<大相撲初場所>◇初日◇11日◇東京・両国国技館大関経験者で東前頭16枚目の朝乃山(31=高砂)が、543日ぶりに幕内力…
<大相撲初場所>◇初日◇11日◇東京・両国国技館
大関経験者で東前頭16枚目の朝乃山(31=高砂)が、543日ぶりに幕内力士として本土俵に立った。初顔合わせの欧勝海に敗れ、2場所ぶりの白星発進を飾ることはできなかったが、場内は大きな拍手と歓声に包まれた。左膝前十字靱帯(じんたい)断裂などの大けがを負って敗れた、24年7月17日の名古屋場所4日目、一山本戦以来、約1年半、9場所ぶりに幕内土俵に戻っても、存在感は別格だった。
立ち合いで右を差せず、相手に左前まわしを引かれた。だが、すぐに右で払って切り、左でおっつけながら得意の右を差し。そこから土俵際まで寄り立てたものの、上手を引けず、左に回り込みながら動かれた。構わず前に出て圧力をかけたが上手投げで転がされた。「(倒れた際に)手はとっさに引っ込めたけど、相手を見たら足が残っていたので『負けたな』と思った」。同体ではないかと物言いがついたが、行司軍配通りで覆らなかった。「負けはしたけど前に出られた。あと1歩、出られていたら。内容は悪くない」と、敗れたものの前向きにとらえた。
左膝の大けがの前には、右膝を痛めて小結だった24年夏場所を全休していた。合わせて5場所連続休場。長期離脱により、昨年3月の春場所で再起した時には、三段目まで番付を落としていた。さかのぼれば21年には、新型コロナウイルスのガイドライン違反で6場所の出場停止。大関から三段目まで転落していたが、幕内から2度も三段目に転落しながら、いずれも返り入幕を果たしたのは史上初。過ちや苦境にも屈することなく、何度もはい上がる姿は多くの人の胸を打った。
「場所入りの時から、お客さんに『おかえり』と言ってもらえてうれしかった。十両土俵入りは、まだ満員ではないけど、幕内土俵入りはほぼ満員。一段と歓声が大きく感じたし、それもうれしかった」。朝乃山自身も、1度目、2度目の幕内の時以上に、応援が力になっている様子だ。
25歳で幕内初優勝、26歳で大関に昇進した当時と比較し「馬力は落ちている」と、自己評価している。だからこそ、そのころよりも入念に時間をかけて、四股やすり足などの基礎運動で汗をかくように心掛けてきた。本場所中の朝稽古は、軽めの調整に終始する関取が多い中、この日の朝も弟弟子で新入幕を果たした朝白龍を相手に連続9番の三番稽古。左上手を引けば負けず、7勝2敗と圧倒し、体と、何よりも心を臨戦態勢に整え、午後1時47分、満を持して両国国技館の東の支度部屋に乗り込んだ。
左膝は「もう痛みはないです」と、再起から6場所目で、これまでになく状態は良い。半年に1度の検査を通じて「12月から稽古をやってきて、筋力の数値も、右とほぼ同じぐらいまで戻りました」と、ようやく本来の力強い踏み込みからの攻め、土俵際で踏ん張る守り、どちらも幕内仕様に1段階レベルアップした。
黒星発進となったが、今年の目標を「三役に戻ること」と掲げる。番付は周囲との兼ね合いという要素もあれば、今場所すぐに結論が出るわけでもない。幕内に戻った今場所から狙える、こみ上げる強い思いを場所前に口にしていた。「優勝したい。あの光景は忘れられない」。今場所、目指しているのは19年夏場所以来、2度目の賜杯。十両の先場所は連敗発進から12勝3敗と盛り返した。
「勝ちたい気持ちは強いけど、それよりも自分の相撲を取り切りたい」。連敗スタートの先場所も「勝っておごらず、負けて腐らず」と繰り返し、連敗発進しても、自分の相撲を取ることだけに徹して好成績を残した。2日目から巻き返して優勝争いに加わり、挫折、苦境などの岐路に立たされた人々の、希望の星となるつもりだ。【高田文太】