東京五輪を3年後に控える現在、柔道の母国ニッポンの男子重量級は、エース不在の状況だ。 100キロ超級のリオ五輪銀メダリスト・原沢久喜は不振の印象が色濃く、今春の全日本選手権で連覇を達成した王子谷剛志に次ぐ二番手の立ち位置に後退している…

 東京五輪を3年後に控える現在、柔道の母国ニッポンの男子重量級は、エース不在の状況だ。

 100キロ超級のリオ五輪銀メダリスト・原沢久喜は不振の印象が色濃く、今春の全日本選手権で連覇を達成した王子谷剛志に次ぐ二番手の立ち位置に後退している。その王子谷と原沢は8月にブダペストで開催された世界選手権100キロ超級に出場するも、ともにメダルには届かなかった。

 同大会では東海大4年のウルフ・アロンが100キロ級を制し、初めての世界一に輝いた。しかし、リオ五輪の同階級銅メダリストの羽賀龍之介は2回戦で一本負け。柔道男子の重量級戦線はまさに群雄割拠。若手にもチャンスが広がり、東京五輪に向けた代表レースは混沌としている。

 そして、世界選手権代表が不在のなかで争われた今年の講道館杯(11月11日、12日千葉ポートアリーナ)は、虎視眈々と代表の座を狙う若手の活躍が光った。



講道館杯でシニア大会初となる日本一を達成した小川直也氏の長男・小川雄勢

 100キロ超級では柔道王・小川直也氏の長男である雄勢(明治大3年)がシニアで初めての日本一。190センチ、137キロの体格を生かした左組みから相手の奥襟を掴んでいく柔道は、まさに父親譲り。相手を組み伏すような直也氏の豪快さとは異なるものの、決勝では明治大学の先輩であり、ロンドン五輪の同階級代表である上川大樹を大内刈り「一本」で破った。

「去年、この大会で負けて、ライバルたちとの差が広がってしまった。ライバルは世界大会とかに出ているのに、自分は何をしているんだろうって、悔しい思いをしました。自分は技が切れる選手ではないし、センスもない。地道に努力するというのが僕のスタイルです」

 課題は、雄勢自身も口にしているように、一発で仕留める技がないことだろう。その点に関し、父親である直也氏は、以前こう語っていた。

「得意技がないのがアイツの弱点。今はいろんな技に取り組んでいて、それがバリエーションの豊富さにはつながっているけど、どうしても(成長を)急いでいるように見えるし、このままでは”二兎を追う者は一兎をも得ず”になりかねない。技は1年にひとつずつ磨いていけばいいとは思うけど、今はあえて何も言いません。俺の柔道を継ぐ以上は、俺のような柔道家を目指してほしい」

 その小川に体格で勝るのが、身長189センチ、体重が実に160キロに迫る斉藤立(さいとう・たつる/国士舘高校1年)だ。2015年に亡くなった柔道界のレジェンドである斉藤仁氏の次男であり、顔だけでなく、試合中のちょっと落ち着きのないように首を左右に振る仕草までうりふたつ。

 シニアデビュー戦となった講道館杯では、初戦(2回戦)を父親の得意技である体落としで勝利。しかし、3回戦では倍近い年齢の社会人選手に強引に技を掛けたところを返され、抑え込まれた。

 しかし、大器の片鱗は見せた。敗戦後、報道陣の前に現れた斉藤は、やはり首を左右に振りながら、強気な発言も残した。

「技の威力に関しては、シニアの選手たちと差は感じませんでしたが、組み手と寝技がまったく手応えを感じられなかった。来年もこの大会に出場してリベンジし、国際大会とかにどんどん出場していって、この階級で一番強い相手をぶん投げたいです」

 さらに100キロ級では、高校生ながら今年2月のパリ・グランドスラムを制し、あらゆる柔道関係者が「天才」「怪物」と、その才能を評価する飯田健太郎(現在、国士舘大1年)が国内のシニア大会で初戴冠。体幹が強く簡単には相手に崩されない受けの強さを備え、右組みから井上康生(現・男子チーム監督)を彷彿とさせる内股に加え、10分近い試合となった準決勝で勝負を決めた「俵投げ」も大きな武器だ。

「自分の課題にしてきたスタミナについては、去年と比べて長い時間を戦うことができた。あらゆる稽古で、自分をとことん追い込んだあとの、さらにもう一本を意識的に取り組んできた。その成果は出せました」

 1年前は体重90キロ台で、減量することなく100キロ級の試合に出場していた。当時、「いずれは普段104キロぐらいの体重で、試合前に100キロまで減量するような体格で戦っていきたい」と話していたが、食事とトレーニングによって、理想的な体を手に入れた。試合では、昨年までは掛けなかった背負い投げを仕掛ける場面もあった。背の高い外国人選手対策だという。

 飯田がターゲットにする柔道家はひとりしかいない。現在、飯田が4連敗中のウルフ・アロンだ。現・世界王者に勝たなければ飯田の世界選手権の道も、東京五輪の道もない。

「パワーとスタミナで差がある。4連敗しているので、(12月の)グランドスラム東京ではウルフさんと対戦するところまで勝ち上がって、絶対に勝ちたい」

 グランドスラム東京や来春の選抜体重別選手権の結果によっては、来年、アゼルバイジャンのバクーで開催される世界選手権代表の顔ぶれがガラリと変わっている可能性すらある。

 混沌とする男子の重量級戦線から抜け出す柔道家は現れるのか――。