2020年東京オリンピックの実施種目になっているスポーツクライミングは、リード、ボルダリング、スピードの3種目の複合成績で争われるが、先月末に日本山岳・スポーツクライミング協会から、第1期オリンピック強化選手が発表された。 男子は楢﨑…

 2020年東京オリンピックの実施種目になっているスポーツクライミングは、リード、ボルダリング、スピードの3種目の複合成績で争われるが、先月末に日本山岳・スポーツクライミング協会から、第1期オリンピック強化選手が発表された。

 男子は楢﨑明智(めいち/18歳)、緒方良行(19歳)、是永敬一郎(21歳)、楢﨑智亜(ともあ/21歳)、藤井快(こころ/24歳)、渡部桂太(24歳)

 女子は谷井菜月(14歳)、森秋彩(もり あい/14歳)、伊藤ふたば(15歳)、野中生萌(みほう/20歳)、尾上彩(おのえ あや/22歳)、野口啓代(あきよ/28歳)。
※男女とも半年ごとに追加・入れ替えがある

 3年後に向けて本格的な強化プログラムが始動するが、ボルダリングとリードの2種目で世界五指に入る実力を持つ野口啓代は、今年9月に東京五輪に向けた第一歩をすでに踏み出している。



ボルダリング、リード種目を得意とする野口啓代 (c)IFSC/Eddie Fowke

 イランで開催されたアジア選手権で、2連覇したボルダリングと2位になったリードの結果に隠れて報じられなかったが、野口はスピードにも出場していたのだ。クライミング界初のオリンピアンを目指す野口に、本格的に取り組み始めるスピード種目について訊いた−−−。

「アジア選手権で久しぶりにスピードの公式戦を経験し、大会ならではの緊張感や、速い選手の登りを間近で見ることの大切さを実感しました。

 8月に東京・昭島市であったスピードの合宿に参加した時は、13秒くらいで登れたのですが、公式戦はスタートでのフライングへのプレッシャーなどがあって難しかったですね」

 キャリア2度目となったアジア選手権スピードで、野口は15秒32をマーク。2015年の同大会で記録した20秒22から大幅にタイムを短縮したものの、25選手中22位で予選敗退となった。それでも野口は、「収穫があった」と振り返る。

「アジア選手権のスピード用の壁が、昭島のものとは違ってフリクション(※1)のない材質で、私はスメアリング(※2)が効かずに足が滑ってしまった。だけど、スピードの練習が豊富な選手たちは、そういう環境でもちゃんとタイムを残したので、とても刺激になりました。
※1 フリクション=摩擦。人工壁の材質によって摩擦が効くものと効かないものがある。
※2 スメアリング=クライミングシューズのソールを壁に押し付けること。

 それにスピードをメインにするトップレベルの選手たちに、週に登る頻度やフィジカル・トレーニングについてなど、いろいろな話を聞けたのも大きかったですね。

 練習方法にしても、ひたすら登り込むという選手もいれば、上部と下部のパートに分けて練習する選手、3手ずつ練習するという選手もいました。すべての国に15mのスピード用人工壁があるわけではないので、スピード課題を3分割してボルダー壁に作って練習していると話す選手もいて、とても興味深かったです。

 この冬から本格的にスピードの練習に取り組み始めますが、そうした情報を参考にしながら、自分に合う練習方法を見つけたいと思っています」


今後の抱負、スケジュールを話してくれた野口

 photo by Sano Miki

 スピードは専用の人工壁に国際規格で決められたホールドでつくられた高度15mの統一課題をどれだけ速く登れたかで競う。予選は左右横並びの2レーンを、それぞれ1回ずつ登り、持ちタイム上位16名が決勝トーナメントに進む。決勝トーナメントは予選1位と16位、2位と15位という順で対戦し、速くゴールにタッチした選手が次のラウンドに進出する。

 日本は昔から盛んなリードと、ジムの普及で競技力が格段に向上したボルダリングで世界トップクラスにあるが、スピードはこれまで国内に国際規格を満たすスピード専用人工壁がなかったこともあって、世界から大きく後れをとってきた。

 しかし、昨年11月に初めてIFSC(国際スポーツクライミング連盟)規格のスピード専用人工壁が岐阜につくられた。首都圏でも今年3月に東京・昭島に専用人工壁が誕生するなど、練習環境は整いつつあることで、今後は競技力の向上が期待されている。

「まずは、ホールドの位置を体に染み込ませるところからですね。アジア選手権で競ったスピードの選手たちは、これまで何百、何千回とスピードの課題を登り込んでいるので、ホールドが体に染み込んでいましたが、私はまだ手順が自動化していないし、足元のホールドを確認しながら登っていくレベルなので。

 スピードは体の動きを自動化させて、高い集中力でミスなく登ることが求められるので、ホールドを見ないでも登れるようになった時に、初めてタイムを意識すればいいと思っています」

 スピードの世界記録は男女とも今シーズン新たに塗り替えられ、女子がロシアのユリア・カプリナの7秒32、男子がイランのレザ・アリポワの5秒48と、目覚ましい進化を遂げている。

 もちろん、3種目の複合成績で争う東京五輪で、スピードの世界記録を狙う必要はないものの、スピードで速いタイムを出せた方がメダルに近づくことになる。

「私はリードでもボルダリングでも素早く登っていくのが得意ではない。なので、スピードで速いタイムが出せるようになれば、きっとリードやボルダリングにも好影響をもたらすと思っています。この冬から本格的にスピードの練習が始まるのを楽しみにしています」

 日本山岳・スポーツクライミング協会は、スピード種目の強化プロジェクトとして各選手のベストタイムを基にした「スピード日本ランキング制度」の導入を決めている。これは来年に開催される複合種目に派遣する日本代表の選考材料になる。記録会の第1回は11月18日に行なわれ、年内は12月16日までの毎週土曜日と、12月25日(月)に昭島にて開催。タイム測定の記録会と併せて練習会も実施され、見学は自由にできる。

「スピードのトレーニングをすることで、いまよりもっとクライミングが強くなれる可能性を感じている」と語る野口をはじめ、日本全国のスポーツクライマーがスピード種目でどう成長を遂げていくのか注目してもらいたい。