GI有馬記念(中山・芝2500m)の昨年と今年の違いは「軸」があるかどうか、だろう。 昨年は、確たる「軸」と目されてい…
GI有馬記念(中山・芝2500m)の昨年と今年の違いは「軸」があるかどうか、だろう。
昨年は、確たる「軸」と目されていたドウデュースがレース直前に回避。それによって、菊花賞馬のアーバンシックが押し出される形で1番人気となったが、「軸」とするにはあまりにも頼りなく、実際に6着敗戦。3連単の配当が19万円超えという波乱となった。
しかし今年のレース(12月28日)では、しっかりとした「軸」がいる。昨年の有馬記念で5番人気の低評価を覆して勝利したレガレイラ(牝4歳)である。
エリザベス女王杯を快勝し有馬記念に挑むレガレイラ
photo by Eiichi Yamane/AFLO
前走のGIエリザベス女王杯(11月16日/京都・芝2200m)も難なく勝って、戦前の評価も「有馬記念連覇濃厚」といった声が次第に大きくなっている。関西の専門紙記者もこう語る。
「エリザベス女王杯は、牝馬同士の戦いで相手も弱かったとはいえ、まったく危なげないレースを見せて勝ちましたからね。馬が昨年よりもワンランクスケールアップした、という印象です。馬体面もトモがパンとしてきた、というのが大きい。それゆえ、歩様に緩さがなくなって、課題だったゲートも普通に出るようになりました。
レガレイラは競走馬として、完成の域に入ったと言えると思います。有馬記念でも勝ちに一番近いところにいるのは、この馬でしょう」
レガレイラが「軸」としてさらに強調できるのは、中山では無双とも言える強さにある。2歳時にはGI昇格後のホープフルS(中山・芝2000m)で牝馬初の優勝を果たし、昨年の有馬記念では歴戦の古馬を相手に勝利。3歳牝馬として、実に64年ぶりの戴冠を遂げた。
今年に入ってからも、GIIオールカマー(9月21日/中山・芝2200m)を完勝。牝馬ながら57kgという斤量を背負って、曲者ぞろいのメンバーを一蹴している。
ここまで、中山では4戦3勝。しかも、そのうち2勝が強豪牡馬相手のGIというのは見逃せない。
有馬記念では中山コースの得手不得手が、時にモノを言う。その点、レガレイラには何ら不安はない。というよりも、レガレイラの中山巧者ぶりは、有馬記念連覇への強烈な追い風となるに違いない。
ただ、今年の有馬記念において、レガレイラはかなり信頼できる「軸」ではあるが、「1強」と言われるまでの評価は得ていない。「打倒レガレイラ」を掲げるライバルもまた、強力なのだ。
その代表格となるのが、皐月賞馬のミュージアムマイル(牡3歳)と、昨年のダービー馬で今春の海外GIドバイシーマクラシック(4月5日/メイダン・芝2410m)を制したダノンデサイル(牡4歳)の2頭だ。
この2頭がレガレイラに並ぶ評価を得ているのは、それぞれの実績はもちろんのこと、その臨戦過程から有馬記念にしっかりと照準を合わせてきた点が挙げられる。それというのも、この2頭も中山を得意としているからだ。
ミュージアムマイルは、中山で3戦2勝。先述のとおり、クラシック初戦のGI皐月賞(4月20日/中山・芝2000m)では圧巻のレースを披露し、この秋初戦のGIIセントライト記念(9月15日/中山・芝2200m)でも着差以上の強さで勝利を飾った。
ダノンデサイルも、中山では3戦2勝。3歳時のGIII京成杯(中山・芝2000m)で重賞初勝利を決め、今年初戦のアメリカジョッキークラブC(1月26日/中山・芝2200m)でも強い競馬を見せてドバイでの勝ち星につなげた。
さらに注目すべきは、2頭のジョッキーだ。
ミュージアムマイルの鞍上を務めるのは、先週のGI朝日杯フューチュリティSをカヴァレリッツォで勝って勢いに乗るクリスチャン・デムーロ騎手。同騎手は昨年の有馬記念でも10番人気のシャフリヤールに騎乗して、レガレイラとの叩き合いに持ち込んだのは記憶に新しい。
一方、ダノンデサイルの手綱を取るのは、戸崎圭太騎手。レガレイラとのコンビで昨年の有馬記念、この秋のエリザベス女王杯を制しながら、今回の大一番ではレガレイラではなく、ダノンデサイルをチョイスした。
先の専門紙記者によれば、「今回の有馬記念に向けて、戸崎騎手はダノンデサイルに乗るため、レガレイラ陣営に断りを入れた」という。それが本当ならば、ダノンデサイルに相当な手応えを得ていることになる。
そういったことを含めて、レガレイラは「軸」として信頼はできるものの、「1強」ではないのだ。どちらかというと、関係者の間では今年の有馬記念は「3強」といった見方が強い。
しかしながら、この「3強」で決まりか? というと、そんなことはない。ここに来て、競馬サークル内での評価が上昇している"穴馬"がいるという。先述の専門紙記者が言う。
「今回の有馬記念が引退レースとなるジャスティンパレス(牡6歳)です。GIでは善戦タイプで、いつも掲示板の下のほうにいる印象がありますが、こういう馬が最後の最後で激走するのが有馬記念です。
聞いたところによると、この秋のGI天皇賞・秋(3着。11月2日/東京・芝2000m)でこの馬に初めて乗った団野大成騎手を、陣営が『(ジャスティンパレスに)今までで一番うまく乗った』と高く評価。レース後、早くも有馬記念での騎乗を依頼したようです。
今回のレースでは、道中インでじっと我慢して、最後の最後にタメていた脚を爆発させれば、チャンスはあるでしょう。勝つまではわかりませんが、『3強』の一角崩しは十分に可能。団野騎手なら、それができると思います。今年の有馬記念で劇的な"ドラマ"を演じるのは、この馬かもしれません」
何はともあれ、今年で70回目を迎える有馬記念。連覇を達成した馬は過去に4頭いるが、牝馬は1頭もいない。だが、そうした"壁"を次々に破ってきたのが、レガレイラである。
思えば今年、「ガラスの天井」を打ち破って、日本で初めて女性総理が誕生した。その年を締めくくる大舞台において、ドラマの主役を演じるにふさわしいのは、やはり牝馬のレガレイラなのか。
注目のゲートインまで、まもなくである。