「猛虎リポート」~V投手陣の舞台裏~阪神は今季、史上最速リーグ優勝を決めながら日本シリーズではソフトバンクに敗れ2年ぶり…

「猛虎リポート」~V投手陣の舞台裏~

阪神は今季、史上最速リーグ優勝を決めながら日本シリーズではソフトバンクに敗れ2年ぶりの日本一奪回は持ち越しになった。今季の戦いで、伝えきれなかった投手陣の舞台裏を「猛虎リポート」で随時掲載します。第1回は石井大智投手(28)。レギュラーシーズンで日本記録の50試合連続無失点を打ち立てた鉄腕が、ポストシーズンでは極限状態から、守ってきたルーティンを忘れた日があったという。【波部俊之介】

   ◇   ◇   ◇

バックスクリーンに向かって目を閉じる。グラブごと両手を胸に当てて一礼。そして目を開き、ぴょんと飛び跳ねてマウンドに上がる。石井がシーズン中から欠かさず続けてきたルーティンだ。

「日本の武道は礼から始まる。何かで見て、やっぱり人間の中で一番強い感情は感謝なんだなと」

礼から始まる日本の武道にならう。目をつぶり、いつも思い浮かべるのは家族の顔だ。妻や1歳の愛息への感謝を、頭の中で巡らせる。「いつもありがとう。これから、パパ頑張るね」。最後は目を開き、見に来てくれたファンの姿を見渡し、感謝の思いを再確認。周囲へのありがたみをかみしめ、日々マウンドに上がってきた。

今季は前人未到のシーズン50試合連続無失点など、異次元の成績を残した。しかし、この1年間で唯一、一連のルーティンを忘れた試合があった。10月15日、CSファイナルステージDeNA戦の第1戦。7回から回またぎで登板だった。

「忘れていたというか、頭の中から消えていた。そんなことなかった。だから普通の精神状態じゃなかったんだろうなと」

2イニング目の登板時に気がついたという。阪神のポストシーズン初戦となった同戦。シーズン最終戦となった10月2日ヤクルト戦から、中12日空いていた。対照的に球場の熱気は今季一番ともいえるボルテージ。石井は昨季のCSでオースティンから適時打を放たれた経緯もあり、普段以上の緊張感があった。

「去年、CSで打たれたっていうところもあって。いわゆる緊張というものをしていたと思う」

ポストシーズンは計7試合に登板。ソフトバンクとの日本シリーズでは4試合に登板したが、最後の最後、勝利目前で柳田に今季唯一の被弾となる同点2ランを浴び、チームも敗退した。実際、シリーズ中から石井は相手打者の対応にかなりの違和感を感じていた。

「『こういう球を投げた時に、こういうスイング軌道できて、こういう打球になるんじゃないか』という想像が外れるので。打ち取ったとしても、そういう打球になる確率が低かった」

シーズン中は全打者の全球のアプローチを頭に入れて臨んできた。カウントやボール別のバット軌道などを分析し、自身の中で作戦を決定。イメージを凝らし、抑えられる確率の高いボールを投じてきた。年間の戦いで繰り返し磨かれ続けたセ・リーグ球団との戦い方に、ズレを感じていた。

「(セとパで)考え方が違う。(もくろみが)外れたのが『力の差』として感じたところだったんですけど、そもそも考え方が違ったんじゃないかと。そっちの方が筋が通るんです」

6月初旬、打球の頭部直撃で戦線離脱したこともあり、ソフトバンクとは交流戦で対戦できなかった。自身が蓄積してきたデータが少なかった影響もあったようだ。その分、来季以降に向けた伸びしろは感じている。日本シリーズの「答え合わせ」も楽しみにしている。

「今年日本シリーズで感じたところをやってみて。交流戦なのか、日本シリーズかは別として。それがどうなるのかというのは、すごく気になるところです」

2年ぶりに浴びた1発も糧に、石井の飛躍はまだまだ続く。