皇后杯のファイナリストが決まった。INAC神戸レオネッサとサンフレッチェ広島レジーナが、元日の国立競技場で激突する。両…

 皇后杯のファイナリストが決まった。INAC神戸レオネッサとサンフレッチェ広島レジーナが、元日の国立競技場で激突する。両チームが激闘を繰り広げた準決勝2試合の模様を、日本の女子サッカーの「今後の展望」とともに、サッカージャーナリスト後藤健生が検証する!

■漂った「番狂わせ」の予感

 そして、その後もいくつかのチャンスをつくり、スタジアムにも「もしかしたら」という空気が流れた。

 だが、皇后杯での初失点にもINAC神戸レオネッサは動じなかった。

「準備してきた」というセットプレーから2点を奪って逆転して、伊賀FCくノ一三重に傾きかかった試合の流れを引っ繰り返してしまったのだ。

 65分にはゴール正面のFKを松原優菜が浮かせて、走り込んできたDFの太田美月が頭で合わせて同点。そして、I神戸の宮本ともみ監督は「点が取れる選手」としてベテランの高瀬愛実を投入。75分には、その高瀬が逆転ゴールを決めた。

 今度もFKからだった。左サイドからのFKを伊賀のGK後藤優香が弾いたところを成宮唯が折り返してゴール前に混戦をつくり、こぼれたボールを高瀬が決めたのだ。

 前半から守備に走り、前半の終わりから後半のはじめの時間帯にかけて前からプレッシャーをかけて善戦した伊賀には、もう反撃のエネルギーは残っていなかった。何度か、ロングカウンターのチャンスをつくりかけたもののI神戸のゴールは遠く、89分にはクリアボールを拾われて、日本代表にも定着しつつあるI神戸のFW吉田莉胡にダメ押し点を奪われた。

 終わってみればI神戸が3対1で確実に勝利した試合だったが、伊賀の健闘で後半までスリリングな展開となった。

 I神戸はまさかの先制ゴールを奪われた場面でもまったく慌てなかった。「いざとなったら、セットプレーで点が取れる」という意識があったからなのだろう。相手の背後を取ることでセットプレーの数も増やし、そして、デザインされた形で2点を決めてみせた。

■C大阪に降りかかった「不運」

 もう一つの準決勝では、3回戦で日テレ・東京ヴェルディベレーザを破ったサンフレッチェ広島レジーナが、セレッソ大阪ヤンマーレディースを3対2で破って決勝進出を決めた。

 広島は現在WEリーグで6位、C大阪は8位という順位となっているが、広島はかなり完成度の高いチームなのに対して、C大阪はもともとが育成型のクラブで、WEリーグ創設から3シーズン目の2023-24シーズンから加盟したチームだ。

 さらに、昨シーズン、ベレーザの監督としてWEリーグ初優勝を成し遂げた松田岳夫氏を監督に迎えたばかりで新しいチームをつくっている段階だ。

 前半の入り方としてはC大阪のほうがよかったかもしれない。テクニックを活かし、ショートパスをつないで攻撃の形をつくっていく。ボールが動くのと連動して選手が動いてスペースに入る。そこにパスがつながって、さらに裏のスペースを使う……。

 脇坂麗奈と宝田沙織のボランチコンビがゲームを組み立て、サイドハーフの百濃実結香にSBの中谷莉奈が絡んでC大阪が左サイドから広島ゴールに迫っていく。

 ところが、12分には広島にあっけない先制ゴールが生まれた。右サイドハーフの李誠雅にボールが入り、李誠雅がクロスを上げると、そのクロスがやや流れて19歳のGK名和咲香の頭上を襲う形となり、そのままクロスバーをかすめてゴールに飛びこんでしまったのだ。

 不運な失点だったが、それでもC大阪はその後もパスをつないでボールを運ぶことができていた。だが、20分には広島が、左サイドで中嶋淑乃からの逆サイドまで届くクロスをFWの上野真実が折り返し、小川愛が絡んで最後は中嶋が決めた。効率的な2ゴール目でリードを広げた。

 こうして、試合はその後、広島が完全にコントロールするようになる。

■後半は「一方的」な試合も…

 攻撃を受けていた時間は下がり目のポジションでC大阪のボランチをチェックしていた小川も、セカンドトップとして攻撃の最前線にポジションを上げて、広島の攻撃は厚みを増した。

 そして、33分には中嶋が落としたボールを左SBの藤生菜摘が拾い、強烈なミドルシュートを突き刺して広島のリードが3点に広がった。

 C大阪はパスを回すテクニックは素晴らしかったが、ゴール前に進入する迫力が足りなかったし、トップでボールを収められる力を持った選手が足りず、「決定機」をつくれなかった。

 そして、後半も広島が攻勢を強め、46分には右SBの島袋奈美恵のロングシュートがC大阪ゴールを襲い、48分にはCKのこぼれ球を柳瀬楓菜がクロスを上げ、DFの市瀬千里が頭で合わせるなど決定機が何度かあった。さらに、53分にはゴール正面でフリーになった上野の強烈なシュートがポストをかすめる。

 こうして、後半は広島の一方的な試合になったように見えたが、広島は4点目を決めることができなかった。

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