<寺尾で候>日刊スポーツの名物編集委員、寺尾博和が幅広く語るコラム「寺尾で候」を随時お届けします。 ◇ ◇ …
<寺尾で候>
日刊スポーツの名物編集委員、寺尾博和が幅広く語るコラム「寺尾で候」を随時お届けします。
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日本を代表する絵本作家・五味太郎が、東京・代官山の「LURF GALLERY(ルーフギャラリー)」で「絵本出版年代記展 ON THE TABLE」を開催している。
1973年の「みち」(福音館書店)でデビューして以来、描いた絵本は約400冊を超え、世界30カ国以上で翻訳出版されている。それが机の上に一堂に会したイベントで、まさに絵本の展覧会の様相だ。
約半世紀を経た今も人気なのは、イベントが会期延長になったことからも伝わってくる。子供たちが心を揺さぶられ、大人も気づかされる。大勢の来場者に交じって独創的な世界に引き込まれていた。
突然、背後から声をかけられる。「電話してきなよ…」。とっさに後ろを振り向いたら、五味が腕を組んで笑っていた。「すみません。ごぶさたで」とあいさつをすると、「“たまに”がいいんだよ」と返された。
五味と清宮克幸と一緒にエスコンフィールドで日本ハム戦を観戦したとき以来の再会になった。かつて五味は『ボクはタイガースだ』という絵本エッセー集を出版したほどで、昔からの阪神ファンだ。
「去年はね、おれの中では、阪神と日本ハムが日本シリーズを戦って、(清宮)幸太郎がホームラン打って、最後は阪神が勝つというシナリオだったんだけどね。ただそろそろ1リーグにすべきかもな。だってセ・リーグが弱すぎるもん」
前々から「教育論は不必要」という独特な視点の持ち主。「会社の研修みたいなのはダメだろうね」といった五味イズムを代弁するなら“大人の問題”ということになる。
「砂場で子供が一人で遊んでる。それを見ていた親は、自分の子供の手を引いて『○○ちゃん、みんなと遊びましょうね』と仲間のところに連れていく。でも、考えてみなよ。その子供はなにも仲間と一緒に遊べないから悩んでいないんだよ。今は1人で遊んでるのが楽しいから1人でいるだけなんだ。大人は“人”を見ないで、ただ“形”を見ている。それってどうなのさ」
絵本を展示した空間にいると、ずっと飽きないで時間が過ぎる。子供と一緒に親たちも楽しんでいる。会場のカベに掲げられた18枚のパネルには、作者の気持ちがつづられている。例えばその中の一枚には次のような文章もあった。
「つくづく『3割』だなあと野球中継を見ながら考える。3割はすごいんだ。3割で十分なのだ。10冊で3冊、100冊で30冊、なにしろヒットを打つのさ。すごいよ。でも、どれがクリーン・ヒットで、どれが二塁打三塁打で、どれがホームランで、どれがボテボテ安打なのか、なんてことは本の場合わかりっこないが、とにかくヒットを狙ってはいるのだ。で、3割はすごいのだ。(でも、やや価値のある凡打、三振というのもあるんだぞ、という言い訳もある…)」
監督、コーチらの指導者、あるいは親にも「やる子はやる。疎外しないことだよ。変な形で迷わせない。そこを守ってやれるかどうか。阪神は藤川監督が指導しないからいいんじゃないの。今はインストラクターみたいなのがしっかりした球団が勝つのかもね」と持論を展開した。
「スポーツ新聞? 自然解体かな。産業資本主義に入りすぎてる。もうかるか、もうからないか、って。1点差の世界って浮世にはないんだ。アスリートはその1点で天と地がひっくり返るきついことをやってるわけさ。普段の生活にないから楽しさがある。見ている側がなぜ興奮するか? そこがあいまいになっている。スポーツって、もっとシビアなんだよ。そこを洗い直したら?」
多岐にわたった“五味ワールド”は新鮮で、そして気付きが秘められる。「ことばは、人と人をつなぐもの。人と人がわかりあうもの」。そんな絵本も手にして考えた。「もっと突き詰めたらどうなの…」。最後はそう諭されて別れた。(敬称略)