)の決勝に進出した。冬季大会では日本勢初となる4大会連続メダルにも、不屈の心身で挑む。

漫画でも無理がある。骨折している男が、縦に2回転、横に3回転半して着地した。平野歩が、今季習得した斜め軸の新技「スイッチバックサイドダブルコーク1260」や横4回転技をフルメーク。ライバルも高難度で対抗し80点台の後半以上が7人も出た、五輪史に残る予選を突破した。

「けが明け、いきなり五輪みたいな状況。何とか痛みありきで滑れている状態だけど、痛みが出たとしても通過しないと、覚悟しないと、というハイレベルな予選だった。この場に立てたことはすごく奇跡的。自分でもビックリしている」

雪上にいるだけで超人だった。1月17日のW杯ラークス大会(スイス)。ボードが折れるほど激しく転倒し、顔面や下半身を強く打ちつけた。帰国後、車いすや松葉づえが欠かせなかった。重度の打撲だった膝は普段の2倍ほどに腫れ、骨盤の右腸骨と尾骨が折れていた。以来25日、まだ1カ月に満たない。驚異の回復も完治はしていない。痛みが残る中、直前練習で2度も転倒。再び凍りつかせたが、いまだ感覚の戻らぬ膝で2本とも完走し、強烈な忍耐力と精神力を示した。

この種目で金3個の米レジェンド、ショーン・ホワイト氏(39)も当地で首を振った。「インクレディブル(信じられない)。けがを抱えながら…本当に感動的で勇気づけられた」。一方で本人は、トリックの難度を下げざるを得ず「やりたいこととは違う形で終わったけど、痛みありきだったので仕方ない。けがも、五輪(の特別感)も、お客さんの歓声も、全てかき消す集中をした」と無の境地で克服した。2回目に85・50点まで伸ばし、上位12人の決勝進出を安全にした。

「もうここまで来た以上は、自分が積み上げてきた4年間を信じて、やるべきことをやるだけなのかな」

15歳で初出場した14年ソチ大会で、冬季史上最年少メダルの銀。18年平昌でも銀。4年前の北京で金に塗り替えた。冬では日本人初4大会連続メダル、さらには同2人目でフィギュアスケート男子の羽生結弦以来となる個人2連覇なるか。「どこまで痛みが出るか分からないけど、悔いなく最後まで滑り切れれば」。夢へ歩み続ける限り、新たな伝説の予感も漂い続ける。

◆木下淳(きのした・じゅん)1980年(昭55)9月7日、長野県飯田市生まれ。飯田高-早大。4年時にアメフトの甲子園ボウル出場。04年入社。文化社会部時代の08年ベネチア映画祭でイタリア初出張。ミラノは2度目。東北総局、整理部、スポーツ部。23年からデスク。25年からDCI推進室と兼務。高校野球の甲子園取材は春2回夏3回。サッカーW杯は1回。五輪は夏3回冬2回。五輪パスはE、Es、ET、Ecの4種を保有している。