史上最速リーグ優勝を決めた阪神の今季の戦いで、伝えきれなかった投手陣の舞台裏を「猛虎リポート」で随時掲載します。第4回は…
史上最速リーグ優勝を決めた阪神の今季の戦いで、伝えきれなかった投手陣の舞台裏を「猛虎リポート」で随時掲載します。第4回は大竹耕太郎投手(30)です。9勝を挙げ、先発ローテを守った今季。ホームゲームでは一足早く投球練習を終わらせ、ベンチ内であるルーティンを続けてきました。体はもちろん、メンタル面も大切になるプロ野球選手。あらゆる「バランス」に重きを置く左腕には、大切にする言葉がありました。【波部俊之介】
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今季、大竹は意識的に取り入れてきた慣習がある。試合開始直前、ナイン同士でのハイタッチがホームゲームの恒例だった25年。先発投手はブルペンでの投球練習などを行う時間帯となる中、そこには大竹の姿もあった。
「『みんなで頑張っていこう』という意識を自分に。無意識に入ってくるので。そしたら味方のミスが出たりしても『じゃあ次は助ける番だ』となるので」
ブルペンで肩を早めに作りあげ、意識的に交ざるようにしてきたルーティン。今季は惜しくも9勝にとどまったが、阪神に移籍した3年間では32勝を挙げた。成績や数字が給料に直結する職業である一方、自身は「抽象的なものの方が大事」。たどり着いたのが、勝つためにどう貢献するかというシンプルな意識だ。
「数字とかお金とかのためにやると、僕はうまくいかないイメージがあって。チームが勝つためにやって、結果的に数字が個人的に戻ってくる。先発で週1回しか出ないからこそ、大事にした方がいい。僕の場合は1人で抱え込んでしまう性格でもあるので、1人じゃない感覚が結構大事で」
チームで戦う一方、マウンドに立てば相手打者との1対1の対決。まして自身の結果が勝敗に直結するピッチャーのポジションでは、我を出して気迫をぶつけて戦わなければいけない場面も当然出てくる。団体競技であり、個人競技の側面も持ち合わせる野球というスポーツ。そのバランスに重きを置くからこそ、ソフトバンク時代から大切にしてきた言葉がある。
「チームでという意識がすごく大事だし、もちろん我を生かす部分も大事。それはバランスだと思う。大事にしている言葉で、『中庸(ちゅうよう)』という言葉があるんですけど」
東洋医学などの用語で、偏りなく常に中心を取ることを意味する。福岡で通っていた治療院で出会った言葉だという。普段は冷静ながら、ピンチを抑えた際には表情を破顔させて相手を抑える左腕。メンタル面でも応用してきた言葉だ。
「試合に入るメンタルで言えば、普段通りリラックスしている感覚と、試合に向けてテンション上げて興奮させていくことのどちらに振れていてもダメ、みたいな」。
今季、8月12日の広島戦では5回途中9安打7失点。得意としてきた相手に対し、移籍後ワースト失点を喫した一戦だ。同戦を大竹は「リラックスに振れすぎていた」と回想する。
「逆に2年前はリラックスができなくて。ずっとテンションがワーッっていう状態で1年間やっていた。どうやってリラックス側に寄せるかをトレーニングしたら、次は(リラックス)できすぎるようになって」
10月30日の日本シリーズソフトバンク戦では、6回3安打無失点の快投を披露した。負ければ終戦、古巣との対戦、大熱狂の甲子園…。感情を揺さぶる要素は山のようにあった中、心身ともに完璧なバランスで臨んだことが想像できた。身体面はもちろん、心の面でも繊細に考え方を日々アップデートしてきた左腕。師匠とあがめる和田毅の背中を追い、深みを増していく投球術が来季も楽しみだ。